民法改正で売主責任が重く!?

2021年05月21日

2020年4月、約120年ぶりに民法が改正されました。

改正民法では「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わりましたという話を聞いたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

 

が、具体的にどのような変化があったのか理解ある方は、まだまだ少ないです。

それどころか、改正民法による最高裁判例はまだなく、実はみんな手探りというのが実情です。

 

今回は、旧民法では逃れることができたが、改正民法では売主が負うことになる責任の『具体例』をご紹介します。(民法の変更点をまとめた記事はこちら

 

H様の事例

H様は、70代・女性のアパートオーナー。夫からの相続で築38年の木造アパートを所有していました。大家として入居者対応やリフォームを楽しんでいた夫とは違い、賃貸経営を負担に感じたそうで、K様という30代の夫婦に「瑕疵担保責任免責にて」アパートを売りました。

 

K様は、古いアパートを壊し、ご自宅を建築する目的で購入しました。

入居者に立退交渉を行い、建物を解体し、家の基礎を設けるために地中を掘ったところ、なんと大量の廃材が出てきました。廃材撤去には300万円かかります。

この経費は頭になかったK様は、売主であるH様に事情を説明し、撤去費用を売主様に負担いただけないかと相談します。

 

H様は驚きます。アパートの前は田んぼだった土地です。なぜ廃材が出てきたのか検討もつかなければ、300万円は売買代金の利益から出せるとはいえ、老後資金のための大切なお金です。困ったH様は弁護士に相談しました。

弁護士曰く、土を埋めるべきところを廃材で地上げする粗悪な土木工事は、規制の緩かった時代にはよくある話で、売主に落ち度はないとのこと。そして、瑕疵担保責任免責にて売買したのですから「売主の知らなかった瑕疵(隠れたキズ)について補償する必要はありません」と、買主の申出をきっぱりと断ってもらいました。

 

これが、旧民法における瑕疵担保責任免責です。

 

旧民法では、売主に悪意や過失がある場合の損害賠償を請求することは可能でしたが、その立証責任は買主にありました。

そして、善意無過失の売主に対しては、責任追及ができませんでした。

 

民法改正の目的と売主責任

H様の事例では、売主H様は助かりましたが、想定外の出費が生じた買主K様は気の毒でしたね。

 

そこで、改正民法ではこの可哀そうな買主を保護するために「①見つけることの難しい瑕疵(隠れたキズ)という考え方を止める」そして「②買主の購入目的に合わない欠陥について責任を問える」ようになりました。

 

これは隠れていても、いなくても、買主は売主に対して契約不適合責任を追及できるように改正されたということです。

 

契約不適合責任では契約書に「書かれていたかどうか」が問題になります。

 

たとえば、雨漏りについて買主が了承していて、売買契約内容に「この住宅は雨漏りしていますが、それを容認して買います」という記載があれば、雨漏りについての契約不適合責任は負いません。しかし、別の問題(白蟻など)が見つかれば、その問題は責任が問われますので、項目ごとに物件のマイナス要因を列挙し、すべて買主に容認させなければ、売主の責任は免れません。

 

ちなみに、この項目ごとの列挙を省略し、契約不適合責任を全て免責とする方法には、様々な意見がありまして、民法より不利な特約は無効とされるリスクから弊社では薦めていません。

 

H様の事例に戻りますと・・・

 

改正民法で契約していた場合には、300万円の廃材撤去費用を負担することになったでしょう。

 

なぜなら、H様は地中に廃材があることを知りませんでしたので、契約書に地中に廃材があることを買主K様に容認させて売ることができないからです。

 

具体的には、K様は自宅を建てる目的を達成するためには、地中の廃材の撤去が不可欠ですので、売主H様に、通常に使用できるようにしてくださいと「追完請求」が可能です。

もし、売主H様がその請求を拒否しても「代金減額請求」にて、買主K様が追完のためにかける費用を取り戻すことが可能です。

 

売主H様は、善意無過失であっても、契約不適合責任から逃れることが不可能です。

 

「知らないことの責任を負わなくてはいけない怖さ

 

これが、契約不適合責任において、売主責任が重くなったと言われる所以です。

 

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