正直不動産副読本②「融資特約」
2022年07月21日
NHKにて好評のまま最終回を迎えた山ピー主演の「正直不動産」を見て悪い不動産屋の多いことに戦慄する声をよく聞くこの頃、ついに、正直不動産公式副読本「不動産業者に負けない24の神知識」という書籍が出版されましたね。
悪い不動産屋のあの手この手を紹介しております。
正直不動産を自負するR産託コンサルタンツとしても、これは無視できません。
当社なりに、事例解説を行いますので、皆様の一助になれば幸いです。
『第二章「融資特約」』
「融資特約」とは?
不動産の買主が、金融機関やローン会社からの融資を前提として、不動産を購入しようとしているとき、融資を受けることができなければ、不動産の購入自体ができなくなる可能性があります。
そのため実際の不動産取引では、あらかじめ予定していた融資が金融機関等によって承認されなかった場合に、買主は不動産を購入する契約を解除して、契約を白紙に戻すことができるという特約を盛り込むことがあります。こうした特約を「融資特約」や「ローン特約」と呼んでいます。
「融資特約」は買主が一定の場合に解除権を行使することを認める特約ですが、その特約の文言の解釈や適用をめぐって紛争になることが少なくありません。
具体事例
この度の買主:にほ様は、妻いろは様と共同名義で、住み替えのためのマンションを購入したいというお客様です。
にほ様は、ともに40代のご夫婦。いろは様の親から相続した郊外にある築38年の6DKの戸建に住んでいます。ローンはありませんが、戸建は築年数が経過し設備の不具合が気になり始めました。家族構成はご夫婦とペットの小鳥が2羽。お二人とも正社員で年収は1,500万円と700万円。管理が行き届いていて、新築より安価な中古マンションに惹かれる気持ちが高まったところに、駅近・築8年という素敵な2LDKの物件に出会い、ご契約を決心しました。
・頭金あり(マンション価格2,300万円のうち500万円と諸経費を自己資金でご用意)
・M銀行に夫婦ペアローンの事前相談を行い、承認(内諾)も得ています
・借入額:ご主人様1,000万円/妻いろは様800万円
返済期間:20年
返済比率も抑え、定年退職前の完済予定と、資金計画にも無理はありません
このマンションの売主:へと様は、転勤が決まっており、早く確実な方と契約したいと思っていました。もう1件、30代の夫婦からフルローンで購入したいとの申込もあったのですが、より資金計画に無理のない にほ夫妻と契約することを選択します。
それなのに・・・契約締結から手付解除の期間も過ぎた3週間後、融資特約による白紙撤回を通知され、売主様と仲介業者は預かった手付金や仲介手数料を返還。労力と時間を失い、酷く落胆することとなりました。
「ローン壊し」
こちら「ローン壊し」の手口に嵌ったケースです。
通常は不動産売買契約を締結するということは物件を気に入って「欲しい」と気持ちが決まったからこそであり、もしもローンが不調でも、なんとか金策を講じて、決済を迎えたいという買主様がほとんどです。
しかし、にほ夫妻はそうではありませんでした。
このマンションの取引は共同仲介にて、にほ様に入れ知恵した宅建士:ちり ぬるを の存在があったのです。
本当にこのマンションで決めていいのか?駅近ではあるが、通勤に1番便利な路線でない。諦めきれない子どものことを思うと3LDKの方がいいのでは・・・まだ迷いのあったにほ夫妻に、ぬるをが言います。「とりあえず契約しないと!誰かに取られたらお終いですよ?」
「契約しても手付解除もできますし、融資特約をうまく使えばお金の負担なく、契約を止めることもできますから!とりあえず契約しましょうよ」
信義則的にどうなのという疑問は「大丈夫ですよ。みんな上手いことやってるんです。綺麗ごとで損するのはにほ様ですよ?」と囁き、強引に契約を勧めました。
自宅を何度も買う方は少ないのですから、より良い物件があれば乗り換えたいというのは買主としては自然にいだく感情です。ですが、取引相手である売主にとっては、簡単にやっぱり止めたなんて、とんでもないことですので、仲介会社が契約を不安定にするようなことを唆すことはあってはならないこと!なのですが・・・
宅建士がそう言うなら・・・買主心理をくすぶってしまいますよね。
そして、にほ様は後日、売買契約を結んだマンションよりも理想に近い物件に出会ってしまいました。
M銀行ではない金融機関を利用して、より理想に近いマンションを購入することしたにほ夫妻、締結中の売買契約をどうにかしなくてはいけません。
そこで、ぬるをの言う通りに融資特約を適用させるために動き始めます。
まず、いろは様が「やっぱり共有名義は嫌」と主張を変えます。
当初の見通しと異なることに戸惑うM銀行担当者ですが、にほ様の単独ローンでも、年収の高い方なので大丈夫だろうと、条件を変えてもう一度審査をやりなおします。
無事、にほ様は単独でも審査が通り、本申込に進めることになり一安心。
ところが・・・今度は、にほ様が「実は脳梗塞で救急搬送されたことがあるんだ」と団信の引き受けができない告知(しかも嘘)を後出しします。
こうして、にほ様夫妻はM銀行の融資申込が非承認となり、融資特約にて売買契約を白紙に戻しました。
融資特約の悪用は許されるの?
結論を先に言います。ここまで悪質なケースは許されません。理由はふたつ。
①共同名義での購入予定を変更している
②当初告知しなかった傷病歴があった(しかも虚偽)
金融機関から示された見通しに沿った内容で申込みをしていないこと、嘘をついたことは、やはり許されるものではありませんが・・・売主が泣き寝入りしたり、争いになっても嘘を突き通せたり、難を逃れるケースも存在しています。
でもばれたら「違約金」です。
また、申込の金融機関を変えても保証協会で紐づいておりますので、本命の住宅ローン審査に悪影響を及ぼすこともあります。
二兎を追うもの一兎も得ずという結果に終わることもあり、まさに本末転倒です。
悪質なローン壊しを防ぐためにも売側の仲介業者は「こんなことまで!?」というヒアリングを行います。ちょっと煩わしいな、と思うくらいの不動産会社の方が、実は誠実で仕事ができるということ、覚えておいてください。
最後に、ここでローン壊しの手口を知ったとしても、悪いことはしないでくださいね。
【参考】根拠となる判例(東京地裁平成26年4月18日判決)
同判決は、一般にローン特約が売買契約に付される場合、売買契約の締結に先立ち買主側で金融機関に事前相談を行い、融資の見通しを示された上で売買契約を締結し、この見通しに沿って融資の申込み(本申込み)を行うことが予定されていることからすると、ローン特約が適用される融資の申込みとは、金融機関から示された見通しに沿った内容での申込みであるところ、買主らは、示された融資条件に沿った融資の申込みをしたということはできないとして、ローン特約に基づく解除を認めませんでした。