正直不動産副読本⑤既存不適格マンション

2024年11月13日

NHKにて好評の山ピー主演の「正直不動産」は、不動産屋の悪行を世間に知らしめる本当に良いドラマです。

2022年に出版された正直不動産公式副読本「不動産業者に負けない24の神知識」という書籍でも悪い不動産屋のあの手この手を紹介しております。

正直不動産を自負するR産託コンサルタンツとしても、これは無視できません。

 

弊社なりに、事例解説を行いますので、皆様の一助になれば幸いです。

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第五章『既存不適格マンション』

既存不適格建築物とは、法令等が改正されることにより生じる問題で、既に建っている建物のうち、改正後の新しい規定に適合しないものを指します。

 

原作の事例は、新築当初は決まりのなかった容積率が、後にできた制限により法令に適さなくなったケースです。

 

今回ご紹介する事例はこの「容積率オーバー」について、実際に取引にかかわったものです。

具体事例

情報保護のため多少の脚色はございますが・・・

ある日、自宅に隣接するマンション(鉄骨造4階建の一括売マンション)を資産整理のために売却したいと依頼いただいたY田様。

 

媒介契約を締結するにあたってのヒアリングの中で気になる一言が飛び出します。

「マンションを建てる時、建築士さんがきそん?適さない?マンションだからと言ってたのですが、何のことかわかりますか?」

 

実はこのマンションを一目見た時から感じた違和感「まわりの住宅と比べて大きすぎる」の理由が隠れていると思い、設計時の図面などをお預かりし、私はマンションの謎を調査することにしました。

答えは「建蔽率」と「容積率」

例えば「建蔽率50%」「容積率80%」の100坪の土地

建築可能な建物はこうです↓

現況図
違反図

しかし事例のマンションは建築面積70坪、延面積115坪、上限をあきらかに超えています。

そして見つけた答えは↑

 

なんと、隣接する自宅の土地をマンションの建築敷地に参入していたのです(役所調査にて確認申請の履歴を調べ、確証を得ました)

 

なるほど確認申請はあるものの現況と一致しないから既存不適格・・・違います!

これはもう「違反建築物」です。

違反建築物

この場合、自宅とマンションどちらが違反建築物でしょうか。

 

答えは・・・自宅です。

自宅は法令上求められる基準(建蔽率・容積率の基準)に違反しています。

 

行政は新しい申請を優先しますので、もしも違反建築物に対する除却命令がくだるとすればそれは自宅の方なのです。

最新の申請では自宅がないことになっていますので、その状態に正してくださいということです。

 

よってマンションは法令基準をクリアしていることになります。

 

しかしマンションもまた厳密にいえば違反建築物です。

確認申請(書類チェック)は通っていますが、検査済証(現地チェック)の交付を受けていないため手続違反が存在します。

 

こんなことがあるから、建築基準法はザル法と言われてしまうのです・・・

 

聞けば建築士さんはY田様の旧知の仲の方で、善意で収益率が上がる最善の方法を実行したとのこと。法の網を見事にすり抜けましたね(褒めてはいけない)

 

建築基準法は性善説に基づいての申請主義ですので、申請内容は正しいものとして書類上に問題がなければ許可を与えます。

そして中間検査や完了検査にて現地との照合を行うのです。

 

余談ですが、代表の白木は完了検査にて建物が6mm大きすぎるとわかり、サンダーで壁を削ったことがあるそうです。6mm削るとタイルの目地は消えるそうです。このように現場検証があれば厳密にチェックするのですが、手続違反への行政指導は甘く、融資利用がない方など、今でも確認申請だけでこっそり違反建築物を建てているとかいないとかは聞いたことがあります。

 

一昔前は、小規模な物件の場合、完了検査をする方が珍しいという時代でした。

平成初期よりも前の中古物件を購入する際には、行政に代わり自分が法令に適しているかを見抜けなければ、問題物件を買うリスクが高いのでご注意ください。

最終的に

このマンションは相場より安くすることで問題を容認する買主を見つけました。

違反建築物であるため、融資は難しく、行政指導の可能性がある物件ということを充分に理解していただいた方に販売いたしました。

 

売主様にとっては、制限を超えるマンションを保有していた間に得たインカムゲイン(賃料収入)は本来得られるもの以上でしたので、キャピタルゲイン(売却益)が下がったとしてもトラブル回避するメリットがありました。

 

そして、買主様は相場より安価に収益物件を購入できてにっこり。

実際のところ、近隣住民に危険を及ぼさない違反建築物に除却処分や使用禁止処分がなされることは稀でありリスクはそれほど高くないと判断されました。

 

すでに完成している不動産への行政処分は市民の財産権を侵害するため基本的に役所は逃げの姿勢なんですよね・・・これもまた建築基準法の闇ですね。

 

 

次回テーマは『負動産』です。