がけ地における住まいの安全を考える

2021年07月15日

大阪で起きた住宅崩壊、熱海の土石流被害、痛ましいニュースが続き、被災された方々へ心よりお見舞い申し上げます。

ここで何かを言うことで被災者が救われるわけではありませんが、せめて同じような被害を生まない一助になればと、今回は『がけ地の安全性』について情報発信いたします。

 

ふたつのニュース、規模も原因も異なりますが、共通点があります。

それは「がけ地」または「急傾斜地」であり、平坦な土地ではない(=高低差のある土地)ことです。

 

建物は、その土台となる地盤が崩れてしまえば、当然、崩壊します。

 

そうならないための規制が「建築基準法」や「宅地造成等規制法」や「がけ条例(県条例など)」です。ほかには、開発行為にて安全を確認するケースもあります。

 

さらに、危険度の高い箇所は土砂災害防止法にて「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」に指定されます。ときに「家が建てられない」なんてこともあります。すべての建築ができないものではありませんが、リスクの高い場所に家を建てたい方は少なく、結果、土地の資産価値は大きく下がってしまいます。

近年の自然災害の被害拡大により、この規制区域は年々増加しております。

 

大規模な自然を相手にするとなると、やはり危険箇所を避けるのが一番有効かつ確実な防御策になります。

 

しかし、人の力で安全を守る努力はできます。「擁壁(ようへき)」を造るのです。

 

危険ながけと整備された擁壁

整備されたがけ

上の図は、危険ながけと整備された擁壁の対比です。

 

整備されたがけは「コンクリート造擁壁」と「間知ブロック擁壁(練積み工法)」の図になります。現行基準で安全と見なされるのは主にこの2種類の擁壁です。

 

コンクリート造擁壁

コンクリート擁壁は無筋コンクリートと鉄筋コンクリートに分けられます。構造計算が容易で崖に対して垂直に建てやすい特徴があります。最近の住宅では、鉄筋コンクリート造擁壁を使用することが一般的です。コンクリート造の擁壁の底版には「逆T字型」「L型」「逆L型」「重量式」「もたれ式」などがあり、立地条件に合わせて適切な構造を使い分けていきます。

 

図をよく見ていただくと、地中にて住宅に向かって擁壁がL字になっていますね。この図は「L型コンクリート造擁壁」なのです。

 

このように、地中の底板と強固なコンクリートの壁で地盤をしっかり支えるのが、コンクリート造擁壁です。

 

水抜き孔がしっかり描かれているのもポイントです。

 

雨水などが溜まり続けると、想定外の水圧で擁壁に不可がかかってしまいますから「孔がない」「孔がつまっている」は注意すべき擁壁です。なお圧に耐え兼ね「膨らんでいる」「ひびがある」擁壁は言うまでもなく危険です。

 

間知石または間知ブロック擁壁(練積み工法)

間知石または間知ブロックを用いた擁壁は、大きさの揃った間知石またはブロックを積んで造られます。「間知石」は大きさが一定ではありませんので、現在は入手の難易度・施工の行いやすさの観点で間知ブロックが主流になってきました。

 

積み方は水平方向に積む布積みや斜めに積む矢羽積みなどがあります。

 

図では「間知ブロック擁壁」「布積み」が描かれています。

 

どうしても擁壁に角度がつくので敷地の有効面積が減りますが、施工費がコンクリート造擁壁より安価なため、敷地にゆとりがある場合や、道路の側面などで多く見かけると思います。

 

間知石または間知ブロック擁壁は、裏側をコンクリートで固めたり、割石などを詰めたりする「練積み」という工法でないと、現行基準を満たしません。

 

このブロック裏側を固めるところがポイントになる理由は、裏側を固めない「空石積み」は長い年月の間に裏込め土が流失することで、強度が著しく低下しやすく、危険だからです。

 

大阪の崩壊した擁壁は、裏込め土と石だけでつくられた古い「空石積み」だったことが判明しました。

 

通常は「空積み」を用いるのは高低差の少ないところです。

 

しかし、古い擁壁の一部はこの「空積み」の状態にて存在しており、見た目で裏側の工法を判断することは困難です。また石積みの擁壁にも種類がありますが(玉石・大谷石など)、種類がわかることよりも、古い擁壁にはともかく注意することが重要です。

 

これは、裏技?

不動産・建築に携わる人間は知っているのですが、安全な擁壁か否か、すぐに判明する方法があります。

 

建築確認申請(工作物)の履歴を確認しましょう。福岡市の場合は建築指導課にて住所や施工主から調査できます。

 

確認済→構造計算に問題なかった擁壁

※確認申請がない場合:建築基準法上の安全が確認できない擁壁となります。

 

検査済→施工後の完了検査でも問題もなかった擁壁

※検査なしの場合:計算通りに施工された証明がない擁壁になります。

 

もちろん、これらの履歴があっても、長い年月をかけて危険な状態に陥っている場合もありますので、今現在の状態はよく見てくださいね。

 

余談ですが、擁壁の所有者様は、自身の擁壁が公的記録にてお墨付きかどうか知っておくと売却時に役立ちます。

(価格に興味がある方は査定額に大きく影響する敷地の形や地形のコラムもご参考ください)

 

最後に

福岡市発行の「あなたの擁壁はだいじょうぶですか?」のチラシをご覧ください。

危険な擁壁の特徴がまとめられています。

 

皆様に何よりもお伝えしたいのは「危険な擁壁には近づかない!」

 

通学路でコンクリートブロックが倒れた悲しいニュースも記憶に新しいです。

 

あれは擁壁として積まれたものではありませんでしたが、コンクリートブロックの接合は脆弱なものなので、地盤を支える擁壁に使用されている場合はより一層気を付けてください。

 

そしてもし「危険を疑われる擁壁」の所有者様がいらっしゃいましたら、擁壁の倒壊により「ご自身・ご家族・通行人」誰が傷つくかわかりません。その責任は所有者にかかってきます。すぐに対策しましょう。

 

このコラムが皆様の平穏な生活のための注意喚起に役立てば幸いです。

 

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