不動産用語集
あ行
IT重説
不動産取引における重要事項説明を、インターネット等を利用して対面以外の方法で行なうこと。宅地建物取引業法が定めている重要事項説明における対面原則の例外である。
IT重説の導入に当たっては、関係書類を十分に確認できること、双方向で確実にやりとりができること、宅地建物取引士が実際に説明することなどの要件を満たすとともに、消費者が不利益を被らないよう措置する必要がある。そのための条件等について検討・検証が進められ、不動産の賃借に当たっての重要事項説明に限って、一定の条件を満たす場合に、IT重説を対面による説明と同様なものとして認める運用がなされている。
IVS(国際評価基準)
不動産を含む資産の評価についての国際的な基準をいい、IVSはInternational Valuation Standardsの略語である。国際財務報告基準(IFRS)の採択など企業会計の国際的統一化の動きを背景に、財務諸表における資産評価の国際的基準として、国際評価基準審議会(International Valuation Standards Council)によって策定・提案されている。
IVSは、不動産だけでなくすべての資産や負債を評価の対象とし、市場価格(Market Value)を原価方式(Cost Approach)、比較方式(Market Approach)、収益方式(Income Approach)を基本として、市場参加者の視点から評価する方法を採用している。従って、日本の不動産鑑定評価基準と比較すれば、評価対象は幅広いが、その基本概念において同一で、手法についても整合的であると考えられている。
青田売り
完成する前に宅地や建物を売却すること。新築マンションや戸建分譲住宅の販売手法として広く使われている。
売主は事業リスクを回避し、早期に資金を回収できるなどの利点があるが、買主には、確実に建物が完成するかどうか、完成物での仕様や品質が予定どおりであるかなど、引渡しまでのあいだ不安が残りやすい。そこで、宅地建物取引業法では、宅建業者に対して建築確認前の広告や契約の禁止、手付金等の保全義務などを課している。
青地
登記所に備え付けられている公図において青く塗られた部分のことで、国有地である水路や河川敷を示す。「青道」ともいう。
青地は本来は国有地であるから一般の宅地にはならないはずだが、長い年月のうちに水路が事実上廃止されてしまって、青地を含む敷地に普通の住宅が建っていることも少なくない。
このような青地を含む敷地を持つ中古住宅を購入する場合には、青地(国有地)を国から払い下げてもらう手続きを踏むのが安全である。
青道
「青地」と同じ。それを参照。
なお、青地はもともと水路や河川敷であるが、その機能を失いあたかも道のようなかたちになっていることも少なくない。「青道」という名称は、このような土地の形状を反映したものと考えられる。
赤地
赤道
公図上で地番が記載されていない土地(無籍地)の一つで、道路であった土地をいう。
古くから道路として利用された土地のうち、道路法の道路の敷地とされずにそのまま残った土地がこれに該当し、国有地である。公図に赤色で着色されていることから「あかみち」と呼ばれている。
現に、道路でなくその予定もない赤道の払い下げを受けるには、用途廃止等の所定の手続きが必要である。
悪意
私法上の概念で、契約などの法律的な行為の際に一定の事実を知っていることをいう。
逆に知らないことを「善意」という。民法などの規定において、事実を知っているかどうかによって行為の効果に違いが生じることがあり、一般に悪意の場合には不利になる。
例えば、AがBに不動産を虚偽で売却したうえで登記をしたときにはAB間の取引は無効であるが、その登記済みの不動産をCが買収した場合に、CがそのAB間の取引が虚偽であることを知っていた(悪意である)ときには、ABはCに対して当該不動産の所有権移転が無効であると主張できる。しかし、Cが知らなかった(善意である)ときには、その主張はできない。悪意の場合には、善意の場合に比べて法的に保護を受ける効果が劣るのである。
アパート
英語の「アパートメント(apartment)」を略した言葉。
わが国では1階建てもしくは2階建ての共同住宅で、建築構造が木造または軽量鉄骨構造のものを一般的に指している。
しかし最近では2階建ての共同住宅であっても、重量鉄骨構造のものがあり、また外壁・内壁も軽量気泡コンクリートパネル等としているものもある。
このため、マンションとアパートの外観上・構造上の区別がつきにくくなってきている。
遺言
死後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいい、日常用語として、「ゆいごん」と読むことが多い。
その最大の役割は、遺産の処分について被相続人の意思を反映させることで、遺言がない場合は民法の規定に従って相続が行なわれる(法定相続)が、遺言を作成しておくと、遺産の全体または個々の遺産を誰が受け継ぐかについて自らの意思を反映させることができる。
また、遺贈の方法により、相続人以外の者に遺産を与えることも可能である。ただし、それが有効であるためには、民法に定められた方法で行なわなければならない。一般的には、遺言書の全文(日付と氏名を含む)を遺言者が自筆で記述して押印する自筆証書遺言、遺言内容を公証人に確認してもらってから公正証書にする公正証書遺言、遺言内容を秘密にして公正証書にする秘密証書遺言のどれかの方法による。
また、手続きを円滑に進めるため遺言執行者を指定することができ、遺言執行者は相続人の代理人とみなされる。遺言の執行は、弁護士、司法書士、行政書士、信託会社などが手がけている。
遺産分割
相続財産を相続人が分けることをいう。
遺言により各相続人の取得する財産が具体的に記されている場合を除いて、相続人全員で協議して、誰が、どの財産を、どの方法で、どれだけ取得するかを決めなければならないのである。
遺産分割の協議は、民法で「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とされている。遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった場合は、その遺産分割協議は無効となる。
また、協議は相続人間での任意の話合いであり、相続人全員で協議し、全員が賛成すれば、遺言や法定相続分に関係なく財産をどのように分けることも自由である。なお、協議ができないときや不調のときには、家庭裁判所で決めてもらうこととなる。
具体的な分割の方法としては、遺産そのものを現物で分ける現物分割、相続分以上の財産を取得するときにその代償として他の相続人に金銭を支払う代償分割、遺産を売却して金銭に変換したうえでその金額を分ける換価分割がある。
意思能力
法律行為を行なったときに、自己の権利や義務がどのように変動するかを理解するだけの精神能力のこと。民法上明文の規定はないが、このような意思能力を持たない者(=意思無能力者)の行なった法律行為は無効とされている(判例)。
意思無能力者とは、具体的には小学校低学年以下に相当する精神能力しか持たない者と考えられる。
通常、法律行為が無効であれば、その無効は契約等の当事者の誰からでも主張することが可能とされており、意思無能力者の行なった法律行為も同様である。
ただし、意思無能力者の法律行為が無効とされるのは、意思無能力者を保護する趣旨であるので、意思無能力者が無効を主張しない場合(契約等の効力の存続を希望する場合)には、契約等の相手方から無効を主張することは許されない、とする有力な学説がある。
意思表示
一定の法律効果を欲するという意思を外部に表示することである。
意思表示は次の3つの部分から構成されている。
1.内心的効果意思
具体的にある法律効果を意欲する意思のこと。例えば、店頭で品物を買おうと意欲する意思が内心的効果意思である。
2.表示意思
内心的効果意思にもとづいて、その意思を表示しようとする意思のこと。
例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を伝えようとする意思である。
(なお、表示意思を内心的効果意思に含める考え方もある)
3.表示行為
内心的効果意思を外部に表示する行為のこと。
例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を告げることである。
なお、内心的効果意思のもととなった心意は「動機」と呼ばれる。例えば、品物を家族にプレゼントしようという意図が「動機」である。しかし、現在は判例・通説では「動機」は原則として、意思表示の構成要素ではないとされている。
意思無能力者
意思能力を持たない人のこと。
囲障の設置
所有者を異にする2棟の間に空地があるときには、境界に囲障(塀、柵のような通行を妨げる構築物)を設置できるとするルール。民法の相隣関係の一つとして認められている権利で、「囲障設置権」という。
この場合の費用は、原則として相隣者が等しい割合で負担する。
遺贈
民法に定める方式の遺言により、特定の者に財産を贈与公正証書遺すること。
民法では、民法に定める方式による遺言のみを認めており、自筆証書遺言、言、秘密証書遺言、特別方式による遺言が定められている(民法第967条、第976条から979条)。
これらの遺言において、遺言をする者が、特定の者に対して財産を贈与する意思表示をすることを「遺贈」という。
特定の者に財産の何分の一を与えるというような抽象的な意思表示を「包括遺贈」、この家を与えるというような具体的な意思表示を「特定遺贈」と呼んで区別している(民法第964条)。
「包括遺贈」には、民法の「相続」の規定の大部分が適用されるが、代襲相続・遺留分減殺請求権の規定は適用されない(民法第990条)。
一括競売
土地の競売に当たって、土地に対する抵当権の設定後にその土地に建物が築造された場合に、土地とともにその建物をあわせて競売することをいう。民法によって認められている。
なお、建物に対して抵当権が設定されていない場合や建物所有者が債務者と異なる場合にも当該建物を競売できるが、優先弁済の対象となるのは土地の対価についてのみであるほか、建物所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有している場合は建物の競売はできない。
逸失利益
損害賠償において請求することのできる損失の一つで、本来得られるべきであるにもかかわらず得られなかった利益をいう。
「得べかりし利益」とか「消極的利益」ともいわれる。
例えば、事故による入院中に得ることのできなかった収入や、後遺障害によって生じる減収はこれに当たる。現実に生じた損失(「消極的利益」に対して「積極的利益」といわれる)に比べて、額の算定に当たって幅が生じやすい。
なお、慰謝料とは異なることに注意。
一般財団法人
法律(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)に基づく準則に従って設立された財団法人をいう。
従うべき主な準則は、
1)目的、設立者が拠出する財産及びその価額、評議員の選任・解任の方法などを定めた定款を作成すること
2)定款中に、理事又は理事会が評議員を選任・解任する旨、及び設立者に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定めが無いこと
3)評議員、評議員会、理事、理事会、監事を一定の手続きによって設置・運営すること(大規模一般財団法人については会計監査人が必置)
4)一定の方法によって会計を処理すること
である。
一般財団法人は、主たる事務所の所在地において、準則に適合するかどうかのみの審査を経て設立の登記をすることによって成立し、名称中に「一般財団法人」という文字を独占的に使用する。
一般社団法人
法律(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)に基づく準則に従って設立された社団法人をいう。
従うべき主な準則は、
1)目的、社員資格の得喪に関する規定などを定めた定款を作成すること
2)定款中に、社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定めが無いこと
3)社員総会その他の機関を一定の手続きによって設置・運営すること(社員総会及び理事は必置であり、理事会、監事、会計監査人は定款により設置を選択できる)
4)一定の方法によって会計を処理すること
である。
一般社団法人は、主たる事務所の所在地において、準則に適合するかどうかのみの審査を経て設立の登記をすることによって成立し、名称中に「一般社団法人」という文字を独占的に使用する。
一般承継人
他人の権利義務を一括して承継する人のことで、包括承継人ともいわれる。たとえば被相続人の財産等を包括的に承継する場合の相続人がこれに当たる。承継するのは一身専属権(譲渡が禁止されている債権など)を除くすべての権利義務である。
なお、個別の権利を承継する人を特定承継人といい、たとえば売買によって所有権を取得する者がこれに該当する。
一般定期借地権
借地借家法(1992(平成4)年8月1日施行)により創設された3種類の定期借地権のうちの一つ。
「一般定期借地権」とは次の3つの契約内容を含む定期借地権のことである。
1.更新による期間の延長がない。
2.存続期間中に建物が滅失し、再築されても、期間の延長がない。
3.期間満了時に借地人が建物の買取を地主に請求することができない。
なお、「一般定期借地権」の存続期間は少なくとも50年以上としなければならない。
一般媒介契約
媒介契約の一つの類型。
一般媒介契約とは、次の1.および2.の特徴を持つ媒介契約のことである。
1.依頼者(すなわち売主等のこと)が「依頼した宅地建物取引業者」以外の「他の宅地建物取引業者」に重ねて媒介を依頼することが原則的に自由である。
2.依頼者自身が、自分の力で取引の相手を発見し、直接契約することが原則的に自由である。
なお、依頼者が、「依頼した宅地建物取引業者」以外の「他の宅地建物取引業者」に重ねて依頼する場合において、その「他の宅地建物取引業者」の名称と所在地を、「依頼した宅地建物取引業者」に通知するかどうかにより、一般媒介契約はさらに次の2つの類型に分かれる。
1)明示型の一般媒介契約
明示型の一般媒介契約とは、「他の宅地建物取引業者」の名称と所在地を、「依頼した宅地建物取引業者」に対して通知する義務があるとする媒介契約である。
2)非明示型の一般媒介契約
非明示型の一般媒介契約とは、「他の宅地建物取引業者」の名称と所在地を、「依頼した宅地建物取引業者」に対して通知しなくてよいとする媒介契約である。
一筆の土地
土地登記簿において、一個の土地を指す単位を「筆」という。
従って、「一筆の土地」とは「土地登記簿上の一個 の土地」という意味である。
移転登記
所有権移転登記のこと。
所有権移転登記とは、不動産の売買取引において、不動産の所有権が売主から買主に移転したことを公示するための登記である。
移動等円滑化経路協定
バリアフリー化するための経路の整備、管理に関する協定をいう。「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に基づき、土地所有者等の全員の合意によって締結され、市町村長の認可を得て公告される。
移動等円滑化経路協定は、高齢者、障害者等が生活上利用する旅客施設、官公庁施設、福祉施設などが所在し、バリアフリー化のための整備を進めるべく指定される一定の地区(重点整備地区)内の一団の土地について締結され、経路案内設備、エレベーター、エスカレーター等の整備、管理などに関して定められる。
この協定の効力は、新たに該当土地の所有者等となった者に承継される。また、この制限は、宅地建物取引における重要事項説明の対象とされている。
囲繞地
囲繞地とはいにょうち
公道に通じていない土地を囲んでいる周囲の土地をいう。
民法は、他の土地に囲まれ公道に接していない土地の所有者は、公道に至るために囲繞地を通行することができる(囲繞地通行権)としているが、これは、囲繞地に対して、囲繞する土地を受益地とする法定地役権が設定されていると考えることができる。
囲繞地通行権
他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者が、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行できるとする権利。民法で定められている権利である。「公道に至るための他の土地の通行権」ともいわれる。
この場合、袋地の所有者は、囲繞地を通行するために与える損害に対して相応の金銭を支払うことが必要とされている。ただし、土地を分割した結果として袋地が発生した場合には、当該袋地の所有者は、公道に至るために、分割された他の土地を無償で通行することができる。
委任契約
民法上の典型契約の一つで、法律行為の実施を委託する契約をいう。労務供給契約であるが、雇用契約と違い受任者の裁量で実施すること、請負契約と異なり結果の完成が必須ではないことに特徴がある。
宅地建物取引業における媒介契約は法律行為の実施を委任するものではないから民法上の委任契約ではないが、準委任契約として委任契約の規定(民法643~655条)が適用されることとなる。ただしその適用においては、特別法である宅地建物取引業法の規定が優先する。
委任状
一定の事項を特定の者に委任する旨を記載した書面。委任する事項(委任事項)、委任する相手(受任者名)などを記載する。
委任状がなくても委任契約は有効だが、受任者が委任事項(例えば各種の申請手続)を実施する場合に委任状の提示を求められることがある。この場合には、委任状の発行が直近(通例は3ヵ月以内)でなければならないとされることが多い。
委任状には、委任の意思を表示するべく委任者が自署しなければならない。また、委任は多くの場合に代理権の授与を伴うが、このときには、委任状はその証拠となる。
なお、委任事項、受任者名などを記載せず、その白地部分の補充を他者に任せた委任状(これを「白紙委任状」という)を発行することがある。この場合には、白地が補充されたときに委任状の効力が発生する。ただし、補充権のない者が補充する、補充者が権限を濫用するなどの恐れがあり、白紙委任状の発行については、その是非を含めて十分な注意が必要である。
居抜き
店舗や工場などを、その内部の商品、設備、什器備品などを設置したままの状態で売買・賃貸すること。
従って、居抜きで購入もしくは借りた場合は、以前のままの内装や設計設備等が付帯するので、比較的早期で営業にこぎつけることができる。
違約金
不動産の売買契約では、当事者の一方が債務を履行しない場合には、債務の履行を確保するために、その債務を履行しない当事者が他方の当事者に対して、一定額の金銭を支払わなければならないと定めることがある。
このような金銭を「違約金」と呼んでいる。
「違約金」と「損害賠償額の予定」とは、債務を履行しない当事者が支払う金銭という意味ではよく似た概念である。
しかし「違約金」は、実際に損害が発生しない場合でも支払いの義務が生じるという点で、「損害賠償額の予定」とは大きく異なっている。
ただし実際の売買契約においては、「違約金」という言葉を「損害賠償額の予定」と同じ意味で使用していることも多い。
さらに民法(第420条)では、違約金という言葉の意味について、売買契約書でその意味を明示していない場合には、違約金は「損害賠償額の予定」の意味であるものと一応推定されると定めている。
このように「違約金」は、「損害賠償額の予定」と同じ意味であると解釈されるケースも実際には多いのである。
そのため売買契約書において本来の意味での「違約金」を定める場合には、その意味を明記しておくことが望ましいといえる。
なお、宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者が売主となる宅地建物の売買契約においては、「損害賠償額の予定」と「違約金」との合計額は売買代金の2割を超えてはならないと定めている(宅地建物取引業法第38条)。
これは売買取引に精通していない一般の買主が不利にならないように特に保護している強行規定である。
宅地建物取引業者同士の売買取引については、この宅地建物取引業法第38条は適用されない。
違約手付
手付の一種で、債務不履行が発生した場合には、手付が没収される(または手付の倍額を償還する)という手付のこと。
例えば、売買契約において買主が違約手付1万円を交付したとき、買主に債務不履行(代金支払義務の不履行)が発生すれば、その1万円は没収される。反対に、売主に債務不履行(引渡し義務の不履行)が発生すれば、売主は買主に2万円を償還しなければならない。
このような違約手付は、損害賠償額の予定と解される。
わが国では、手付とは原則として解約手付とされているが、解約手付であると同時に違約手付であってもよいとされている。
入会権
一定の地域の住民が特定の森林、原野、漁場等を共同で利用する権利。民法で物権として認められている権利である。入会権の対象となっている土地を「入会地」という。
民法は、入会権を、利用する土地等を共有する性質がある場合と特定の目的に従って利用するだけの性質の場合に分類し、前者は所有権の共有の規定を、後者は地役権に規定をそれぞれ準用するとしたうえで、地域の慣習に従うとしている。もっとも、民法は入会権の内容についてなんら規定しておらず、その内容、効力等は地域の慣習によって定まることとなる。
入会権を有する人々の集団が「入会団体」で、その大部分は「代表者が定められていない権利能力なき社団」であると考えられている。そして、入会権による使用収益や入会地管理の形態は、慣習に応じて区々であって、明確でない場合もある。
なお、入会地の農林業上の利用を増進するため、「入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律」に基づき、入会権利者の合意によって入会権を消滅させ権利関係を明確にするしくみが定められている。
遺留分
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保されなければならない相続財産の割合をいう。
原則として相続財産は被相続人が自由に処分でき、推定相続人の相続への期待は権利として保障されないが、相続が相続人の生活保障の意義を有すること、被相続人名義の財産には相続人の潜在的持分が含まれていることが多く、これを顕在化させる必要があることなどから、相続財産の一定割合について相続人に権利を認めている。遺留分は、相続開始1年前に贈与された遺産などを合算して、直系尊属のみが相続人の場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は全体で遺産の2分の1とされている。
印鑑証明書
捺印された印影(印を紙などに押した跡のかたち)が、あらかじめ届けられた印影(印鑑)と同一であることを証明する官公署の書面。届出できる印鑑は一つに限られている。
公正証書の作成、不動産登記、重要な契約などの際に、文書作成者が本人であることを証明するため必要とされる場合が多い。
印鑑証明書の交付は、個人の印鑑については、通常、市区町村長が条例等に従って行なうが、商業登記に当たって提出した印鑑については登記所が担当する。
印鑑届けをした印影を生む印が「実印」である。
印鑑証明(会社の~)
株式会社・有限会社等の法人が、売買等の契約を行なう場合には、契約書に代表者印を押印するのが通例である。
このような代表者印について、その代表者印が、登記所に対して印鑑届けを行なった正式なものであるということを、登記所が公的に証明した書面のことを「印鑑証明」と呼んでいる。
印鑑証明(個人の~)
個人があらかじめ市区町村役所において印鑑登録を行なった実印について、その実印が印鑑登録された正式なものであるということを、市区町村長が公的に証明した書面のことを「印鑑証明」と呼んでいる。
インスペクション
「住宅インスペクション」を参照。
インスペクター
建物の状況を検査・調査すること(建物の住宅インスペクション)に関する専門的な知識・技能を有すると認められた者。英語のInspectorであるが、英語では建物の検査・調査を行なう者に限定せず広く“検査官”を意味している。
(日本における)インスペクターは通称であって公的な資格ではないが、一般に、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づく一定の講習等を履修して住宅インスペクションを実施できる者を指している。そのための講習等は、各種の団体が実施している。
また、2017年2月に「既存住宅状況調査技術者講習登録規程」が制定され、国土交通大臣が登録した機関によって「既存住宅状況調査技術者講習」を実施する仕組みが制度化された。この講習は住宅のインスペクションに関するものであり、これを修了した「既存住宅状況調査技術者」もインスペクターである。
なお、宅地建物取引業法に基づき、宅建業者は、
1)既存住宅の媒介契約に当たって交付する書面に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載しなければならず、
2)重要事項説明に当たって、建物状況調査に実施の有無及びその結果の概要を説明しなければならない
とされているが(2018年4月1日から適用)、この場合の建物状況調査に当たるインスペクターは、建築士または国土交通大臣が定める講習を修了した者でなければならない。
インテリジェントビル
高付加価値のオフィスビルのことで、高度情報化建築物といわれることもある。
はっきりした定義があるわけではないが、空調、電気、セキュリティなどの設備を自動的に制御し、建物内に情報通信ネットワークを構築して、オフィスオートメーションやテレコミュニケーションに対応できることなどが特徴である。省エネ、省コストに資するともいわれる。
英語ではスマートビルと称することが多い(英語で、インテリジェントIntelligentは「賢い」、スマートSmartは「気の利いた」という意味である)。
e内容証明(電子内容証明)
インターネットを通じて差し出す文書について、その内容を証明し配達するサービス。日本郵政が提供している。
e内容証明を受ける文書は、インターネットを利用していつでも差し出すことができ、自動的に内容証明文書が作成・照合され、封入封緘されて内容証明郵便として発送される。
請負契約
当事者の一方がある仕事を完成することを、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことをそれぞれ約束する契約。例えば、住宅の建築工事、洋服の仕立て、物品の運搬などの契約がこれに該当する。
請負契約の目的は、仕事の完成であって労務の供給ではないから、仕事の目的物が定まっていて、通常は、目的物を引き渡すことで仕事が完成する。
請負契約については民法に一般的な規定がある。また、たとえば建設工事の契約に関しては建設業法、運送契約については商法等のような特別法の適用がある。
民法は、
1)請負契約による報酬は目的物の引渡しと同時に支払わなければならないこと
2)引き渡した目的物が契約不適合の場合には、注文者は、補修等の追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求、契約解除をすることができること(ただし、与えた指図等によって生じた不適合を理由にすることはできない)
3)契約不適合による請求等をするためには、原則として、不適合を知った時から一年以内にその事実を通知しなければならないこと
4)請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できること
などを定めている。
なお、民法には、請負人の担保責任の存続期間について特別の定めがあったが、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって削除された。ただし、住宅の新築工事の請負に関しては、特定の部位についての契約不適合責任の存続期間は10年とされている(住宅の品質確保の促進等に関する法律)。
受付番号(不動産登記における~)
それぞれの登記所で登記申請を受け付けた順序に従って、その登記に付けていく番号のこと。
登記記録では、甲区、乙区のそれぞれで、登記の時間的順序に従って、順位番号が付けられる。この順位番号では、区を越えた登記の前後が分からない。
そこで、区を越えて登記の先後を知るためには、通し番号である「受付番号」で判断することになる。
雨水浸透阻害行為
雨水の浸透を妨げる恐れがあるとして、その実施に当たって都道府県知事等の許可を必要とする行為をいう。「特定都市河川浸水被害対策法」に基づき制限される行為である。
許可を要するのは、次のすべてに該当する場合である。
(1)市街化の進展によって河道等の整備による浸水被害の防止が困難であるとして指定された都市河川(特定都市河川)の流域内における行為
(2)宅地等にするための土地の区画形質の変更、土地の舗装、排水施設を伴うゴルフ場等の設置、ローラー等による土地の締め固めなど一定の行為
(3)行為に係る面積が原則として1,000平方メートル以上
雨水浸透阻害行為について許可が必要であることは、宅地建物取引における重要事項説明の対象とされている。
なお、特定都市河川流域においては、雨水浸透阻害行為に伴って設置した雨水貯留浸透施設の機能を阻害する恐れのある行為について許可を要するほか、保全調節池の埋立て、敷地での建築物の新改築などについて届出が必要である。これらの制限についても、宅地建物取引の営業における重要事項説明の対象とされている。
内金
内金とは、売買契約が成立した後に、売買代金の一部として買主から売主へ交付される金銭のこと。
手付が売買契約が成立する際に交付されるのに対して、内金は契約成立後に交付されるという違いがある。
また、手付は契約の義務が履行されれば代金に充当されるのに対して、内金は交付される時点ですでに代金の一部である。
売主
不動産の売買契約において、不動産を売る人(または法人)を「売主」という。
また不動産広告においては、取引態様の一つとして「売主」という用語が使用される。
この取引態様としての「売主」とは、取引される不動産の所有者(または不動産を転売する権限を有する者)のことである。
売渡証書
不動産の売買契約の内容を簡潔に要約した書面のことを「売渡証書」という。
この売渡証書は、売主または買主からの依頼により、登記手続きを担当する司法書士が不動産売買契約書をもとにして作成するのが一般的である。
売渡証書の記載内容は「売主の住所氏名」「買主の住所氏名」「売買される不動産の概要」である。
この売渡証書は「所有権移転登記の原因を証する書面」として、所有権移転登記を申請する際に、登記所に提出される。
売渡承諾書
不動産の売買において、当該物件を売り渡す意思があることを表明する書面で、売主が買い受け希望者に対して交付する。書面には、売り渡し価格や売渡条件等が記載されている。
売渡承諾書は契約締結が可能である旨を表明するものであって、契約に至る過程で交わされる確認等のための文書に過ぎず、それを交付しても契約の申し込みや承諾の効果はないとされている。
ただし、売渡承諾書の交付によって一定の信頼関係が形成されることとなるので、売渡承諾書を交付したにもかかわらず合理性に欠ける理由等で契約に至らなかった場合には、信義則に反するとされることがある。
上物
土地の上に建物が存在しているとき、この建物を「上物」と呼ぶ。
土地に上物がある場合には、土地の状態を示すとき「上物あり」などと表示することが望ましい。
また、不動産広告においては、取引する土地の上に古家、廃屋等の老朽化した上物が存在する場合には、その旨を明示しなければならないとされている(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則)。
営業保証金
宅地建物取引業者が営業を開始するにあたって、供託所に供託しなければならない金銭。この保証金は、宅地建物取引業者との取引によって生じた債権の履行を担保する機能を果たす。
営業保証金の額は、主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円である。
なお、宅地建物取引業保証協会の社員は営業保証金を供託する必要はなく、代わりに同協会に対して弁済業務保証金分担金を納付しなければならないとされている。分担金の額は、主たる事務所につき60万円、その他の事務所につき事務所ごとに30万円である。
永小作権
小作料を支払うことにより、他人の土地で耕作または牧畜をすることができるという権利(民法270条)。
1952(昭和27)年以前には、地主が小作人に小作地として土地を使用させる方式がとられていたため、小作人は永小作権者として土地を使用していたが、1952(昭和27)年の農地法制定により、そうした前近代的な地主・小作関係はほとんど姿を消した。このため今日では永小作権は殆ど残存していない(なお今日では農地の貸与は賃借権によって行なわれている)。
役務提供型契約
私法上の概念で、役務(労働サービス)の提供に関する契約をいい、売買、賃貸借と並ぶ主要な契約類型のひとつである。民法で規定されている雇用、請負、委任、寄託のほか、商法上の仲立、問屋、運送などのための契約がこれに該当する。また、不動産取引の仲介(媒介)契約も役務提供型契約である。
役務提供型契約は、提供する役務・サービスの性質に応じて、有償・無償の別、成果物引渡の要否、報酬請求のあり方などについてさまざまなかたちがあり、発生する権利義務関係も多様である。そのため、民法で規定されている契約(典型契約)の既定によっては十分に対応できないのではないか、当事者間の交渉力等の違いによって利益を害することのないように配慮する必要があるのではないかなどの視点から、役務提供型契約の共通ルールを定めること等の必要性について議論がある。
エスクロー(Escrow)
取引の際に、売り手と買い手の間に信頼を置ける中立な第三者を仲介させること、またはそのサービスをいう。
不動産取引の安全を確保するためにアメリカで発達した仕組みであり、最近は電子商取引の決済においても活用されている。
不動産取引の場合には、エスクローサービスを提供する第三者は、売り手からは権利証書等を、買い手からは代金を寄託され、物件の確認、決済、登記、引渡しなどの業務に当たる。もっとも、日本ではあまり広まっていない。取引当事者間に信頼感があること、宅地建物取引業者が包括的なサービスを提供していることなどの事情によるものと考えられる。
NGO
「Non Governmental Organization」の頭文字を取ったもの。
「民間非政府組織」という意味である。
民間非政府組織とは、国連に協力する政府以外の非営利の民間団体を指す言葉である(国連憲章第71条)。
一般的には、環境問題や平和問題などに取り組んでいる大規模な非営利の民間団体のことを、「民間非政府組織(NGO)」と呼んでいる。
NPO法人
「Non Profit Organization」(民間非営利組織)のことで、福祉・医療・教育など不特定で多数のものの利益に寄与することを目的に活動する民間の非営利的な団体をいう。
民間非営利組織は、社団法人、財団法人など特別の法律によって設立されたもの以外は「権利能力なき社団」として法人格を有することができなかったが、1998年に「特定非営利活動促進法」が施行され、設立の認証によって法人格が認められることとなった。この認証を受けたNPOを、「特定非営利活動法人」という。
MLS(Multiple Listing Service)
不動産の売り情報をリスト化・共有化して取引を支援する仕組み。不動産仲介業者に対するサービスとしてアメリカで発達した。
掲載される売り情報は当該物件の価値を評価できるものであること、リストは資格ある業者に対して広く公開されていること、取引は売り・買いの依頼を受けた業者が共同で仲介することなどが特徴とされる。
原型は業者仲間の情報共有であって古くから行なわれてきたが、情報通信技術の発達に伴って高度なサービスが提供されるようになっている。
MLSは、日本の「指定流通機構」構築に当たって参考とされた。「マルティプル・リスティング」を参照。
AR
情報技術を活用して、現実世界に仮想の情報を重ねることによって現実感を拡張すること。英語のAugmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)の略語で、「拡張現実感」「拡張現実」などと翻訳されている。
たとえば、現実の部屋のなかに仮想の家具を置いてリアルな空間として知覚すること、現実の土地に仮想の建物を建築して空間的な調和や景観を確認することなどは、ARの利用例である。
なお、ARは現実をベースに人工的な情報を重ねて現実感を広げるのに対して、VR(Virtual Reality)は現実感を人工的に生み出すという違いがある。
ADR(不動産紛争に関する~)
ADRは、Alternative Dispute Resolution の略語。「裁判外紛争処理」と訳され、裁判によらない紛争解決方法をいう。
紛争解決のために行政機関や民間機関が行なう斡旋、調停、仲裁などがこれに該当する。そのほか、裁判所で行なわれる民事調停・家事調停、訴訟上の和解もこれに含まれるとされる。
ADRの特徴は、紛争当事者の自主的な努力を尊重し、専門的な知見を反映して、紛争の実情に即した迅速な解決を図ることにある。
不動産紛争に関しても、いくつかのADR機関がその役割を果たしている。主なものとしては、
1.(独)国民生活センター紛争解決委員会
2.指定住宅紛争処理機関(住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)により指定される機関で弁護士会が指定されている)
3.ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)によって認証された民間ADR機関
4.(一財)不動産適正取引推進機構による特定紛争処理事業(ただし、紛争当事者が直接に申し立てることはできず、一次処理機関から申請があった紛争が対象)
なお、民間賃貸住宅をめぐって多様な紛争が発生しているが、その円滑な解決のためには専門的な知見が必要となる場合が多いことから、ADRを活用することが有効であると考えられている。
ABW
雇用されている人が自分自身で働く時間と場所を決定する働き方。英語のActivity Based Workingの略語。
時々の仕事の内容に応じて、従業者自身がその都度、働く時間と場所を決めることになる。時間と場所を自由に選択できることから、従業者は、仕事と生活のバランスを独自に保つことができる一方、事業主は、多様な人材を確保できると考えられている。また、事業コストの削減に資するともされる。一方で、ABWが円滑に機能するためには、業務の管理や成果の確認などに関するシステムを見直す必要がある。
乙区
登記記録において、不動産の所有権以外の権利に関する事項を記載した部分のこと。
この乙区に記載される登記には「抵当権設定登記」「地役権設定登記」「賃借権設定登記」などがある。
おとり広告
実際には取引できない物件の広告のことで、客寄せのためにする。
架空の物件、売却済みの物件、売主に取引の意思がない物件などの広告はすべてこれに当たる。そのような広告を出すことは宅地建物取引業法に違反し、また、不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)で禁止されている。
オンライン申請(不動産登記における~)
不動産登記を、インターネットを利用したオンラインで申請することをいう。
法律上の名称は「電子申請」。不動産登記法の改正(2005年3月施行)によって創設された申請方法である。
従来、不動産登記は、書面(または携帯型のディスク等)でのみ申請できること(書面主義)、権利の登記の申請は当事者または代理人(司法書士)が直接登記所に出頭すること(出頭主義)とされていたが、登記申請者の負担軽減等のためオンラインによる申請が新設されたのである。
オンライン申請では、法務省オンライン申請システムにユーザー登録をしている者(通常は司法書士)が、インターネットで法務省オンライン申請システムへ接続し、申請情報を送信する。この際セキュリティを確保するために、電子署名・電子認証の仕組みを利用し、なりすましやデータ改ざんを防止するようになっている。
オンライン庁(不動産登記における~)
不動産登記をオンライン申請できる登記所をいう。
2008年7月14日をもって、すべての法務局(本局・支局・出張所)がオンライン庁となった。
なお、よく似た言葉としてコンピュータ庁がある。コンピュータ庁とは、登記事務をコンピュータで処理する登記所のことである。コンピュータ庁では、従来の紙の登記簿に代わって、磁気ディスクによる登記記録が原則とされる。
オープンスペース
大規模なビルやマンションに設けられる空地(くうち:敷地のうち建築物が建てられていない部分)であって、歩行者用通路や植栽などを整備した空間をオープンスペースという。また広い意味では、都市における公園・緑地・街路・河川敷・民有地の空地部分などの建築物に覆われていない空間を総称して「オープンスペース」と呼ぶ場合がある。
高層建築物による景観や生活環境の悪化に対する制度として、国では1961(昭和36)年に特定街区制度、1971(昭和46)年に総合設計制度を創設した。
これらの制度は、大規模なビルやマンションを建設する際に広い空地を確保し、その空地を一般の歩行者が自由に通行できる空間として利用することを推奨するものである。
特に後者の総合設計制度は、現在も広く活用されており、この制度によって設けられた一般公衆が自由に出入りできる空地は「公開空地」と呼ばれている。
近年では、大規模なビルやマンションにおいて、ヒートアイランド現象を緩和するために地上の空地部分の緑化が推進されており、また地方自治体の条例により良好なまち並みの形成が推進されている。
さらにビルやマンションの市場価値自体を高めるという目的のために、開発者が空地に歩行用通路・樹木・植栽・庭園・水路などを整備することが盛んになっている。
このようなさまざまな理由にもとづいて、大規模なビルやマンションの空地において、通路・植栽等を整備することが近年盛んになっている。こうした空地のことを一般に「オープンスペース」と呼んでいる。
オープンハウス
本来は、企業のオフィスや生産施設を、顧客・取引先・投資家に見学させて、企業に対する理解度を高めるという企業広報活動のこと。
不動産業界では、販売しようとする物件の内部を一定の期間、担当営業員が常駐して、買い希望客に公開するという販売促進活動を指す。
か行
買い換え特約
不動産の買主が、別の不動産を売却した代金をもって当該不動産の購入費用に充てることを「買い換え」という。
こうした買い換えでは、別の不動産の売却が不調に終わったときには、当該不動産の購入ができなくなるケースが多い。
そのため実際の不動産取引では、別の不動産の売却が不調に終わった場合には、買主は不動産を購入する契約を解除し、契約を白紙に戻すことができるという特約を盛り込むことがある。こうした特約を「買い換え特約」と呼んでいる。
「買い換え特約」は、買主が一定の場合に解除権を行使することを認める特約であるので、「買い換え特約」では次の事項を明記しておくのが望ましい。
1.買主に解除権が発生するための具体的な条件(どのような物件がいくらで、いつまでに売却できないときに買主に解除権が発生するのか)
2.買主が解除権を行使した際の売主の義務の内容(売主が契約締結時に受領した手付金や代金を返還するか否か)
3.買主が解除権を行使した際の買主の義務の内容(買主に損害賠償義務が存在しないこと等)
介護予防
介護が必要な状態の発生を防止・遅延することや、要介護状態の悪化を防止・軽減することをいう。
介護予防のためには、運動機能や栄養状態を改善するだけでなく、個々人の生活機能(活動レベル)や参加(役割レベル)を充実することも必要である。そしてこれによって生活の質を維持し、向上することとなる。
住宅は、地域活動とともに介護予防の場としての役割を担うと考えてよい。
会社法
会社の設立、組織、運営及び管理についての一般的なルールを定めた法律(平成17年法律第86号)。 2005年7月に制定され、06年5月1日から施行されている。
会社には法人格が付与され、取引等の主体となることから、その法的な権能、責務などを明確にする必要がある。そのための規則は、会社法が制定されるまでは、商法(明治32年法律第48号)第二編(会社)のほか、有限会社法、会社の配当する利益又は利息の支払いに関する法律、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律などに定められていた。会社法は、これらの規定を統合整理し、会社の管理運営に関する規則を現代化するべく新たに制定された法律である。
会社の種類を株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4つとし、会社に法人格を付与する。その上で、会社の設立・組織変更等、株式の権能・発行・譲渡・取得等、株式会社の機関の設置・運営等、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社の総称)の社員の権利義務・加入退社等、会社の会計計算の方法等、会社の解散・清算等などに関するルールを規定している。また、特別背任罪、会社財産を危うくする罪、贈収賄罪など、会社の利益を妨げる一定の行為に対する刑罰も定めている。
解除権
契約を解除する権利。民法で認められている権利である。
例えば、債務不履行、債務の履行不能、手付放棄、契約不適合などの場合に行使できる。
解除権の効力は、相手方に対する意思表示によって発生する。この意思表示は撤回できないとされている。また、解除は、一般に、期間を定めて債務の履行を催告し、その期間内に履行がないときにすることができるとされる。ただし、債務の履行が不能であるとき、債務者が債務の履行を拒絶する意思を表明しているときなど法律で定める一定の場合は、催告することなく直ちに解除できる。
解除権が行使されたときには、契約の当事者は、それぞれ相手方を現状に戻す義務を負う。ただし、第三者の利益を害することはできないとされている。また、解除権を行使した上で、損害賠償の請求をすることもできる。
なお、解除権を有する者が、故意、過失によって、契約の目的物を著しく損傷すること、加工・改造して他の種類のものに変えることなどをしたときには、その解除権は消滅する。
解除条件
契約等の法律行為の効果が、将来不確定な事実が発生することによって消滅する場合の、当該不確定な事実をいう。
例えば、マンション購入契約の際に、物件が完成するまでの間に転勤になったら契約を失効させるという条項を入れた場合、転勤になることは解除条件である。そのような契約を解除条件付契約という。
その反対に、法律行為の効果の発生が、将来の不確定な事実にかかっている場合には、その事実を「停止条件」という。解除条件は、法律効果が発生した後にそれを消滅させる条件、停止条件は法律効果を発生させる条件、というように対比して考えればわかりやすい。
買主の地位の譲渡
売買契約における買主の地位をさらに別の者に売り渡すことをいう。
契約上の地位を譲渡する旨の契約を締結することにより実現する。中間省略登記を合法的に行なうための手法の一つとされる。
買主の地位の譲渡を利用した実際の契約は、次の2つの契約からなる。
1.売買契約(A→B)
2.買主の地位を譲渡する契約(B→C)
この結果、所有権はAから直接にCに移転する(BC間の契約は売買契約に従属するため、CはAB間の契約内容を知ることができる)。
買戻
債務者(または物上保証人)の所有する不動産を、債務者(または物上保証人)が債権者に譲渡し、債務を全額弁済すると同時に債務者(または物上保証人)が債権者からその不動産を買い戻すという制度である。
民法では売買の特約としてこの買戻を規定しているが、実際上は不動産を担保に入れて金銭を得るための手段である(民法第579条)。この買戻を登記する場合には、最初の売買における所有権移転登記に、買戻特約の附記登記を行なう。
この民法上の買戻には次のような条件を満たすことが必要とされている。
1.売買契約と同時に買戻の特約をすること
2.買主(つまり債権者)が不動産を占有するので、その不動産の使用収益による利益を買主が取得する反面、買主(債権者)は売主(債務者)から利息を取ることはできないこと
3.買戻の代金は、当初の売買代金と同額であること
このように民法上の買戻は厳格な要件が定められているため、実際にはこれよりも要件が緩やかな再売買の予約が利用されることが多い。
買戻特約
私法上の概念で、「売主が代金額および契約の費用を買主に返還することによって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことができる」とする特約をいう。
所有権移転登記と同時に買戻特約を登記しないと、第三者に対抗できない。また、売主が買戻権を行使できる期間は最長10年である。
新住宅市街地開発事業等による宅地分譲において建築義務、転売規制などを担保するため、あるいは、債務弁済による買戻特約を付けて不動産を譲渡して担保機能を確保する(売渡担保)ために利用される。
解約
法律行為の一つで、意思表示により契約関係を消滅させることをいう。
意思表示の時点から将来に向けて契約消滅の効果が生じる。
例えば借地借家法では、定期建物賃貸借に関して、「やむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する」と規定している。
これに対して、契約の解除は、過去に遡って契約関係を消滅させることであるとされ、例えばクーリングオフによる契約の消滅は、解約ではなく解除による効果である。もっとも、解約と解除が混同されることも多い。
解約に伴い、一般的に、契約当事者は原状回復義務務を負うことになる。
解約手付
手付の一種で、手付の放棄(または手付の倍額の償還)によって、任意に契約を解除することができるという手付のこと(民法第557条第1項)。
通常、契約を解除するためには、解除の理由が必要である。
具体的には、「法律上の解除原因の発生(債務不履行、売主の担保責任)」か、または「契約成立後に当事者が解除に合意したこと(合意解除)」のどちらかが必要である。
しかしわが国では、手付を交付することにより、契約を解除する権利を当事者が保持し続けるという手法を用いることが非常に多い。
これは、売買契約成立時に買主が売主に手付を交付し、買主は手付を放棄すればいつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよいというものである(これを「手付流し」という)。
また売主も、手付の倍額を買主に償還することで、いつでも契約を解除でき、手付相当額以外の損害賠償を支払わなくてよい(これは「手付倍返し」という)。このように、手付相当額の出費を負担するだけで、いつでも売買契約関係から離脱できるのである。
また判例(昭和24年10月4日最高裁判決)によると、「契約において特に定めがない場合には、手付は解約手付であると推定する」こととなっている。つまり契約上、単に「手付」とされた場合には、反証がない限り、解約手付として扱われる判例が確立している。
宅地建物取引業法ではこの判例よりさらに進んで、売主が宅地建物取引業者である売買契約では、契約内容の如何にかかわらず、手付は必ず「解約手付」の性質を与えられると規定している(宅地建物取引業法第39条第2項)。これを解約手付性の付与という。
なお、手付流し・手付倍返しによる契約解除はいつまでも可能ではなく、契約の相手方が「履行の着手」を行なった時点からは、このような契約解除ができなくなるとされている(詳しくは履行の着手へ)。
価格査定
不動産の売却を媒介する場合に、依頼者に助言するなどのため取引価額を算出する行為をいう。
この場合にその根拠を示すことが必要で、標準的な手法によって取引事例を比較検討し、客観的で実際的な成約見込額を算出しなければならないとされている。一般的には、価格査定のためのマニュアルを用いることが多い。
一方、不動産鑑定も価格の査定を伴うが、不動産取引の媒介に当たっての価格査定とは違って経済的価値を判定するものであり、算出する価額の性質に違いがあることに注意しなければならない。また、不動産鑑定は、価格査定と比べてより専門的、精密な方法で実施される。
確定日付
私文書がその日に存在していたことを証明する、当該日付をいう。
法律の効果として文書の作成日付が重要となることがあり、その必要に応えるために日付を確定し証明するのである。内容証明郵便や公正証書(公証人が私書証書に日付のある印章を押捺したもの)は、確定日付のある文書(証書)である。
例えば、指名債権の譲渡の通知または承諾は確定日付のある証書をもってしなければ、債務者以外の第三者に対抗できないとされている。そのほか、契約や覚書に関して確定日付により紛争の発生を防止することができる。
隠れたる瑕疵
「瑕疵」とは「きず」「不具合」「欠陥」という意味である。
「隠れたる瑕疵」とは、特定物(建物・土地などその固有性に着目して取引され代替性がない)の売買契約を締結した時点において買い主が知らなかった瑕疵であり、かつ買い主が通常要求されるような注意力を働かせたにもかかわらず発見できなかった瑕疵のことである。
例えば既存住宅の売買において、屋根の一部に欠陥があったため、引渡し後に雨漏りが発生したとする。この場合、屋根の欠陥が「瑕疵」に該当する。そして買い主が売買契約当時にこの欠陥があることを知らず、かつ買い主が通常要求されるような注意力を働かせても、この欠陥を発見することができなかったであろう場合には、この欠陥は「隠れたる瑕疵」に該当するといえる。
民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)以前は、民法で、特定物の売買契約において、その特定物に「隠れたる瑕疵」があったとき、売り主は買い主に対して「瑕疵担保責任」を負うものと規定されていたが、改正によってこの規定は削除され、「隠れたる瑕疵」の担保責任を含めて契約不適合責任に統合・整理された。
囲い込み(物件の~)
不動産の売却を依頼された不動産業者が、意図的に他の不動産業者に物件を紹介しない行為をいう。
囲い込みがされるのは、依頼された物件の買取りを仲介すれば、売買の依頼者双方から仲介手数料を得ることができるからである。これを「両手取り」というが、囲い込みは、依頼主の利益を損うほか、仲介の倫理に反し、不動産取引市場に対する信頼を妨げることになりかねない。
火災保険
火災による損害を補填するための保険。
火災保険契約を締結すれば、住宅、家財、店舗、工場、事業用資機材等が火災によって消失、損傷した場合に、生じた損害に対して保険金が支払われる。
一般に、火災のほか、落雷、爆発、風災などによる損害についても補填するよう設計されている。ただし、地震によって発生する火災の損害は、火災保険ではなく地震保険(火災保険に付帯されることもある)によって補填される。
火災保険の保険期間は、一般に、生命保険に比べて短い。また、保険金(保険者が支払う金銭)は、生命保険と違って、原則として被保険者が現実に被った損害額に基づいて算定される。
瑕疵
法律上の欠点や欠陥。瑕疵があると、意図した法律的な効果は完全には生じない。瑕疵の具体的な内容や法律効果への影響は、民法に定められている。
例えば、詐欺・強迫によってなされた意思表示は、「瑕疵ある意思表示」として、表意者は取り消すことができる。あるいは、悪意・過失・強暴・隠秘による占有は、「瑕疵占有」として、即時取得、時効取得の完成、果実の取得が求められない場合がある。
また、売買の目的物が契約に適合しないものであるとき(契約不適合の場合)には、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除をすることができるが、これは、売主が目的物の瑕疵についての担保責任(瑕疵担保責任)を負っているからである。
なお、債権関連の民法改正(2020年4月1日施行)までは、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があったときには売主に瑕疵担保責任を課す旨の規定があった。この規定は改正によって削除され、瑕疵担保責任は、改正で整備された契約不適合に関する規定によって対応することとされた。
瑕疵ある意思表示
「内心的効果意思」と「表示行為」は対応しており、一見正常な意思表示であるかのように見えるが、内心的効果意思を形成する際の「動機」に対して他人の強迫や詐欺が関与しているもの。
いい換えれば、内心的効果意思の正常な形成が他人の強迫・詐欺により阻害されている意思表示のことである。瑕疵とは「きず」という意味である。
瑕疵ある意思表示には、強迫による意思表示と詐欺による意思表示の2種類がある。
瑕疵担保責任
売買契約や請負契約の履行において、引き渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合に、売り主・請負人が買い主・注文者に対して負うこととなる責任。債務不履行により生じる責任のひとつで、目的物が特定物(その固有性に着目して取引され代替性がない)である場合の「契約不適合責任」と同義である。
瑕疵担保責任を負わせるためには、買い主・注文者は、売り主・請負人に対して、履行の追完請求(補修等の実施請求)、代金の減額請求、報酬の減額請求、損害賠償請求または契約解除権の行使をしなければならない。
なお、住宅の品質を確保するため、新築住宅の瑕疵担保責任について「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく特別の定めがある。詳しくは「売り主の瑕疵担保責任(品確法における~)」及び「請負人の瑕疵担保責任(品確法における~)」を参照。
過失責任主義
損害の発生について損害賠償責任を負うのは、故意・過失がある場合だけであるという私法上の原則。個人の行動の自由を保障するための原則であるとされ、民法はこの考え方を採用している。
しかしながら、事情に応じて損害発生の責任をより厳しく求めなければならない場合もあるとされ、民法の特例として、故意・過失がない場合にも損害賠償責任を負わなければならない(無過失責任)とされていることがある。たとえば、製造物責任については過失責任主義が適用されていない。
なお無過失責任の根拠としては、危険を作り出す者はそれによる損害賠償の責任を負うべき(危険責任)、利益を得る過程で損害を与えた者はその利益を損害賠償に充てるべき(報償責任)、という二つの考え方がある。
過失相殺
損害賠償額から過失相当分を差し引いて損害を負担することをいう。
賠償を受ける者にも過失がある場合に、負担を公平に行なうために適用される。
よく交通事故の損害賠償の際に問題となるが、これに限らず、債務不履行や不法行為による損害賠償について一般的に考慮される。過失相殺の割合は、裁判で確定した事例をもとに判断されるが、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」が有名である。
貸主
不動産の賃貸借契約において、不動産を貸す人(または法人)を「貸主」という。
不動産取引においては、取引態様の一つとして「貸主」という用語が使用される。
この取引態様としての「貸主」とは、「賃貸される不動産の所有者」または「不動産を転貸する権限を有する者」のことである。
貸主は宅地建物取引業免許を取得している場合もあれば、そうでない場合もある。
なお、不動産を賃貸することのみを業として行なう場合には、 宅地建物取引業の免許を得る必要はない。
瑕疵物件
取引の対象となった不動産の当事者の予想していない物理的・法律的な欠陥(瑕疵)があったときの、当該不動産をいう。
例えば、土壌の汚染、耐震強度の不足などの発見は瑕疵となる恐れが大きい。不動産売買契約締結時に発見できなかった瑕疵が一定期間内に見つかった場合には、買主は契約の解除または損害賠償の請求をすることができる。
貸家建付地
建物が存在している土地について、建物所有者と土地所有者が同一であるとき、この土地を「建付地」という。
ある土地が「建付地」であって、建物の種類が貸アパート・貸マンション・貸家などの賃貸用建物であるとき、その土地を「貸家建付地」と呼ぶ。
課税証明書
課税証明書とはかぜいしょうめいしょ
住民税の課税額を証明する書類。住宅ローンの審査、児童手当の交付申請、公的年金の受給請求などの場合に必要となる。
市区町村が発行するが、交付の申請は「その年の1月1日時点の住所」の市区町村に対して行なわなければならない。
なお、「非課税証明書」は、課税額がゼロであることを証明する課税証明書である。
片手
不動産取引を媒介としたときの宅地建物取引業者の成功報酬の受取り方をいい、取引当事者の双方から受け取る場合を「両手」、一方のみから受け取る場合を「片手」という。
例えば、宅地売買において売り手・買い手の双方から媒介の依頼を受ければ報酬は「両手」で受け取ることができるが、売り手・買い手の媒介依頼先が異なれば、取引には両方の業者が関与することとなって、それぞれの業者が受け取る報酬は「片手」となる。
割賦販売
売買代金を分割して、一定の期間内に定期的に支払う販売方法をいう。
この場合の目的物の引渡しには、一定額が支払われるまで引渡しを停止する場合と、最初に目的物を引き渡したうえで代金債権の担保措置を講じる場合とがあり、一般的には後者が採用されている。
割賦販売においては、買主を保護するために、一定の割賦販売(宅地建物の割賦販売は該当しない)について、一定期間、無条件で申込みの撤回または契約を解除できる制度(クーリングオフ)が適用される。
なお、宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地建物の割賦販売の契約については、賦払金の支払いの義務が履行されない場合に、30日以上の期間を定めて支払いを書面で催告し、期間内にその義務が履行されないときでなければ、賦払金の支払いの遅滞を理由として、契約の解除や支払時期の到来していない賦払金の支払いを請求することができないとされている(強行規定)。
仮差押
債権者が金銭債権を持っているとき、債務者が返済を滞納している等の事情があり、債務者の財産状況が著しく悪化していることが明らかである場合には、債権者は裁判所に対して、債務者の財産(不動産など)の売却等を一時的に禁止することを申請することができる。
裁判所がその申請に相当な理由があると認めた場合には、裁判所は債務者に対して、財産の売却等を当分の間行なわないよう命令する。この裁判所の命令を「仮差押」と呼んでいる。
債権者から見れば、「仮差押」によって債務者の財産を一時的に凍結することができることになる。
仮差押の登記
仮差押の登記とはかりさしおさえのとうき
債務者の財産を一時的に凍結するための裁判所の命令を「仮差押」と呼ぶ。
この仮差押がなされた場合には、登記簿に「仮差押の登記」が記載され、取引関係者に対して、財産の処分を一時的に凍結していることが公示される。
仮処分
処分禁止の仮処分のこと。
債権者が金銭債権を持っているとき、債務者の財産状況の悪化などの事情がある場合には、裁判所は債務者に対して、財産の売却等を当分の間行なわないよう命令することができる。
この裁判所の命令を「仮差押」と呼んでいる。
しかしながら、金銭債権以外の債権については、こうした仮差押を行なうことができないので、その代わりに「処分禁止の仮処分」が用意されている。
例えば、A氏が土地をB氏に売却したが、B氏が代金を支払ったにもかかわらず、A氏が土地の登記名義をB氏に移そうとしないというケースでは、B氏が登記名義を取得しない間に、A氏がその土地を第三者に売却してしまう可能性がある。
そこでB氏は、裁判所に対して、当該土地の第三者への売却を一時的に禁止するように申請することができる。
裁判所はB氏に相当な理由があると認めたならば、A氏に対して「処分禁止の仮処分」を命令することができる。
この「処分禁止の仮処分」が行なわれると、A氏は当該土地を第三者に売却することができなくなる(もし第三者に売却したとしても、B氏がA氏に対する裁判で勝訴した場合には、第三者はその土地の取得をB氏に主張することができなくなる)。
仮登記
所有権移転登記などを行なうことが何らかの理由でできない場合に、仮に行なう登記のことを「仮登記」という。
例えば、A社がB氏に融資をした場合に「将来返済がされないときは、B氏所有の土地をA社に引き渡す」という契約を行なったとする。このとき、将来債務が返済されるかどうかは不確定であるので、所有権移転登記を行なうことは当然できない。そこで、A社はB氏所有の土地に対して仮登記を付けておく。
具体的には「所有権移転請求権仮登記、原因:売買予約、権利者:A社」という仮登記を付けておくことで、A社は確実に権利を保全できることとなる。
仮登記担保
金銭債権を返済できない場合には、物を債権者に売却する(または物をもって弁済に代える)ことを債務者が約束し、そのことを仮登記しておくことを仮登記担保という。
例えば、登記の原因を「代物弁済予約」とし、登記の目的を「所有権移転請求権仮登記」として、仮登記を行ない、これによって金銭債権を担保するということである。
このような仮登記担保は、金銭債権が弁済されない場合に、債権者が物の所有権を取得することから、債権者の暴利行為を助長する恐れがある。そこで、1979(昭和54)年4月1日に仮登記担保法が施行され、金銭債務の額を物の価額が超える場合には、債権者はその超過部分を債務者に返還する必要があるとされた。こうして現在では、債権者の暴利行為が法律上禁止されている(仮登記担保法第3条)。
過料
行政上の秩序を維持するために、行政法規上の義務違反に対して少額の金銭を徴収するという罰則のこと。行政法学では「行政上の秩序罰」として分類している。
過料は刑罰ではないので、刑法、刑事訴訟法は適用されない。
これに対して「罰金」「科料」は刑罰であり、刑法、刑事訴訟法が適用される(詳しくは財産刑へ)。
特に刑罰である「科料」と行政上の秩序罰である「過料」は混同されやすい。そのため前者を「とがりょう」、後者を「あやまちりょう」と呼んで区別することがある。
換価分割
換価分割とはかんかぶんかつ
相続における遺産分割において、分割が難しい土地や家屋を売却し、金銭に換価して分けること。
土地や家屋を正確に公平に分割できる一方、受け継いだ資産を活用できないほか、売却のための費用が発生する。
分割の方法には、換価分割のほか、現物分割、代償分割(相続人の一人が全部を相続し、他の相続人に金銭を支払う方法)がある。なお、土地や家屋の相続に際しては、分割せず共有する方法もある。
鑑定評価
不動産の経済価値を判定し、価額で表示すること。その業務は、不動産鑑定士および不動産鑑定士補の独占とされている。
鑑定は不動産鑑定評価基準に従って実施されるが、その方法は原則として、
1.原価法(不動産の再調達原価に着目して価格を求める方法、積算価格を算出)、2.取引事例比較法(類似の不動産の取引事例価格に着目して価格を求める方法、比準価格を算出)、3.収益還元法(不動産が将来生み出す収益に着目して価格を求める方法、収益価格を算出)
の3つを併用することとされている。
なお、収益還元法には、純利益を一定率で割り戻して直接に現在価値を求める方法(直接還元法)と、保有期間中に得られる純利益と期間満了後の売却によって得られる予想価格を現在価格に割り戻して合算する方法(DCF法、Discounted Cash Flow Methodの略)があるが、不動産の証券化のための評価は原則としてDCF法が適用される。
監督処分
行政機関が法律にもとづき営業等の行為を規制している場合に、法令違反などがあったときに行政機関が発する命令等をいう。
例えば、宅地建物取引業者に対する監督処分しては、違反行為の内容や程度に応じて、指示、業務の停止命令、免許の取消しがある。
あるいは、宅地建物取引士に対しては、指示、事務の禁止、登録の消除が適用される。処分は法律の規定の範囲でしか行なうことができないが、処分に従わないときには罰則が適用される。また、監督処分をしようとするときには、原則として、聴聞の手続きを行なわなければならない。
なお、行政機関が行なう指導、助言、勧告、検査などは、監督処分ではない。
官民境界査定
公共用地などの行政財産とこれに隣接する民有地との境界を確定すること。
確定のためには、行政財産の管理者と隣接民有地の所有者とが立ち会って協議しなければならない。また、協議が不調の場合には、訴訟などによって手続きを進めることになる。
なお、行政財産の管理者に代わって土地家屋調査士などが立会い・協議に当たる、公共嘱託制度がある。
管理協定(雨水貯留施設の~)
民間が所有する雨水貯留施設について、それを公共下水道管理者が管理するために締結される協定をいう。下水道法で定められている制度である。
管理協定は、著しい浸水被害が発生するおそれがある区域であって、公共下水道の整備のみによっては浸水被害の防止が難しい区域(浸水被害対策区域、条例で指定される)の中に存するまたは建設予定の雨水貯留施設を対象として締結され、公示される。また、その効力は公示後に当該施設の所有者等になった者にも及ぶ(承継効)。
管理協定の承継効は、その対象となる雨水貯留施設が含まれる宅地建物についての法令上の制限であり、宅地建物取引業法の重要事項説明の対象となっている。
管理受託契約
賃貸住宅の管理業務を受託する契約で、賃貸する住宅の所有者と賃貸住宅管理業者とのあいだで締結される。
管理受託契約には、業務の内容・実施方法、費用、再委託、免責などに関する事項が記載される。賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結する前に、それらの事項(重要事項)を、業務を委託する住宅の所有者に書面を交付して説明しなければならない。
管理受託方式
賃貸住宅管理業の実施方法の一つで、事業者が、賃貸住宅の所有者からその住宅の維持保全や家賃等の管理の業務を受託し、賃借人との賃貸借契約は賃貸住宅の所有者が自ら締結する方法。この場合、賃借人と賃貸住宅管理業者との間には契約関係は存在しない。
なお、賃貸住宅管理業の実施方法には、管理受託方式のほか、サブリース方式がある。
がけ地
傾斜が急なため通常の用途に供することができない土地をいい、一般に傾斜度が30度以上のものを指すが、厳密な定義はない。
不動産鑑定や資産課税において土地を評価する場合には、対象となる土地に占めるがけ地の割合に応じて評価額を減価する補正が適用される。
なお、がけ地とほぼ同様の言葉として「法地」があるが、法地は不動産取引においてよく使われ、土地造成によって作られたがけ地を指すことが多い。
合体登記
建物に物理的な変更を加えて、数個の建物を構造上一体の建物にした場合に、それら数個の建物の登記記録を一つにまとめる登記のこと。
合筆
土地登記簿上で数筆の土地を合併して、一筆の土地とすること。
合筆登記
数筆の土地を合わせて、一筆の土地にするという登記のこと。
合筆登記がされた場合、従来の数筆の土地の登記記録は閉鎖され、閉鎖登記簿へ移行する。
なお合筆登記をするには、地目が違う土地同士の合筆はできない。
また、所有権の登記(所有権の保存の登記または所有権移転登記)がある土地と、所有権の登記がない土地との合筆登記もできない。
合併登記
別個の建物として別々の登記記録が存在している数個の建物を、一個の建物にまとめて登記記録を作る登記のこと。
危険負担(契約における)
双務契約において、一方の債務の履行が責めに帰すことができない事由によって不能となったときに、他方の債務をどのように扱うかという私法上の問題をいう。
これについては、民法で、債務者が危険を負担すべきとされている。つまり、債務が履行できなくなったときには、債権者は反対給付を拒むことができる。これは、双務契約では給付と反対給付とがその存続に関して相互に関連しているから(存続上の牽連性)、一方の債務が消滅したときには反対債務も当然に消滅させる(反対債務者を拘束から解放する)のが適切であると考えられているからである。たとえば、やむを得ない事情で欠勤したときに欠勤者は賃金を請求できない。
なお、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)以前は、不動産のような特定物の物権移転については、債権者が危険を負担すべきと定めていたが、この規定は削除された。
期限付き建物賃貸借
借地借家法(1992(平成4)年8月1日施行)によって創設され、2000(平成12)年3月1日に法改正により廃止された制度。
期限付き建物賃貸借とは、次のいずれかの事情がある場合に、借家契約の更新を否定し、期間満了により借家契約が自動的に終了するという建物賃貸借のことである。
1.転勤等のやむを得ない理由により、一定期間に限り家主が不在となること
2.法令等により一定期間を経過した後に、建物が取り壊されることが明らかなこと
しかし、平成12年3月1日に法が改正され、こうした特別の事情がなくとも、定期借家契約を結ぶことが可能となった。
そのため、期限付き建物賃貸借は、2000(平成12)年3月1日をもって廃止された。
期限(期限の利益)
法律行為に付された始期または終期のこと。
例えば、債務を負う契約を締結したとき、その履行の期限を定めれば、その時点までは債務を履行する義務はない。このような期限を定めたことによる権利義務に関する効果を、「期限の利益」という(一般的に、債務者の立場から見れば利益となる)。
一方、債務の担保を損傷したりすれば、期限の利益は喪失する。また、ほとんどの金銭消費貸借契約には「期限の利益の喪失」を定める条項があり、例えば決められた期限までに返済が間に合わない場合には、期限の利益がなくなったものとして借金の残額を一括で支払うことというような特約が付されている。
基準地価
都道府県地価調査により公報された「基準地」の価格のこと。
都道府県地価調査は、国土利用計画法による土地取引の規制を適正に実施するため、国土利用計画法施行令第9条にもとづき、都道府県知事が毎年9月下旬に公表する土地評価である。
評価の対象となるのは、全国の約3万地点の「基準地」である。都道府県地価調査では、毎年7月1日を基準日として各基準地につき1名以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、これを審査・調整し、毎年9月下旬に公報する。この公報された価格を「基準地価」という。
このように都道府県地価調査は、地価公示から半年後の地価を評価するものであるので、地価の変動を速報し、地価公示を補完する役割を担っている。
規制緩和
民間の産業活動や事業活動に対する政府の規制を縮小すること。
政府は、民間事業の活動について、安全の確保、技術基準の統一、競争の適正化、消費者の保護などさまざまな観点から規制を加えているが、これを緩和して活発な産業活動を促す政策が取られている。例えば、すでに行なわれた規制緩和としては、タクシー台数の制限撤廃、電力自由化、酒類免許制度の撤廃、農業への株式会社参入などがある。
不動産業に関係する規制緩和としては、土地利用に関する規制の緩和が進められ、容積率や高さ制限などの見直しが推進された。
規制緩和は、社会の秩序を維持する方法として市場メカニズムをよりいっそう活用しようという考え方にもとづくもので、その背景には、社会経済活動の効率性を高めることが善であるという価値判断がある。しかし一方で、公共性を確保することも重要であり、規制緩和による弊害が生じていないかどうかに注意が必要である。
なお、規制緩和に似た政策として政府業務の民間開放がある。政府企業の民営化、指定管理者制度、PFI、市場化テストなどがそれであるが、市場メカニズムを活用することは規制緩和として共通しているものの、事業の主体を政府から民間に移すことに主眼があり、規制緩和とは別の政策として考えるべきであろう。
毀損
壊し、傷つけること。物を壊すことまたは傷つけることのほか、人をそしることも含む。
他人の物や名誉・信用を毀損した場合には、一般に損害賠償の責任を負うほか、一定の場合には刑罰に処せられることがある。
既存住宅状況調査技術者
既存住宅の状況調査を行なうための一定水準以上の知識とノウハウを有する技術者として認められた資格。告示による国家資格である。
既存住宅現況検査技術者の資格を得るには、「既存住宅状況調査技術者講習登録規程」(国土交通省告示)に基づいて登録された講習を受講し、終了証明書の交付を受けなければならない。証明書の有効期間は3年間である。
講習を受けることができるのは建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)のみで、講習は、講義および終了考査で構成される。
既存住宅状況調査技術者講習
住宅インスペクションに関する知識、技能を養成するための講習で、国土交通大臣が登録した講習実施機関が「既存住宅状況調査技術者講習登録規程」(2017年2月制定)に従って実施するものをいう。
講習の登録は申請によって行なわれ、既存住宅の調査に関する手順、遵守事項、調査内容等を講義すること、修了者等の情報の公表、相談窓口の設置等を行なうこと、毎年度全国的に講習を行なうことなどの要件を満たさなければならない。また、講習を受講できるのは建築士に限定され、講習終了者は「既存住宅状況調査技術者」として「既存住宅状況調査方法基準」に従って既存住宅の調査を行なうこととなる。
既存住宅売買瑕疵保険
売買された既存住宅に瑕疵があった場合に、補修費用等を支払う旨の保険をいう。保険を引き受けるのは、住宅瑕疵担保責任保険法人である。
既存住宅売買瑕疵保険を契約する際には、既存住宅現況調査などによって住宅の基本的な性能が検査・確認される。また、保険は、住宅の種類(戸建、マンション)売り主の性格(宅建業者、一般個人)、保険金支払い先(販売事業者、検査事業者、リフォーム工事者、売り主)によって区別されている。
寄託
特定物の保管を委託する契約。民法に規定されている契約のひとつで、当事者の一方が目的物の保管を委託し、相手がこれを承諾することによって成立する(諾成契約)。保管を引き受ける者が受寄者、保管を委託する者が寄託者、寄託する目的物が寄託物である。
寄託は契約によって成立するが、原則として、受寄者が寄託物を受け取るまでは契約を解除することができる。また、その沿革から、原則として無報酬と考えられているが、契約で有償の寄託にすることもできる。
受寄者は、無報酬の場合には「自己の財産におけると同一の注意」をもって、有償の場合には「善良なる管理者の注意」をもって、寄託物を保管する義務を負うほか、寄託者の承認なしに受託物を使用しない、寄託者の承諾等なしに寄託物を第三者に保管させないなどの義務がある。一方、寄託者は、有償の場合には報酬を支払わなければならず、寄託物の性質・瑕疵によって受寄者が受けた損害を賠償するなどの義務を負う。
寄託者は、返還時期を定めた場合であってもいつでも寄託物の返還を請求できる。一方、受寄者は、期間の定めが無いときはいつでも、定めがあるときはやむを得ない事由がある場合を除いてその期限後に返還することができる。また、寄託物の損傷等による損害賠償や受寄者が支出した費用の償還は、寄託物の返還から一年以内に請求しなければならない。
なお、営業に伴なう寄託や寄託を業とする場合(倉庫営業)については、民法に優先して商法に定める規定が適用される。例えば、営業に伴う受寄者は、無報酬の場合であっても「善良な管理者の注意」をもって寄託物を保管しならないし、倉庫営業者は、寄託物の預り証券及び質入証券を発行しなければならない。
また、特殊な寄託として「消費寄託」がある。これは、銀行預金などのように、受寄者は寄託物を消費することができ、返還は寄託物と同種・同等・同量のものをもってする寄託である。
客付け
不動産業界用語の一つで、売却を依頼された不動産の買い手を見つけることをいう。
依頼された不動産会社が自らそれに当たるとは限らず、他の不動産会社の紹介で買い手が見つかることも多い。
一方、売却を依頼されることを「元付け」という。
求償権
法律上の理由によって被った財産の減少について、特定の者に対してその返還を求める権利。民法によって認められている。
求償権が認められているのは、他者の債務を弁済した場合に、その他者に対してその弁済額の返還を求める場合などである。例えば、保証人の一人が債務を弁済し他の債務者が債務を免れたときのその分の返還請求、他人の行為によって損害賠償した場合のその他人に対する返還請求、債務の弁済によって不当利得が生じた場合の不当利得者に対する返還請求が該当する。
求償債権
民法上の概念で、一定の法律上の理由で被った財産の減少について、特定の者に対してその返還を求める権利をいい、一般には、他人の債務を弁済した者が、その他人に対して弁済額の返還を求める権利を指す。不法行為に対する損害賠償請求権ではないことに注意。
例えば、連帯保証人や信用保証会社が被保証人の債務を弁済した場合には、弁済者は、それによって債務履行を逃れた者に対して、逃れた額に相当する求償債権を得る。
そのほか、他人の行為によって損害賠償義務を負った場合に一定の要件のもとにその他人に対して賠償義務額の返還を請求することができるが、そのような請求権なども同様の債権である。
旧法上の借地権
借地借家法が施行された日(1992(平成4)年8月1日)より前に成立した借地権であって、旧借地法にもとづく借地権のこと。
借地借家に関する法制度は、かつては借地法・借家法の二本立てであったが、1992(平成4)年8月1日に借地借家法が施行されたことにより、一本化された。
この新借地借家法(1992(平成4)年8月1日施行)にもとづく借地権であって、定期借地権ではない借地権のことを「普通借地権」と呼ぶ。
これに対して、旧借地法にもとづく通常の借地権のことを「旧法上の借地権」と呼ぶことがある。
普通借地権と旧法上の借地権の間には、次のような違いがある。
1.旧法上の借地権は、あらかじめ存続期間を定めなかった場合には、非堅固な建物(木造を指す)については存続期間を30年とし、堅固な建物については存続期間を60年としていた。
しかし普通借地権では建物の堅固・非堅固による区別がなく、あらかじめ存続期間を定めなかった場合には存続期間を30年とした。
2.旧法上の借地権は、建物が老朽化し、朽廃した場合には、借地権が自動的に消滅することとされていた(旧借地法第2条、第5条)。しかし、普通借地権にはこうした朽廃による消滅の規定がない。
このようにいくつかの相違点があり、しかも現在でも、旧法上の借地権による借地と普通借地権による借地が並存しているため、不動産広告等では両者の違いを明記することが多い。
境界線付近の建築の制限
境界標の設置
土地所有者は、隣地所有者と共同の費用で境界標(土地の境を示す標)を設置できるとするルール。民法の相隣関係の一つとして認められている権利で、「境界権」または「界標設置権」という。
この場合の費用は、相隣者が等しい割合で(測量費は土地の広さで案分して)負担する。
境界(境界確定)
私法上の概念であり、土地の地番を区切る線をいう。
「けいかい」と読むこともある。
土地は、その表示登記に当たって筆に区分され地番が与えられるが、地番と地番の境が境界である。
争いのある境界を確定するためには、判決により境界線を確定することを求める(境界画定訴訟)ことができる。また2006(平成18)年1月には、当事者の申請に基づき、筆界特定登記官が「筆界調査委員」に調査を依頼した上で、その意見書をもとに境界を特定する制度(筆界特定制度)が創設された。
強行規定
法律の規定であって、公の秩序に関する規定を「強行規定」という。
また同じ意味で「強行法規」ということもある。
強行規定は、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される規定であると解釈されている。従って、強行規定に反するような契約をした場合には、その契約はその部分について無効とされる。
この反対に、当事者の意思によって適用しないことができる規定は「任意規定」という。
ある規定が強行規定であるかどうかは、その規定の性質にもとづいて判断するのが原則である。例えば、民法の相続に関する諸規定は、社会秩序の根本に関わる規定であるため「強行規定」であると判断されている。
これに対して、消費者や社会的弱者を保護するようないくつかの法律では、法律中で強行規定であることを明記している場合がある。
例えば、借地権の存続期間等について定めた借地借家法第3条から第8条については、借地借家法第9条で「第3条から第8条に反する特約で、借地権者に不利なものは無効とする」と明記されている。
強行法規
強行規定ともいう。
法律の規定であって、公の秩序に関する規定を「強行規定」という。
強行規定は、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される規定であると解釈されている。従って、強行規定に反するような契約をした場合には、その契約はその部分について無効とされる。
この反対に、当事者の意思によって適用しないことができる規定は「任意規定」という。
ある規定が強行規定であるかどうかは、その規定の性質にもとづいて判断するのが原則である。例えば、民法の相続に関する諸規定は、社会秩序の根本に関わる規定であるため「強行規定」であると判断されている。
これに対して、消費者や社会的弱者を保護するようないくつかの法律では、法律中で強行規定であることを明記している場合がある。
例えば、借地権の存続期間等について定めた借地借家法第3条から第8条については、借地借家法第9条で「第3条から第8条に反する特約で、借地権者に不利なものは無効とする」と明記されている。
強制執行
債務者に給付義務を強制的に履行させる手続きのことを「強制執行」という。
強制執行を行なうには、公的機関が作成した確定判決などの文書(債務名義)が必要であり、またその債務名義に「執行文」が記載されていることが必要である。
強制執行は、金銭執行と非金銭執行に分類される。
金銭執行とは、債務者の財産を差し押さえて(さらには競売により換価して)、金銭を債権者に交付するような強制執行である。代表的な金銭執行としては「強制競売」と「債権差押」がある。
また非金銭執行とは、金銭債権以外の債権(例えば土地引渡請求権)を実現するために行なわれる等の強制執行である。
なお、債務者(または物上保証人)の不動産に抵当権を設定している債権者が、その抵当権にもとづき不動産を競売することは、「任意競売」と呼ばれる。しかし任意競売は、強制執行には含まれない。また、任意競売では「抵当権の存在を証する文書」は要求されるが、「債務名義」は必要ではない。
供託
法令の規定により、金銭、有価証券、その他の物件を地方法務局などにある供託所または一定の者に寄託することをいう。
供託は、弁済供託(債務者が債権者の受領拒絶、受領不能、債権者を確知できない場合等に弁済を目的としてするもの)、担保保証供託(後の支払を確保を担保するもの)、執行供託(民事執行の目的たる金銭または換価代金を当事者に交付するためのもの)、保管供託(他人の物を直ちに処分し得ないときに一時保管するためのもの)、没収供託(公職選挙立候補者の供託のように没収に備えるためのもの)の5種類に分類できる。また、そのための手続きは、供託法に定められている。
宅地建物取引業を営む場合には、営業保証金を供託しなければならないとされているが、宅地建物取引業保証協会の社員はその必要はなく、別途弁済業務保証金分担金を納付することとされている。
共同担保目録
不動産登記において、一つの債権の担保として複数の不動産に対して設定された抵当権(共同担保)を一括して記載した登記事項をいう。例えば、担保価値を保全するために、土地とその上の建物、土地とそれに接続する私道の共有権などを共同担保とするのが通例である。また、担保額を確保するために複数の不動産を共同担保とする場合もある。
従来は、抵当権の登記の際に共同担保とする物件を記載したリスト(これが共同担保目録)を添付することになっていたが、現在は登記官の職権で記載される。
共同担保目録は、登記事項証明書の申請の際にそれを必要とする旨の表示をすれば確認できる。
共同仲介
1つの不動産取引を複数の不動産会社が共同で仲介することをいう。
「共同媒介」ともいう。
売り手と買い手をそれぞれ紹介し合う場合のほか、売買や賃貸借の依頼情報を共有して業務に活用する場合や、代理店などによって一体的に仲介業務を行なう場合なども共同仲介である。
大規模に店舗を展開している不動産会社は別として、一般的には、不動産取引の媒介は共同で実施する場合が多い。不動産取引を迅速・公正に仲介するためには、情報を共有することが有効だからである。
共同媒介
一つの不動産取引を複数の不動産会社が媒介することをいう。売り手と買い手をそれぞれ紹介し合う場合のほか、売買や賃貸借の依頼情報を共有して業務に活用する場合、代理店などによって一体的に媒介業務を行なう場合なども共同媒介である。
大規模に店舗を展開している不動産会社は別として、一般的には、不動産取引の媒介は共同で実施する場合が多い。不動産取引を媒介するためには、情報のネットワークの充実が必要だからである。
脅迫
私法上の概念で、人に恐怖心を抱かせて自由な意思決定を妨げる行為をいう。
強迫は不法行為とされ、強迫によってなされた意思表示は取り消すことができる。この場合、第三者への対抗も有効のほか、損害賠償請求なども可能である。
なお、「脅迫」は刑法上の用語で強迫とは別の概念であるが、事実上重なることが多い。
また、心理学で使われる「強迫」は全く別の用語である。
強迫
他人に害悪を告知し、他人に畏怖を与えることにより、他人に真意に反した意思表示を行なわせようとする行為である。
(詳しくは強迫による意思表示へ)
強迫による意思表示
強迫とは、他人に害悪を告知し、他人に畏怖を与えることにより、他人に真意に反した意思表示を行なわせようとする行為である。強迫を受けた者が行なった意思表示は、取り消すことができる(民法第96条第1項)。
強迫とは、具体的には「取引をしないとひどい目に遭わせる」などと害悪を告知して、畏怖を感じさせる場合を指す。ただし、害悪の内容が法律的に正当なものであっても、強迫に該当する場合がある(例えば、会社役員に対して「役員の不正を告発する」と告知して、畏怖を感じさせ、無理やり取引を行なおうとする場合など)。
また、強迫行為と意思表示との間には因果関係が必要とされているので、強迫行為があったとしても意思表示との間に因果関係がない場合には、その意思表示を取り消すことはできない。例えば、強迫を受けた者が畏怖を感じなかった場合には、強迫行為と意思表示の因果関係が否定される。
また、強迫により被害者が完全に意思の自由を喪失してしまった場合には、その意思表示は無効となる。例えば、軟禁状態におき、暴力をふるうなどして無理やり意思表示を行なうよう強要した場合には、もはや自由意思を喪失しているため、意思表示は無効と解釈される(昭和33年7月1日最高裁判決)。
なお、強迫により法律行為が行なわれた場合には、強迫があったことを知らない(=善意の)第三者はまったく保護されない。この点で民法は、詐欺の被害者よりも、強迫の被害者をよりいっそう保護しているということができる。
(「詐欺における第三者保護」を参照のこと)
なお、強迫は取引の当事者が行なう場合だけでなく、当事者以外の者が行なう場合もあるが、このような第三者による強迫の場合でも、強迫を受けた者が行なった意思表示は、取り消すことができる(民法第96条第1項)。
共有
私法上の概念で、複数の者が、同一の物を同時に所有している形をいう。
例えば、相続人が複数の場合の相続の際に、遺産が分割されるまでは相続人が遺産を「共有」することになる。また分譲マンションの共用部分は、区分所有者の「共有」に属している。
なお、共有物に対する各共有者の権利を「持分」または「持分権」と呼び、それぞれ単独で自由に持分を譲渡することができる。また、共有者の氏名を「共有名義」という。
共有名義
「共有」を参照。
共有持分
複数の人が一つの物を共同で所有しているとき、それぞれの人がその物について持っている所有権の割合を「共有持分」という。
例えば、相続が発生して、3人の子が1つの土地を相続したとき、遺産分割をする前の時点では、各相続人のその土地に関する共有持分は「3分の1」である。
虚偽表示
本人が相手方と通じて、虚偽の意思表示をすることをいう。
例えば、本人も相手方も土地の売買契約を締結するつもりがまったくないのに、お互いに相談のうえで、土地の売買契約を締結したかのように見せかける場合が、この虚偽表示に該当する。
(お互いに通じたうえで行なう虚偽の表示であるという意味で「通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)」と呼ばれることもある)
このような虚偽表示は、本人の有効な内心的効果意思を欠くので、原則として無効となる(民法第94条第1項)。
例えばAが土地を売る意思がなく、Bが土地を買う意思がないのに、相談のうえで仮装の土地売買契約を締結し、土地の所有名義をAからBに移したという場合には、AB間ではこの土地売買契約は無効である。従ってAは、この土地の所有名義をBからAへ戻すように、Bに対していつでも主張することができる。
しかしながら、上記の例で土地の所有名義をAからBに移した間に、Bが所有名義が自分にあることを利用してこの土地を事情を知らない第三者Cに売却してしまった場合には、この善意の(=事情を知らない)第三者は保護されるべきである。
そこで、民法ではこうした善意の第三者を保護する規定として民法第94条第2項を置いている。
(詳しくは虚偽表示における第三者保護へ)
虚偽表示における第三者保護
本人が相手方と通じて、虚偽の意思表示をすることを「虚偽表示」といい、民法では虚偽表示にもとづく法律行為を原則として無効としている(民法第94条第1項)。
例えばAが土地を売る意思がなく、Bが土地を買う意思がないのに、相談のうえで仮装の土地売買契約を締結し、土地の所有名義をAからBに移したという場合は虚偽表示に該当するので、AB間の土地売買契約は無効である。
しかし、この場合において、土地の所有名義をAからBに移した間に、Bが所有名義が自分にあることを利用してこの土地を事情を知らない第三者Cに売却し、さらにAB間の土地売買契約が無効であるとすれば、Cは権利のないBから土地を購入したことになるので、Cには土地をAに返還する義務が生じてしまう。しかし、これでは善意の(=事情を知らない)第三者であるCの取引の安全が害される結果となり、不当である。
そこで、民法ではこうした第三者を保護する規定として、民法第94条第2項を設け、「虚偽表示の無効は善意の第三者に対して主張することができない」と定めている。この民法の規定により、上記の例ではAとBは、AB間の土地売買契約の無効を善意のCに対して主張することができない。その結果、Cは問題の土地の所有権を有効に取得できることとなる。
なお、民法第94条第2項では、第三者が保護されるためには第三者が善意であること(事情を知らないこと)を要件としており、第三者が無過失であることまでは要求していない(判例)。
しかし、民法第94条第2項が類推適用される場面では、第三者に善意かつ無過失であることを要求する場合もある。
(詳しくは民法第94条第2項の類推適用へ)
極度額
根抵当権の目的不動産により担保される債権の弁済上限額。根抵当権の設定に当たって定められ、根抵当権者は、極度額を限度に、確定した元本および利息等・損害賠償金について根抵当権を行使すること(他の債権に先立って弁済を受けること)ができる。
極度額は、利害関係者の承諾を得なければ変更できない。また、元本の確定後は、極度額を、現に存する債権の額および以後2年間に生ずべき利息等・損害賠償金の合計額に減額することができる。
なお、根抵当不動産を取得した第三者等は、元本確定後の債務額が極度額を超えている場合、極度額を支払うことによって根抵当権を消滅させることができる。
金銭消費貸借契約
借主が、貸主から金銭を借り入れてその金銭を消費し、その借入額と同額の金銭(利息付の場合は利息分も含めて)を貸主に返済するという契約のことである。
住宅を購入するために、住宅ローンを金融機関から借り入れる場合には、購入者は購入する住宅に抵当権を設定し、抵当として金融機関に差し入れるのが一般的である。
この場合には、金銭消費貸借契約と抵当権設定契約をまとめて一つの契約書に盛り込むことが多く、こうした契約は「金銭消費貸借抵当権設定契約」のように呼ばれる。
金銭消費貸借抵当権設定契約には次の契約条項が記載されるのが通例である。
1.借入金額・利率・返済期日・遅延損害金
2.返済の延滞や債務者の信用状況の悪化が生じた場合の措置
3.不動産に対する抵当権設定
4.不動産の滅失等の場合における追加担保の差し入れ
5.不動産の売却・賃貸借等の制限
6.火災保険への加入
7.保証人または保証会社による保証
禁治産者
常に心神喪失の状態にあり、禁治産の宣告を受けた者のこと(旧民法第7条)。
2000(平成12)年に民法が改正・施行されたため、この禁治産者制度は成年被後見人制度へと移行した(詳しくは「成年被後見人」へ)。
近傍宅地
登録免許税額の算定において、課税対象土地の価格評価のために用いる土地。「近傍類似地」「隣接地」とも言われる。
登録免許税額の算定に当たって用いる土地評価額は、原則としてその固定資産税評価額とされているが、私道、ため池、用水路など固定資産税が非課税の土地については評価額が定まっていない。この場合には、「評価対象の土地に接近するほぼ類似の土地」を指定して、その固定資産評価額の30%を課税対象土地の評価額とすることとされている。近傍宅地は、このときの「評価対象の土地に接近するほぼ類似の土地」である。
近傍宅地の指定は、登録免許税を課す法務局の業務であるが、指定方法は法務局によって異なるので確認する必要がある。
業界団体
産業ごとに結成されている同業種の集まり。その産業の発展のために、研修の実施、会員の規律の維持、社会的理解の促進、行政庁との連絡調整などの活動に当たっている。
不動産業の全国的な業界団体としては、(一社)不動産協会、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)、(公社)全日本不動産協会、(一社)日本住宅建設産業協会、(一社)不動産流通経営協会などがある。
そのほか、マンション管理、ビル管理、不動産の証券化などの事業についても、それぞれに業界団体が結成されている。
業務管理者(賃貸住宅管理業の〜)
賃貸住宅の管理に関する知識・経験等を有する一定の資格者。賃貸住宅管理業法に基づき、賃貸住宅管理業を営む場合に、事務所毎に選任し配置しなければならないとされている。
業務管理者の資格は、賃貸不動産経営管理士、宅地建物取引士等であって一定の要件を満たす者について認められる。
業務停止
監督処分の一つで、宅地建物取引業者に対してその業務の全部または一部の停止を命令することをいう。
業務停止を命令できる場合は宅地建物取引業法に規定されており、業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき、業務に関し取引の公正を害する行為をしたとき、監督処分としてなされた指示に従わないときなどに行なわれる。その期間は、1年以内である。
また、業務停止の処分に違反したときには、宅地建物取引業の免許を取り消すこともできる。
業務を行なう場所の届出
宅地建物取引業者が、その業務を行なう案内所・展示会等について、業務内容その他を、業務開始の10日前までに、その案内所等を管轄する知事等に事前に届け出ること。
1.趣旨
宅地建物取引業者は、宅地建物の分譲・代理・媒介のために現地案内所を設けたり、展示会・相談会・抽選会を催すなどの方法で、「事務所」以外の場所で契約を締結し、または契約の申込みを受ける場合がある。
このような場合についても公的機関が監督し、業務の適正を確保する必要があるので、そのような案内所等を事前に届け出るよう宅地建物取引業者に対して義務付けたものである。
2.届出の対象となる場所
国土交通省令で定める場所である。これは、具体的には「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」のことを指している。
(詳細は「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」へ)
3.届出をすべき時期
案内所・展示会等で業務を開始する日の10日前までに届け出なければならない。
4.届出の方法
宅地建物取引業者は、所定の様式による届出を、免許を受けた都道府県知事(または免許を受けた国土交通大臣)と、その案内所等が所在する都道府県の都道府県知事の両方に届け出なければならない。
なお、免許を受けた都道府県知事(または免許を受けた国土交通大臣)に対する届出は、案内所等の所在地を管轄する知事を経由することになっている。
5.届出書の内容
届出書の様式は、施行規則様式第12号に規定されている。
届出書の内容は、「対象となる案内所・展示会等の場所」「業務の種別」「業務の態様(契約の締結、契約の申込みの受理)」「取り扱う宅地建物の内容等」「業務を行なう期間」「専任の宅地建物取引士の氏名・登録番号」である。
銀行印(会社の~)
会社が銀行口座を開設する際に、銀行に届け出た印鑑のこと。
小切手や手形の振り出しにこの銀行印が必要である。
銀行印(個人の~)
個人が銀行口座を開設した際に、銀行に届け出た印鑑のこと。
空室対策
賃貸住宅やビルの経営において、賃借人(テナント)がいない住戸(空室)を解消することまたはそのための方策をいう。
空室対策は、借し主のニーズにより良く応えることを基本として実施される。
例えば、賃借人の属性を広げる、家賃、敷金など賃借条件を適正化する、リフォームやリノベーションなどによって賃貸スペースの価値を高めるなどが行なわれている。
区分建物
一棟の建物のうち、構造上区分されている部分であって、独立して住居等の用途に使用できるものをいう(不動産登記法第2条第22号)。
具体的には、分譲マンションの各住戸が「区分建物」である。
区分建物の登記記録
一棟の建物を区分した各部分のことを、不動産登記法では区分建物と呼ぶ。
この区分建物の登記記録については、普通の建物の登記記録とは異なる特徴がある。
1.表題部が2種類存在する。一棟の建物全体の表題部があり、その次に各区分建物の表題部が置かれる。一棟の建物全体の表題部には、一棟の建物全体の物理的状況が表示され、各区分建物の表題部にはそれぞれの区分建物の物理的状況が表示される。
2.表題部に、建物の物理的状況を、最初に登記をすることを「表題登記」という。一棟の建物全体についてこの表題登記をする際は、その建物に属するすべての区分建物について、同時に表題登記をしなければならない(不動産登記法第48条第1項)。
3.区分建物の敷地は、区分建物所有者全員による共有となる。そのため、敷地の持分と区分建物を別々に売買すること等が法律(建物の区分所有に関する法律)により原則的に禁止されている。
そこで不動産登記法では、区分建物の敷地である土地に「敷地権である旨の登記」という特殊な登記を記載し、その登記がなされた以降は、土地と建物が一体的に処分されることを登記上でも明確にしている(詳細は「敷地権である旨の登記」へ)。
組合
共同の事業を営むために、複数の人が出資し、組合契約を締結することで結成された人の団体のこと(民法667条等)。
組合は法人と同様に人の団体であるが、組合は法人格を持たず、法人は法人格を持つという大きな違いがある。
組合は法人と比較して、団体としての拘束が弱く、構成員の個性が顕著であるといわれている。例えば、組合の財産は全組合員の合有であり、組合の債務に対しては構成員がその個人財産によって弁済する責任を負う。また構成員が組合を脱退する際には持分の払い戻しが認められている。
このように組合は個人の集合としての性格が色濃く、法人とは異なっている(民法第676条、第675条、第681条など)。
クロージング
不動産を売却する媒介業務が完了することをいう。
その業務は、通常、宅地建物の所有者からの売却依頼から始まり、物件の査定、広告、買い手の勧誘、価格や条件の交渉などを経て、売買契約の締結、物件の引渡しと代金決済で完了する。このように、媒介業務は連続的に進んで行くのであり、一件落着すれば「閉じる」。
クーリングオフ
一定期間、無条件で契約の申込みの撤回または解除ができる制度。消費者を保護するための措置で、訪問販売、電話勧誘販売などに適用されるが、一定の宅地建物の取引もその対象となる。
クーリングオフの適用があるのは、
1.宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地建物売買契約において、2.その事務所やそれに準ずる場所以外の場所で申込みや締結がされた場合であり、3.撤回または解除ができるのは8日間以内
である。
撤回または解除は書面で通知しなければならないが、その理由などを示す必要はなく、発信日を明確にすれば良い。その通知があったときには、売主は速やかに手付金等受領した金銭を返還しなければならない。
経年劣化
時間とともに品質が低下すること。雨風・湿気・温度変化・日照などによる品質の低下だけでなく、通常の方法で使い続けることによる摩滅、汚れ等の損耗も経年劣化である。
不動産の賃貸借契約解除の際に賃借人が負担すべきとされ、原状回復は、賃借人の故意・過失等による劣化の回復であって、経年劣化による損耗の回復は含まれない。たとえば、国土交通省が示す「原状回復ガイドライン」では、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡などの通常の住まい方で発生するものや、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂などの建物の構造により発生するものの回復は、賃貸人の負担となるとしている。
競売
債権者が裁判所を通じて、債務者の財産(不動産)を競りにかけて、最高価格の申出人に対して売却し、その売却代金によって債務の弁済を受けるという制度のこと。
刑罰
犯罪に対して国家が犯人に与える罰のこと。
刑罰には重い順に「死刑、懲役、禁固、罰金、拘留、科料」があるとされている。
「懲役、禁固、拘留」は自由刑に分類され、「罰金、科料」は財産刑に分類される。
また、財産刑の付加刑として「没収」がある。
契約
対立する2個以上の意思表示の合致によって成立する法律行為のこと。
具体的には、売買契約、賃貸借契約、請負契約などのように、一方が申し込み、他方が承諾するという関係にある法律行為である。
契約一時金(賃貸住宅における~)
契約責任原理
契約の締結によって一定の行為を履行する責任が生じるという私法上の原理。債務不履行によって損害賠償責任が生じるのはこの原理に基づく。
伝統的に、契約責任原理によって損害賠償責任が生じるのは、「債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)」によって債務が履行されない場合であり、債務者の故意・過失又は信義則上これと同等の事由がない場合には、損害賠償責任は生じないと考えられている。これに対して、消費者契約法理の進展などを背景にして、契約によって引き受けた結果を実現できなかったことによって生じた損害(ただし契約が想定していない障害による損害を除く)に対しては賠償の責任があるとし、債務不履行に対して責任を負わないのは「契約において債務者が引き受けていなかった事由」がある場合であるという考え方が提起されている。
このような考え方の違いは、契約責任原理を適用する場合に責任を負う根拠をどこに求めるかの違いの現れでもあり、前者は故意・過失の存在に、後者は契約の拘束に反する行動に、それぞれ責任を負わせることとなる。最近は、契約に基づく規律を重視する立場が強くなっていて、どちらの考え方を適用すべきかなどについて議論がある。
なお、契約責任原理の適用に当たっては、不動産の売買のような特定物の取引において、売主が引き受ける責任の範囲や内容を明確に確定できるかどうかなど実務的な視点からの議論も必要である。
契約締結上の過失
私法上の概念で、契約締結の過程において、一方の過失によって相手方が損害を受けたという場合に、その賠償責任を認めようとする責任理論をいう。
契約に当たって、調査・報告、配慮、注意などの義務を怠ったことにより、契約が不成立または無効となって不測の損害を与えたときに、民法で規定する信義則に違反したとして、損害賠償の責任を負うことになる。この考え方は、判例によって確立しており、損害賠償の範囲は、契約が有効なものと信じたことにより被った損害(現地検分の費用、銀行融資の利息、改修などに要した追加費用など)とされる。
例えば、売主に調査・告知義務違反があり損害を与えた場合(例えば、隣地の高層マンション計画の不告知によって生じた日照障害)、契約の準備段階で注意義務違反があり契約締結に至らなかった場合(例えば、相手に誤信を与えて取引予定の建物が改修されたが契約締結に至らなかった場合に、誤信を与えないようにする注意を怠ったとされたケース)などがその例である。
契約の解除
契約締結時にさかのぼって契約を解消すること。
ただし、賃貸借契約のように継続的な契約の場合には、契約の効果は将来に向かってのみ解消するため、解約ということが多い。
その方法は、大きく、当事者の片方が一方的に契約を解除する場合と契約の当事者で話し合って契約をなかったことにする場合(合意解除)に分かれる。前者はさらに、法律の規定によって解除する権限が発生するもの(法定解除)と、契約などで定めた条件に従って発生するもの(約定解除)の2種類がある。
法定解除ができるのは、相手方に履行遅滞や履行不能のような債務不履行があった場合と、売買契約における契約不適合責任にもとづいて解除する場合である。また、約定解除には、解約金を支払っていつでも解約できると定めた場合(解約手付)、期間内に建物を建築しないときには買い戻す約束をした場合(買戻特約)などのケースがある。
契約不適合
売買や請負において、契約に基づいて引き渡された目的物が、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合していないことをいう。
たとえば、土地の地目が異なっていれば種類が不適合であるし、建物の耐震強度が不足していれば品質の不適合となる。また、受け取った品物の個数が違えば数量の不適合である。
目的物が不動産の場合には、品質に関する不適合の判断が問題となる。「住み心地」のような品質は評価が難しいし、耐震性、耐火性などは設計や工事記録を精査しないとわからない。あるいは、既存住宅などについては経年的な品質の劣化をも考慮しなければならない。住宅性能評価や住宅インスペクションを実施することは、契約不適合に対応するためにも有効である。
また、不動産売買において契約表示面積と実測面積のあいだに過不足があったときには、契約において実測面積を基礎に代金額を定めるとの合意がある場合に契約不適合となる。
契約不適合の場合には、買主・注文者は、売主・請負人に対して、履行の追完請求(補修や代替物等の引渡し請求)、代金減額請求、報酬減額請求、損害賠償請求又は契約解除権の行使をすることができる。ただしこれらの請求等をするためには、原則として、不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知しなければならないとされている。
このルールは、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって明確化された。
契約不適合責任
売買契約や請負契約の履行において、引き渡された売買の目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主・請負人が買主・注文者に対して負うこととなる責任。債務不履行により生じる責任のひとつである。
買主・注文者は、契約不適合責任を負う売主・請負人に対して、履行の追完請求(補修や代替物等の引渡し請求)、代金・報酬の減額請求、損害賠償請求又は契約解除権の行使をすることができる。ただしこれらの請求等をするためには、原則として、不適合を知った時から一年以内に不適合である旨を通知しなければならない。
民法(債権関係)改正前は、売買の目的物に隠れたる瑕疵があったときの責任等について特別の規定が定められていたが、改正によってこの規定が削除され、隠れた瑕疵があった場合を含めて、目的物が契約に適合しない場合の規定に統合・整理された(改正法の施行は2020年4月1日から)。この統合・整理された規定では、引き渡した目的物が契約に適合しない場合には、引渡した者(売主・請負人)に履行の追完、代金の減額等の責任が生じることとなる。この生じる責任が契約不適合責任である。
なお、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」とおおむね同義であるが、特定物(その固有性に着目して取引され代替性がない)の売買についてのみ使われる用語である。
権原
私法上の概念で、ある法律行為または事実行為を正当とする法律上の原因をいう。
例えば、他人の土地に建物を建築する権原は、地上権、賃借権等である。
ただし、占有の場合には、占有を正当とする権利にもとづかないときにもその権利は保護され、占有するに至ったすべての原因が権原となることに注意が必要である。権限と区別して、「けんばら」と読むこともある。
権限外の行為の表見代理
表見代理は、代理権のない者(無権代理人)と本人との特殊な関係によって無権代理人を真実の代理人であると誤信させ、代理権の存在を信じて取引した善意無過失の相手方を保護するための制度である。表見代理においては、その代理行為を代理権のある行為として扱い、本人に対して効力を生じさせる(取引の効果を本人に帰属させる)こととなる。
なお、代理権授与表示による表見代理、代理権消滅後の表見代理、権限外の行為の表見代理の3種類がある。
権限外の行為の表見代理は、代理人が本人から与えられた権限以外の行為をした場合に、相手方が権限内の行為であると信じ、そう信じることについて正当の理由がある場合である。この場合には、代理権限内の行為であると信じた無過失の相手方は、本人に対して行為の効力を主張できる。
権限外の行為の表見代理の例は、たとえば、財産管理のために土地を賃貸する代理権を与えられた代理人が、土地を売却する契約を締結した場合である。
権限踰越の表見代理
表見代理となる場合の一つ。民法に定める「権限外の行為の表見代理」と同じである。詳しくは、「権限外の行為の表見代理」を参照。
検索の抗弁権
保証人が「主債務者には取立てが容易な財産がある」と立証した場合には、債権者は先にその主債務者の財産から取立てをしなければならない。これを「検索の抗弁権」と呼んでいる(民法第453条)。
例えば、AがBから100万円の借金をし、Aの友人であるCがその借金の保証人になったとしよう。このとき債権者Bが、保証人Cに対して100万円の債務を支払うように請求したとする。
その際に、保証人Cが「主債務者Aには強制執行が容易な銀行預金60万円がある」と証明し、保証人Cが検索の抗弁権を行使したならば、債権者Bはまず主債務者Aから60万円を取り立てなければならない(もし、主債務者Aが取立てに応じない場合には、その銀行預金に対して債権差押などを行なうべきである)。
また、債権者が迅速な取立てを怠ったために、取立て可能であった金銭が取立てできなくなった場合には、その責任は債権者が負う。例えば上記例で、債権者Bが取立てを遅らせたために、他の債権者Dが60万円の銀行預金を取り立ててしまい、債権者Bは預金からの取立てができなくなったとする。このとき保証人Cは、その金額を差し引いた40万円についてのみ保証債務を負うこととなる(民法第455条)。
このように検索の抗弁権は、債権者の立場を弱くするものである。なお連帯保証の場合には、連帯保証人にはこの検索の抗弁権がないことに注意したい。
建設協力金
地主が、建物賃借者(テナント)から建設費を借りて賃貸建物を建築する場合の、その借入金をいう。
一般的に、建設された建物は建設協力金の貸主(建物賃借者)に賃貸され、その賃料と建設協力金の返済額とが相殺されることになる。
建設協力金によって不動産賃貸事業を営む方法は、土地活用手法の一つとされ、リースバック方式ともいわれる。
建ぺい率
敷地面積に対する建築面積(建物の水平投影面積)の割合(%)。
例えば、敷地面積が100平方メートル、その敷地上にある住宅の建築面積が50平方メートルならば、この住宅の建ぺい率は50%ということになる。
建物の建ぺい率の限度は、原則として、用途地域ごとに、都市計画によってあらかじめ指定されている。
顕名
代理人が「本人のために代理行為を行なう」ことを示すことを顕名という。
例えば、契約を締結する場合に「Aの代理人であるB」として署名することが顕名に該当する。顕名とは「名をあらわす」という意味である。
代理の本質については顕名説と代理権説が対立しているが、通説である代理権説に立つときは、顕名は代理の本質的要素ではないので、仮に顕名がなくとも代理権は有効に成立すると解釈されている(詳しくは他人効へ)。顕名については、次のようないくつかの問題がある。
1.顕名の本質について
民法第100条が顕名を必要としている根拠は、取引の相手方に本人が誰であるかを明示することにより、取引の安全を確保しようとする趣旨である(代理権説の立場から)。
2.顕名がまったくない場合について
例えばAの代理人であるBが、相手方Cとの間で売買契約を締結するとき、うっかりして契約書に「B」とだけ署名した場合には、原則としてその契約はBが自分のために行なったものとみなされる(民法第100条本文)。
ただし、前後の事情から見て、BがAの代理人であることが明らかである場合には、たとえ契約書に「B」とだけ署名したとしても、BはAの代理人として有効に顕名をしたものとされる(民法第100条但書)。これは相手方Cの取引安全を害する可能性がないからである。
3.本人の名前を直接表示した場合について
例えばAの代理人であるBが、相手方Cとの間で売買契約を締結するとき、うっかりして契約書に「A」とだけ署名した場合については、有効な顕名がないことになる。
この場合には民法に明文がないので問題であるが、判例は、前後の事情から代理人であることが明らかであるならば有効な代理行為として成立するとしている。
相手方Cにとっては、仮に代理人Bが本人Aであると誤信していた(人違いをしていた)としても、取引相手がAであるならば契約を行なってよいとの判断のもとに契約したため、実質上の支障はない。よって、Cの取引安全の面からも支障がないこととなる。
権利金
土地や建物の賃借権を設定したり譲渡したりするときに、賃借人が地主・家主に支払う金銭をいう。
賃料とは別に授受され、敷金と異なって契約が終了しても返還されることはない。その授受は、都市部で広く見られる社会的な慣行である。
その法的な性格は、
1.所有権類似の法的保護を受ける借地権の対価、2.賃料の一部の一括前払い、3.賃借権の譲渡・転貸に対する事前の承認料
などといわれ、契約の内容で判断しなければならないが、事実として行なわれている。
なお、借地権の取引においては、通常、権利金に相当する額が対価となっていて、その額は地価の7割程度の水準である。また、貸主が受け取る権利金は、課税上、不動産譲渡益と同様に取り扱われている。
権利質
財産権に設定された質権。
質権は原則として動産・不動産に設定されるが、債権・株式などの財産権にも設定することができ、これが「権利質」である。権利質についての民法の適用は、動産・不動産に設定された質権の規定が準用される。
権利証
不動産登記における「登記済証」をいう。「登記済証」を参照。
権利承継の登記・遺言による
相続させる旨の遺言等により承継された財産に関する権利の登記。
従来、相続させる旨の遺言等により承継された財産については、登記がなくても第三者に対抗できるとされていたが、2019年7月1日以降は、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされた。
権利登記
土地・建物に関する権利の状況・権利の変動を表示した登記のこと。
権利登記は、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される登記記録のうち、権利部に記載される。
権利の一部が他人に属する場合における売り主の担保責任
売買した権利の一部が他人に属する場合に、その権利を取得して買い主に移転する売り主の義務をいう。契約不適合責任に基づく義務である。
例えば、売買した土地建物が売り主以外の者との共有物であったとき、土地は他者が所有していて建物は借地権付きのものであったときなどが該当する。この場合に、他人に属する権利を取得して買い主に移転すること(履行の追完)ができないときには、買い主は、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除権の行使をすることができる。
なお、これらの請求等は、原則として契約不適合を知った時から一年以内に不適合である旨を通知しなければならない。
権利能力
法律上の権利・義務の主体となることができるという資格のこと。
人間(自然人)は生まれながらにして、このような権利能力を有するとされている(民法第1条の3)。
また社団法人などの法人も権利能力を有することとされている(民法第43条)。
なお、出生前の胎児については、原則として権利能力を有しないこととされているが、相続・遺贈・損害賠償については出生前の胎児であっても権利能力があるものとみなされる。ただし、死産の場合には初めから権利能力がなかったこととなる(民法第721条、第886条、第965条)。
権利の濫用
私法上の概念で、一見権利の行使とみられるが、具体的な情況や実際の結果に照らしてそれを認めることができないと判断されることをいう。
民法には、「権利の濫用はこれを許さない」という規定がある。
権利の濫用であるかどうかは具体的に判断するほかないが、例えば、加害を目的でのみなされた権利行使は一般的に濫用とされる。
現実の裁判においては、権利の行使を認めた場合と認めない場合に生じる不利益や社会的影響を比較較量して判断されることが多い。例えば、自己の土地の利用により近隣に迷惑が及ぶ場合には、土地利用の合理性、従来の経緯や慣行、迷惑の程度や受忍の可能性、影響回避の手段などを比較較量して、所有権の濫用であるかどうかが判断されることになるであろう(所有権は絶対的なものではないのである)。
権利の濫用であるとされたときには、権利行使の効果が生じないばかりか、権利を行使した者は不法行為として損害賠償の責任を負うことになる。
権利部
一筆の土地または一個の建物ごとに作成される登記記録のうち、所有権・地上権・賃借権・抵当権などの権利に関する状況を記載した部分のこと。
権利部は、さらに甲区と乙区に分かれる。
権利部という用語は、従来は使用されていなかったが、不動産登記法の全面改正(2004(平成16)年6月18日公布・2005(平成17)年3月7日施行)で新たに導入された。
原価法
不動産鑑定評価において、不動産の再調達原価をベースとして、対象不動産の価格を求める手法のこと。
原価法では、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行なって対象不動産の試算価格を求める。この原価法による試算価格は「積算価格」と呼ばれる。
原価法は、対象不動産が「建物」または「建物およびその敷地」である場合に、再調達原価の把握と減価修正を適切に行なうことができるときに有効である。
また、対象不動産が「土地のみ」である場合においても、最近造成された造成地などのように再調達原価を適切に求めることができるときは、この原価法を適用することができる。
この場合において、対象不動産が現に存在するものでないときは、価格時点における再調達原価を適切に求めることができる場合に限り適用することができるものとする。
現況有姿
現在あるがままの状態を意味する。
山林や原野などを造成工事をしないで販売することを「現況有姿分譲」といい、市街化調整区域の別荘地などの分譲でよく行なわれる。通常は、電気、ガス、水道などの施設が整備されていないために、そのままでは生活できない。分譲広告の際には、現況有姿分譲地であってそのままでは生活する施設がない旨表示しなければならない。
また、売主の瑕疵担保責任を免れるために、売買契約中に「現況有姿で引渡す」旨記載して取引することがあるが(これを「現況有姿売買」という)、引渡しまでの間に目的物に変化があったときなどまで責任を免れることができるかどうかについては、消極的(ただちには免れない)に解する意見が強い。
現況有姿売買
現在あるがままの状態(現況有姿)で土地を売買することをいう。
山林や原野などを造成工事しないで販売することを「現況有姿分譲」といい、市街化調整区域の別荘地などの分譲でよく行なわれる。通常は、電気、ガス、水道などの施設が整備されていないために、そのままでは生活できない。分譲広告の際には、現況有姿分譲地であって、そのままでは生活する施設がない旨を表示しなければならない。
また、売主は瑕疵担保責任を免れるために、売買契約中に「現況有姿で引き渡す」旨を記載して取引することがあるが(現況有姿売買契約)、引渡しまでの間に目的物に変化があったときなどにおいてまで責任を免れることができるかどうかについては、消極的に解する(ただちには責任を免れられないとする)意見が強い。
現況有姿分譲
現在あるがままの状態で分譲する、の意味。
山林や原野などを造成工事をしないで販売することを「現況有姿分譲」といい、市街化調整区域の別荘地などの分譲でよく行なわれる。通常は、電気、ガス、水道などの施設が整備されていないために、そのままでは生活できない。分譲広告の際には、現況有姿分譲地であってそのままでは生活する施設がない旨表示しなければならない。
また、売主の瑕疵担保責任を免れるために、売買契約中に「現況有姿で引き渡す」旨記載して取引することがあるが(これを「現況有姿売買」という)、引渡しまでの間に目的物に変化があったときなどまで責任を免れることができるかどうかについては、消極的(ただちには免れない)に解する意見が強い。
原状回復
ある事実がなかったとしたら本来存在したであろう状態に戻すことをいう。
例えば、契約が解除された場合には、一般に契約締結以前の状態に戻さなければならないとされる(原状回復義務を負う)。また、損害賠償の方法として、金銭で補償するのではなく損害が発生する以前の状態に戻す方法(原状回復による賠償)が認められる場合がある。
借家契約では、退去時の原状回復義務を特約していることが多いが、「本来存在したであろう状態」にまで戻せばよく、借りた当時の状態にする必要はないとされている。つまり、契約に定められた使用方法に従って通常の使用をしていれば、経年劣化があってもそのまま返還すればよい。
国土交通省が公表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、賃借人が負担すべき原状回復費用は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」の範囲に限るとしている。また、東京都の「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例(賃貸住宅紛争防止条例、いわゆる東京ルール)」(2004年10月施行)では、重要事項説明の際に、借主に対して退去時の通常損耗等の復旧は貸主が行なうことが基本であること、入居期間中の必要な修繕は貸主が行なうことが基本であること、契約で借主の負担としている具体的な事項などを書面で説明しなければならないとしている。
原状回復義務
賃貸借契約の終了時に、賃借物(たとえば賃貸住宅)を借りてから生じた損傷を回復する義務。原状回復義務は賃借人が負う。
賃借人は、通常の使用収益によって生じた損耗及び賃借物の経年変化については、回復する義務はない。損傷が賃借人の責めに帰すことができない事由によるときにもそれを回復する義務を免れる。
なお、賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕(たとえば賃貸住宅の維持補修)をする義務を負っている。また、賃貸借契約の終了時に、受け取った敷金(賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務額を控除した残額)を返還する義務がある。
現状有姿
現況有姿のこと。
現在あるがままの状態を意味。
山林や原野などを造成工事をしないで販売することを「現況有姿分譲」といい、市街化調整区域の別荘地などの分譲でよく行なわれる。通常は、電気、ガス、水道などの施設が整備されていないために、そのままでは生活できない。分譲広告の際には、現況有姿分譲地であってそのままでは生活する施設がない旨表示しなければならない。
また、売主の瑕疵担保責任を免れるために、売買契約中に「現況有姿で引渡す」旨記載して取引することがあるが(これを「現況有姿売買」という)、引渡しまでの間に目的物に変化があったときなどまで責任を免れることができるかどうかについては、消極的(ただちには免れない)に解する意見が強い。
現存利益
正当な理由がないのに財産的利得を受け、これによって他人に財産上の損失を与えた場合には、利得を受けた者はその利得を返還する義務を負う(これを不当利得返還義務という)。
この場合において、利得を受けた者が善意のとき(すなわち正当な理由がないことを知らなかったとき)は、利得を受けた者は、利得が現に存在する範囲内で返還すればよいとされている。これを現存利益の返還義務と呼んでいる(民法第703条)。
具体的には、財産を遊興費で浪費してしまった場合にはその浪費分を差し引いた残額が現存利益である。ただし財産を生活費に消費した場合や、財産で借金を返済した場合には、それにより自分の財産の減少を免れているので、生活費や借金返済を差し引かない金額が現存利益となる。
限定承認
原野
耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地。人手が加わっていないこと、林地でないことが要件となる。
不動産登記における地目の一つであり、相続税および贈与税の課税での土地価額評価における地目ともなっている。
現状は雑草、かん木類のみが生育していても、耕作の履歴や痕跡があれば、原野と認めないのが一般的な取り扱いである。従って、耕作放棄地は一般に原野ではない。
行為能力
自分が行なった法律行為の効果を確定的に自分に帰属させる能力のこと。
法律行為を有効に行なうには意思能力を持つことが必要とされているが、実際の契約等において意思能力を持たない者(=意思無能力者)が、契約当時に意思能力を欠いていたことを事後的に証明することは非常に困難である。
そこで民法では、正常かつ完成された精神能力を持たない者を画一的に「行為能力が制限された者」(=制限能力者)として取り扱い、こうした者を保護している。
このような制限能力者には、法定代理人または保佐人・補助人が選任されている。制限能力者が、これらの法定代理人等の同意を得ないで単独で行なった法律行為は原則として事後的に取消しが可能である。
このように法定代理人等に同意権を与えることにより、制限能力者が不適切な法律行為により不利益を被ることがないよう監視しているのである。
制限能力者とされているのは、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人である。
公益財団法人
一般財団法人のうち、行政庁の認定(公益認定)を受けたものをいう。
認定の主な基準は、
1)主たる目的が、法律に定める公益目的事業(公益に関する事業で不特定かつ多数の者の利益増進に寄与するもの)を行うことであること
2)公益目的事業を実施するための経理的基礎を有すること
3)技術的能力を有すること
4)特別の利益を与える行為を行わないこと
5)収支相償(公益目的事業に係る収入額がその事業に必要な適正費用を償う額を超えない)であると見込まれること
6)公益目的事業の比率が50%以上であると見込まれること
7)遊休財産額が1年分の公益目的事業費相当額を超えないと見込まれること
である。
公益認定を受けた財団法人は、名称中に「公益財団法人」という文字を独占的に使用する。また事業活動に当たっては法律による一定の規制に服さなければならない一方、税制上「特定公益増進法人」として優遇される。
公益社団法人
一般社団法人のうち、行政庁の認定(公益認定)を受けたものをいう。
認定の主な基準は、
1)主たる目的が、法律に定める公益目的事業(公益に関する事業で不特定かつ多数の者の利益増進に寄与するもの)を行なうことであること
2)公益目的事業を実施するための経理的基礎を有すること
3)技術的能力を有すること
4)特別の利益を与える行為を行なわないこと
5)収支相償(公益目的事業に係る収入額がその事業に必要な適正費用を償う額を超えない)であると見込まれること
6)公益目的事業の比率が50%以上であると見込まれること
7)遊休財産額が1年分の公益目的事業費相当額を超えないと見込まれること
である。
公益認定を受けた社団法人は、名称中に「公益社団法人」という文字を独占的に使用する。また事業活動に当たっては法律による一定の規制に服さなければならない一方、税制上「特定公益増進法人」として優遇される。
公益法人制度改革
民法によって設立されていた社団法人、財団法人など、公益に関する非営利を目的とする法人について、その設立、運営等のしくみを抜本的に改正することをいう。改正のための法律などが整備された後、新たな制度は2008年12月1日から施行された。
改革の目的は、1)民間による非営利目的の活動の発展を促進すること、2)従来の民法法人制度の問題点(主務官庁の裁量の不透明性など)を解決することであるとされている。
この改革によって、従来の民法法人制度が採用していた許可主義(主務官庁の許可によって設立、免許主義ともいう)が、準則主義(遵守すべき法規に適合すれば当然に法人格を付与)に改められた。また同時に、新しい制度によって設立された法人(一般社団法人または一般財団法人)のうち、公益性について一定の要件を満たすことが認定されたもの(公益社団法人または公益財団法人)については税制上「特定公益増進法人」として優遇される措置も定められた。
これによって、従来の社団法人及び財団法人は廃止され、特別の法律によらない一般的な法人は、一般社団法人または一般財団法人、公益社団法人、、公益財団法人の4つに分類されることとなった。
なお、従来の社団法人または財団法人は、2008年12月1日に自動的に特例民法法人に移行し、その後5年以内に、公益社団・財団法人への移行、一般社団・財団法人への移行、解散のいずれかを選択することとされている。また、有限責任中間法人は、同日に自動的に一般社団法人に移行した。
交換差金
金銭以外の財産を交換する場合に、譲渡する財産の価額と取得する財産の価額が同額でないときにその差額を補うために授受される金銭をいう。
また、交換差金を伴う交換を「補足金付交換」という。
民法上、交換契約については売買契約の規定が準用されるが、交換差金については売買代金に関する規定が準用される。
なお、所得税・法人税の課税において、土地や建物を同じ種類の資産と交換したときは譲渡がなかったものとする特例(土地建物の交換特例)があるが、交換差金等の額が譲渡資産の価額と取得資産の価額とのいずれか高いほうの価額の20%相当額を超える場合には、この特例は受けられない。
甲区
登記記録において、不動産の所有権に関する事項を記載した部分のこと。
この甲区に記載される登記には「所有権保存登記」「所有権移転登記」「所有権移転仮登記」などがある。
後見人
未成年者や成年被後見人を「後見」する者を「後見人」という。
後見とは、人(未成年者や成年被後見人)を保護するという意味である。
後見人は民法により次の権限を持つ(民法第859条)。
1.未成年者または成年被後見人の財産を管理する権限を持つ。
2.未成年者または成年被後見人の法律行為を代理して行なう権限を持つ
このように後見人には財産管理権と代理権という強い権限が付与されている。
なお、未成年者の後見人は未成年後見人と呼ばれる。
また、成年被後見人の後見人は成年後見人と呼ばれる。
公告
法律上ある事項を広く一般に知らせることをいい、その目的・効果・方法は法律によってさまざまである。
目的は、広範囲の利害関係人や不特定の者に対して権利行使等の機会を与えるためであることが多いが、一定の事項を社会に公示するためなどを目的とする公告もある。
法的効果としては、公告に対して一定期間内に一定の手続きを取らないと権利を失うなどの不利益が確定するものが多いが、不知を援用できなくなる効果に留まるものもある。
公告の方法としては、官報・新聞への掲載、裁判所等の掲示板への掲示などがある。
広告規約
不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)のこと。
不動産の広告に関する不動産業界の約束事であり、政府(公正取引委員会)が正式に認定したものを「不動産の表示に関する公正競争規約」という。
不動産業界では一般的に「表示規約」または「広告規約」と呼んでいる。
この表示規約が最初に作られたのは1963(昭和38)年のことであり、その後10回以上も改正されて、不動産の広告に関する最も詳細な規制として、不動産会社に広く遵守されている。
この表示規約の改正作業や、表示規約に違反した不動産会社への警告などを行なっているのは、全国各地に設立されている「不動産公正取引協議会」である。
公証人
公正証書の作成、会社設立時の定款の認証、確定日付の付与などの公証事務を行なうために、法務大臣が任命する公務員のこと。全国で約500名が任命されている。
公証人は、裁判官などを長く務めた実務経験者の中から法務大臣が任命しており、全国の法務局・地方法務局に所属し、公証役場で執務を行なっている。
公証役場
公証人が執務する事務所のこと。全国に約300ヵ所の公証役場が設けられている。
公証役場では、公証人が公正証書の作成、会社設立時の定款の認証、確定日付の付与などの公証事務を行なっている。
更新事務手数料
借家契約の期間更新の際に、借家人に対して請求される費用の一つで、契約更新のための事務費用であるとされている。しかしながら、契約更新事務を依頼しない場合にはその費用を支払う必要はない。
また、契約更新に当たって家賃改定などのための事務を不動産業者等に依頼した場合も、その費用は改定を必要とする方(通常は家主)が負担するのがより合理的であるという意見がある。
更新手数料
借家契約の期間更新に際して、そのための事務費用として支払う金銭。「更新事務手数料」ともいう。
契約更新手続きを依頼した場合に、それを実施する者に対して支払う。これに対して、「更新料」は、賃貸借契約に基づき、賃貸期間更新に当たって、借主が貸主に対して支払う金銭である。
更新料(建物賃貸借における)
建物の賃貸借契約を更新する際に、借主から貸主に対して支払われる金銭をいう。
支払いを求めるためには、支払いについての合意が必要である。
なお、更新料をめぐっては、その支払い合意は無効であるとの訴訟が提起されているが、最高裁判決(平成23年7月15日、第二小法廷)は、
1.更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当
2.更新料の支払いには、およそ経済的合理性がないなどということはできず、また、一定の地域において、期間満了の際に賃借人が賃貸人に対し更新料の支払いをする例が少なからず存することは公知であること、裁判上の和解手続き等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとしてこれを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことに照らすと、賃借人と賃貸人との間に更新料条項に関する情報の質および量ならびに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることはできない
3.賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当
として、一定の条件のもとでその適法性を認めた。
公示価格
地価公示法にもとづいて土地鑑定委員会が公表する土地の価格をいう。
適正な地価の形成に資するため、全国の都市計画区域内等に設定された標準地(平成19年地価公示では3万地点)について、毎年1月1日時点のその正常価格を複数の不動産鑑定士が鑑定し、土地鑑定委員会で審査して決定した価格であり、同年3月下旬に公表されている。更地の単位面積当たりの価格として示される。
公共事業のための用地買収価格は、この価格を規準に決めなければならないとされているほか、民間の土地取引においてもこれを指標とするよう努めるべきとされている。
なお、各都道府県も、毎年7月1日時点でほぼ同様の調査を実施し、「都道府県基準地標準価格」として公表している。
公示地価
地価公示により公示された「標準地」の価格のこと。
もっとも代表的な土地評価である地価公示は、地価公示法にもとづき、国土交通省土地鑑定委員会が毎年3月下旬に公表する土地評価である。
地価公示では、全国で選定された3万数千地点の「標準地」について、毎年1月1日時点を基準日として各標準地につき2名以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その正常な価格を土地鑑定委員会が判定し、毎年3月下旬に公示する。この公示された価格を「公示地価」という。
地価公示によって評価された公示地価は、一般の土地取引価格の指標となるだけでなく、公共用地の取得価格の算定基準ともなっている。
公序良俗違反
公の秩序、または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされている(民法第90条)。
民法などにおける強行規定に違反する法律行為は無効とされているが、こうした強行規定に該当しない法律行為であっても、民法第90条により、公序良俗に違反したことを理由として法律行為が無効とされる場合がある。
例えば、暴利行為(高利貸し)、倫理に反する行為(妾契約)、正義に反する行為(悪事をしないことを条件として金を与える行為)、人権を侵害する行為(男女を差別する雇用契約)などである。
なお、公序良俗違反に関しては実際の状況に応じて、無効か否かを判断するという処理がされることが多い。例えば、密輸資金の融資を強く要請され、やむを得ず融資した者が貸金の返還を請求した事案では、最高裁は、融資した者の不法性は微弱であり、公序良俗違反に当らないとして貸金の返還請求を認めている。
公図
登記所(法務局出張所などのこと)に備え付けられている地図であって、土地が一筆ごとに書かれており、土地の形状や隣接地との位置関係が一目で分かるように作られたもの。登記所で閲覧し、写しを取ることができる。
公図が着色されている場合には、各色が次のような意味である。
赤:道路、 青:水路、 黄色:田、 薄茶色:畑、 黄緑色:原野
公図の信頼性
公図は本来、明治初期に行なわれた租税徴収のための簡易な土地測量図が原型になっているといわれている。その後1892(明治25)年に「土地台帳付属地図」という名称が付けられ、それ以降、登記所が保管してきた。従って現在でも、公図の正式名称は「土地台帳付属地図」である。
このような歴史から分かるように、名前は「おおやけの地図」であっても、実際には明治時代の未熟な測量技術で作成された「土地台帳付属地図」をそのまま使用しているので、土地の形状や土地同士の位置関係が誤っていることが少なくない。
そこで、政府は正しい土地の地図を作成するために、1951(昭和26)年以降、国土調査法に基づいて全国各地で「地籍調査」を実施している。この地籍調査は土地の形状や土地同士の位置関係を最新の技術で測量する調査であり、こうして作られた正確な地図は登記所に送付され、これも「公図」として一般に閲覧されている。
従って、一口に「公図」といっても、明治時代に作られた不正確なものと、1951(昭和26)年以降に作られた極めて正確なものという2種類が存在していることになる。
しかも、地籍調査は都道府県や市町村が主導して行なっているが、市街地では調査が非常に困難であるため、市街地での地積調査は現在でもほとんど進行していない。このため、市街地を管轄する登記所には、明治時代に作られた不正確な公図が備え付けられていることが非常に多いのである。
このため、土地の売買にあたっては公図のみを信頼するべきではないといわれている。
ちなみに1959(昭和34)年以降は、土地の表示登記や分筆登記を申請する際に、「地積測量図」の添付が義務化されたので、もし対象となる土地に「地積測量図」がすでに存在しているのならば、この「地積測量図」を登記所で閲覧することが望ましい。
公正証書
個人や法人からの嘱託により、公証人が公証役場で作成する契約書・合意書などのことをいう。
公正証書の内容としては、不動産売買契約、不動産賃貸借契約、金銭消費貸借契約、遺言などが一般的であるが、公序良俗に反しない限り、どのような契約や合意であっても公正証書にすることが可能である。
公正証書を作成するには、当事者全員(または委任状を持参した代理人)が公証役場に出頭し、公証人に案文を提出し、公証人が公正証書を作成し、当事者全員に読み聞かせ、当事者全員が署名捺印するという手続きを踏む。
このため、文書の内容に関して後日裁判になった場合でも、文書の内容が真実であることが非常に強く推定されるので、公正証書に記載された内容がそのまま裁判で証拠になるというメリットがある(これを「証拠力」という)。
また、金銭消費貸借契約に関しては、債務者が一定の事情が発生したときには直ちに強制執行に服するという旨の陳述(これを「執行認諾約款」という)が記載されている場合には、この公正証書は裁判所の確定判決と同等の効力を持つこととされている。
このため、「約束の支払い期日までに債務者が債務を返済しない場合には債務者および連帯保証人は直ちに強制執行を受けても何ら異議はない」という旨の執行認諾約款のある公正証書が存在すれば、裁判を経ないで、直ちに債務者と連帯保証人の財産に対して強制執行を開始することができるというメリットがある。
このような強い効力を持つ公正証書であるが、その作成手数料は低額であり、利用しやすい制度となっている。
公正証書の作成手数料
公証人が、公正証書等を作成した場合に支払わなければならない手数料。「公証人手数料令」によって定められている。
手数料は消費税は非課税で、原則として、公正証書等を受け取るときに現金で支払う。また、金銭消費貸借契約、土地の賃貸借契約、土地の売買契約等には、公正証書に印紙税法による印紙の貼付が必要となる。
法律行為に係る証書作成の手数料は、原則として、その目的価額に応じて次のように定められている。
目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1.000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に5,000万円までごとに13,000円を加算
3億円を超え10億円以下 95,000円に5,000万円までごとに11,000円を加算
10億円を超える場合 249,000円に5,000万円までごとに8,000円を加算
なお、目的価額を算定することができないときは、一般に500万円とみなすとされている。
売買契約のように双方が義務を負う場合は、双方が負担する価額の合計額(売買の場合は売買価格の2倍)が目的価額となる。また、数個の法律行為が1通の証書に記載されている場合にはそれぞれの法律行為ごとに別々に手数料を計算しその合計額を目的価額とし、法律行為に主従の関係があるときには従たる法律行為は目的価額の計算対象には含まれない。
更正登記
不動産登記において、登記された時点ですでに誤りがある場合に、当事者が申請して、または登記官が職権で、登記を訂正することができる。これを「更正登記」という。
不動産登記法第67条(2005(平成17)年3月7日施行)では、登記に錯誤または遺漏があることを登記官が発見した場合には、登記官はすぐに登記名義人にその旨を通知しなければならない。このような仕組みにより、当事者が更正登記を申請するよう促す制度となっている。
また、同じく、不動産登記法第67条(2005(平成17)年3月7日施行)では、錯誤または遺漏が「登記官の過誤」によるものであるときは、当事者の申請がなくとも、登記官が職権で更正しなければならないとしている。
ただしこの職権更正では、登記上の利害関係のある第三者(例えば所有権移転登記の更正における抵当権者)がいる場合には、登記官はその第三者の承諾を得なければならない。
構成部分
ある物の部分を構成する物を構成部分という。
例えば、土砂は土地の構成部分であり、屋根は建物の構成部分である。
また定着物は土地の構成部分であるとされている。
公道
公共の用に供されている道路をいう。
これに対して、私的に所有・利用される道路を「私道」という。
道路法の道路(高速自動車国道、国道、都道府県道、市町村道)のほか、農道、林道なども公道に含まれる。公道の交通に対しては、道路交通法が適用される。
なお、建築基準法においては、私道等が「道路」とされる場合があり(位置指定道路、2項道路)、このような道路も公道と呼ぶことがあるので注意が必要である。
公道に至るための他の土地の通行権
私法上の概念で、他の土地に囲まれて公道に通じない土地に関して、その所有者が公道に至るためその土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行できるという権利をいう。
なお、2004(平成16)年の民法の改正によって、改正前の「囲繞地通行権」は「公道に至るための他の土地の通行権」に改称されたが、権利の意味、内容等にはまったく変わりはない(詳しくは、「囲繞地通行権」を参照)。
公売
納税者が国税・地方税を納税しない場合に、国または地方公共団体が納税者の財産を差し押さえたうえで自ら売却し、その売却代金から税金の支払いを受けるという制度のこと。
公簿売買と実測売買
土地の売買契約における取引価額の確定に用いる土地面積の違いによる区別で、土地登記簿の表示面積を用いて価額を確定する公簿売買、実測面積によって確定する場合を実測売買という。
とりあえず登記簿の表示面積で金額を定めて契約し、後ほど実測面積による金額との差額を精算する方法も、実測売買である。
公簿売買は測量が不要で簡便な方法であるが、実測面積が小さいと判明したときには紛争となりやすいため、それを回避するべく、契約において、実測面積と差異が生じても取引金額は変更できない旨を定めることが多い。
しかし、実測面積との違いが大きく、買主が取引の目的を達成できないときには、錯誤であるとして契約の無効を主張する恐れがある。
高優賃
「高齢者向け優良賃貸住宅」の略称。
高齢者の居住に適する構造、設備を備え、緊急時に対応したサービスを提供する住宅として都道府県知事の認定を受けた賃貸住宅をいう。
規模、バリアフリー化、緊急時サービスなどの基準を満たして認定されると、その整備に要する費用の一部について国および地方公共団体の補助を受けることができるほか、家賃の減額に要する費用の助成、税制上の優遇措置、融資に際しての優遇などがある。
高齢者向け優良賃貸住宅は、高齢者円滑入居賃貸住宅(高齢者の入居を拒まない賃貸住宅)としての登録が義務付けられている。
なお、2011年10月の「改正高齢者住まい法」の施行に伴い、サービス付き高齢者向け住宅に一本化された。
高齢者円滑入居賃貸住宅
高齢者の入居を拒まない賃貸住宅として、都道府県知事(またはその指定を受けた登録機関)に登録されている住宅をいう。
高齢者の入居に適する構造、設備となっているとは限らないが、家賃について債務保証を受けることができる。また、登録情報は一般に公開されている。
なお、2011年10月の「改正高齢者住まい法」の施行に伴い、サービス付き高齢者向け住宅に一本化された。
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高齢者居住法
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」の略称。
高齢者の居住の安定の確保を図るための措置を定めた法律で、2001(平成13)年4月に公布された。
その主要な内容は、
1.高齢者の入居を拒まない民間の賃貸住宅の登録制度の創設、2.高齢者居住に適する賃貸住宅の建築や適する住宅にするための改良に対する支援措置、3.賃借人の死亡に至るまで契約が存続する賃貸借契約制度の創設
である。
1.によって登録された住宅が「高齢者円滑入居賃貸住宅」、2.の支援の対象となる住宅が「高齢者向け優良賃貸住宅」、3.による住宅の賃貸借が「終身建物賃貸借」である。
高齢者専用賃貸住宅
高齢者の入居を拒まない賃貸住宅(高齢者円滑入居賃貸住宅)として登録されたもののうち、専ら高齢者を賃借人とする賃貸住宅として登録されたものをいう。
高齢者専用賃貸住宅の登録に当たっては、介助を考慮した住宅の構造や設備であるなど、高齢者円滑入居賃貸住宅として登録するための一定の要件を備えていることに加えて、前払家賃の取扱い、各住戸における台所、水洗便所、浴室等の有無、日常生活に係るサービスの有無などを登録しなければならない。
また、高齢者専用賃貸住宅として登録された賃貸住宅のうちで、各戸の床面積が25平方メートル以上、原則として各戸に台所、水洗便所、浴室等があるなどの一定の要件を満たすもの(適合高齢者専用賃貸住宅)については、介護保険法に規定する特定施設入居者生活介護の対象となることもある他、老人福祉法に規定する有料老人ホームの届出が不要とされている。
なお、2011年10月の「改正高齢者住まい法」の施行に伴い、サービス付き高齢者向け住宅に一本化された。
高齢者の居住の安定確保に関する法律
高齢者の居住の安定の確保を図るための措置を定めた法律で、2001(平成13)年4月に公布された。
その主要な内容は、
1.高齢者の入居を拒まない民間の賃貸住宅の登録制度の創設、2.高齢者居住に適する賃貸住宅の建築や適する住宅にするための改良に対する支援措置、3.賃借人の死亡に至るまで契約が存続する賃貸借契約制度の創設
である。
1.によって登録された住宅が「高齢者円滑入居賃貸住宅」、2.の支援の対象となる住宅が「高齢者向け優良賃貸住宅」、3.による住宅の賃貸借が「終身建物賃貸借」である。
個人情報保護
個人のプライバシー保護のために、個人情報の収集・伝達を制限することをいう。
その背景には、ネットワーク技術によって情報の複製や伝播が容易になり、プライバシーの侵害などが懸念されているという事情がある。
個人情報を保護するための原則は、
1.適法かつ公正な手段による個人データの収集、2.利用目的に必要な範囲内での正確、完全、最新なデータの管理、3.利用目的の明確化、4.明確化された目的以外の使用を制限、5.データの紛失・破壊・修正・開示等のリスクからの保護、6.データの作成・運用方針の一般への公開、7.自己に関する個人データの確認、異議申立ての機会の確保、8.データ管理者の責任負担
であるとされる。
個人情報保護法は、これらの原則を実現するための仕組みとして制定された法律であるが、同法にもとづいて政府が定めたガイドラインが公表されている。不動産業は、個人情報を取り扱う機会が多い産業であるため、情報の保護について特に注意が必要である。
個人情報保護法
個人情報の適正な取り扱いに関する規定を定めた法律。正式な名称は「個人情報の保護に関する法律」で、2003(平成15)年5月に公布された。
この法律は、高度情報社会の進展に伴って個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑みて、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護するために制定された。そこでは、個人情報は個人の人格尊重の理念のもとに慎重に取り扱われるべきものとしている。
個人情報保護法の規定のなかで重要なのは、個人情報のデータベース等(たとえば顧客リスト)を事業の用に供している者(個人情報取扱事業者)に対する個人情報の取り扱いに関する規制である。
個人情報取扱事業者には、個人情報の取り扱いについて、
)利用目的の特定
)利用目的の範囲を超えた利用の禁止
)不正手段による取得の禁止
)取得に際しての利用目的の通知
)情報の正確性確保
)情報の安全管理措置
の義務が課されている。さらに、
)第三者への提供が制限され、
)本人による情報開示請求、訂正請求、利用停止請求を規定して原則としてその請求に従わなければならない
とされている。
また、同法は、個人情報取扱事業者の個人情報の取扱いについては、個人情報保護委員会(2016(平成28)年度までは主務大臣)が監督することとし、その監督に従わない場合には罰則に処すことができること、政府は個人情報の保護に関する基本方針を定めなければならないことなども規定している。
誇大広告等の禁止
宅地建物の取引に関する広告についての規制の一つで、著しく事実と違ったり、実際のものよりも著しく優良・有利であると誤認させるような表示の禁止をいう。
誇大に広告してはならないとされる表示は、物件の所在、規模、形質、利用の制限等、環境、交通などの利便、代金の額や支払方法、金銭の貸借の斡旋などである。
なお、不動産の表示に関する公正競争規約では、実際に確認できるデータに基づかないで、「完全」「当社だけ」「最高級」「特選」「格安」といった用語を使用することを禁じている。
固定金利選択型住宅ローン
住宅ローンの種類の一つで、期間を定めて固定金利か変動金利かを選択する方法による住宅金融をいう。
当初一定期間を固定金利とし、固定期間終了後に、改めて見直した固定金利か変動金利かを選ぶタイプが多いが、最近はローン期間全体のなかでその一部分を固定か変動かの選択の対象にするタイプが現れるなど、その方法が多様化している。
将来の金利水準の変化など対する対応の幅が広がるが、負担すべき総額は確定しない。また、完全な固定金利や変動金利によるローンの場合と金利の決め方が異なることもあるので注意が必要である。
コミュニティビジネス
地域やコミュニティのニーズ・課題に応えて、市民が地域の人材、ノウハウ、資金などを使ってビジネスの手法で取り組む活動をいう。
その活動対象は、高齢者の介護・福祉、子育て支援、環境保全、まちづくりなど、多様である。
コミュニティビジネスの特徴は、
1.活動主体が企業だけでなく、市民団体、NPO、ボランティア組織など幅広いこと
2.地域に密着して活動が展開されること
3.活動がビジネスとして管理・運営されていること
4.地域における起業や雇用を通じて、地域活性化に寄与する可能性があること
5.地方自治体との連携によって、行政サービスを補完・充実する役割を果たす場合があること
などである。
コミュニティビジネスは、地域に根ざしたビジネスとして注目されているが、その背景として、脆弱化したコミュニティ機能を回復する必要があること、市民の社会活動への参加意欲が高まっていること、身近できめ細かい公共サービスの提供が求められていることなどの事情があると考えられている。
コワーキングオフィス
独立して働く人々が共同利用しながら働く事務所。そのような場所を「コワーキングスペース」ということもある。
「コワーキング(英語でco-working)」とは、独立して仕事しながらも、場を共有することによってコミュニケーションを深めることのできる働き方をいう。コワーキングに参加する人は、孤立した環境で働くことができる人が多いとされ、コワーキングによってインフォーマルなコミュニティが形成されることもある。
コンピュータ庁
不動産登記事務をコンピュータで処理している登記所を「コンピュータ庁」という。
コンピュータ庁では、従来からのバインダーに紙を綴じ込んだ建物登記簿・土地登記簿に代わって、コンピュータの磁気ディスクによって電子的に登記簿を作成している。
合意更新
借家契約において、当事者の合意によって契約期間を更新することをいう。
借家契約の期間を合意で更新する場合、契約期間の制限はないが、期間を1年未満としたときには期間の定めがないものとみなされることになる。
また、合意更新においては、更新に当たって契約条件等を変更することは原則的に自由であるが、借地借家法の強行規定に反する特約で借家人に不利なものは無効となる。
なお同様に、借地契約についても合意更新が行なわれるが、借地契約の更新後の契約期間は、最初の更新時には最低20年、以後の更新にあっては最低10年とされている。
また、強行規定に反する特約で借地人に不利なものが無効となるのは借家契約と同様である。
合同行為
複数の者が同じ方向に向けて意思表示することにより成立する法律行為をいう。
「契約」は相対立する意思表示の合致によって成立し、「単独行為」は一人の者の意思表示で成立するが、合同行為はこれらのいずれにも該当しない。
合同行為の例としては、一般社団法人の設立行為があるとされる。
合有
ある財産が団体の所有となっているが、その団体による拘束が弱い状態であることを「合有」という。
具体的には、組合の財産は構成員の合有とされている。
ある団体の財産が「合有」であるときは、各構成員はその団体財産に対して持分分割請求をすることができない。
しかし、各構成員が団体から脱退する際には、各構成員は持分の払い戻しを受けることができる。また、団体の債務については団体財産だけでなく、個々の構成員の個人財産からも弁済を行なわなければならない。
5%ルール・不動産の流動化における
特別目的会社に不動産を譲渡することにより当該不動産を資金化する場合に、会計処理に当たって、その取引が不動産の売買か、金融取引かを判断するためのルールであり、日本公認会計士協会が定めた。
これによると、流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価)に対するリスク負担の金額(劣後部分)の割合がおおむね5%程度以内ならば、リスクと経済価値のほとんどが移転していると判断して、売買取引(真正売買)として扱うとされている。
このようなルールが必要となるのは、不動産の譲渡後も譲渡人が当該不動産に継続的に関与し続けるような場合には、その実態は資金の供与を受ける取引(譲渡担保)と変わらず、当該不動産を譲渡人の倒産等から隔離できないからである。このルールは2000(平成12)年7月に公表され、これによって、会計処理上不動産の売却と認められるためには、リスクと経済的価値の大部分が投資家に移転する必要があることが明確となった。
また、譲渡人の子会社である特別目的会社を譲受人として流動化する場合には売却取引として会計処理することはできない。一方、いったん特別目的会社に不動産を売却し、改めて当該不動産を賃借する場合には、適正な賃借料を支払うという条件を満たせば真正の売却として取り扱われる。
注意を要するのは、一般に「5%ルール」という場合には、証券取引ルールの一つである、株券等の大量保有の状況に関する開示のルールを意味することである。公開会社の発行済株式総数の5%を超えて実質的にその株式を取得した者は、原則として、取得日から5日以内に大量保有報告書等を提出しなければならないことなどを内容とするが、このルールと、不動産の流動化における5%ルールとはまったく異なる。
さ行
債権
私法上の概念で、ある人(債権者)が、別のある人(債務者)に対して一定の給付を請求し、それを受領・保持することができる権利をいう。
財産権の一つであり、物権とともにその主要部分を構成する。
債権差押
債務者が有する金銭債権から、債権者が満足を得る手続きのこと。債務者の財産に対する強制執行の一つである。
債権差押では、債務者が保有する金銭債権が対象になる。例えば、債務者が銀行に預けている預金(預金債権)、債務者が取引先に請求できる売掛金(売掛金債権)、債務者が勤務先に請求できる給与(給与債権)など、いろいろな金銭債権が差押え可能である。
債権を実際に差し押さえる手続きは次のとおりである。
仮に、債務者Aが債権者Bから金銭を借りており、債権者Bが債務者AのC銀行の預金口座を差し押さえると想定する。債権者Bは、まず債務者Aの住所地を管轄する地方裁判所に、債権差押命令の申立てを行なう。これを受けた裁判所では、債務者Aが預金債権を有している相手方であるC銀行(これを「第三債務者」と表現する)に対して、債権差押命令を郵送する。
この命令が送達されてから1週間が経過すると、債権者Bは、C銀行に対して預金を自己(B)に支払うように請求することが可能となる。このようにして債権者Bは満足を得ることができる。
なお、債権差押に類似した手続きとして「転付命令(てんぷめいれい)」がある。
債権者代位権
私法上の概念で、債権者がその債権を保全するため、債務者が持つ第三者に対する権利を債務者に代わって行使する権利をいう。
例えば、不動産の賃借人は、不法占拠者の明渡し請求のために、賃貸人に代わって賃貸人が持つ物権的妨害排除請求権を行使できるとされるが、この行為は、債権者代位権にもとづいてなされると解されている。この場合についてみれば、賃借人には賃貸人に対して、賃借人が不動産を占有できるよう要求する債権があり、その保全のために、債務者である賃貸人に代わって、賃貸人の持つ所有権にもとづく妨害排除請求を行なったことになる。そして、その妨害排除請求を行なう権利が債権者代位権である。
なお、債権者代位権は、裁判外で行使できる。
債権者取消権
債権者がその債権の弁済を確保するため、債務者が成した財産を減少させる行為を取り消す権利をいう。
「詐害行為取消権」ともいわれる。
例えば、売掛金があるとき、債務者の経営が悪化して弁済の資力を失った状態のもとで、さらにそのなけなしの財産を投げ売りしたような場合には、その財産譲渡は債権に引き当てることのできる財産を故意に減少させる行為(詐害行為)であるとして、債権者取消権に基づき当該財産を債務者に取り戻すことができる。
ただし、不動産の引渡しを目的とする債権などについては、その対象となる財産(特定物)が債務者のもとにある限り、どのような財産減少行為がなされても債権者取消権を行使することはできないとされる。
また、債権者取消権は、裁判によって行使しなければならない。なお、その行使に関しては、誰に対して、どのような請求をするのかにつき議論があるため、注意が必要である。
債権譲渡
契約により債権を第三者に譲り渡すことをいう。
これにより、もとの債権者(A)の債務者(B)に対する債権は、そのままの内容で、債権を譲り受けた第三者(C)のBに対する債権に転換する。
Bは債権譲渡の契約には関知しないが、譲渡契約について対抗要件を満たすことが要請される。Bがその債務を誰に弁済すべきかを異義のないように決定するには、Bに対するAの通知またはBの承諾が必要であり、また、B以外の第三者に対して誰が債権の譲受人であるのかを異義のないように決定するには、Bに対するAの通知またはBの承諾は、確定日付のある証書によってなされなければならない。
なお、法人が、指名債権であって金銭の支払いを目的とする債権を譲渡した場合には、その債権の譲渡について債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、その債権の債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったものとみなすという特例がある。
また、一定のリース債権等については、債権を譲渡する旨を日刊紙に公告することによって、第三者に対する対抗要件を得ることができるとされている。これらの措置は、いずれも債権の流動化を容易にして、金融手段を多様化するニーズに応えるための仕組みである。
債権の目的
債権法
私法体系のなかで、債権・債務関係を律する法体系を指す。その中心をなす法律は、民法第3編「債権」(総則、契約、事務管理、不当利得、不法行為の各章によって構成されている)であるが、民法第1編(総則)の関係部分のほか、契約や不法行為に関する多数の特別法も債権法を構成する。
財産権は大きく物権と債権とに分かれるが、物権法は人が財貨を直接に支配する関係を律する法規範であるのに対して、債権法は人と人との間の給付請求・給付行為関係(不作為を含む)を律する法規範である。
債権法は、1896年に制定された後、約120年のあいだ全般的な見直しがされないまま推移したが、社会・経済情勢に著しい変化があったこと、当時とは国民生活の様相が大きく異なること、裁判において膨大な数の判例法理が形成されているがその明確化が求められていることなどから、見直しが図られた。そして、それに基づき必要な改正が行われている(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」2017年6月2日公布、2020年4月1日施行)。
債権・債務関係
人がある人に対して一定の給付を要求し、あるいはある人から給付を要求されるいう関係をいう。
この関係に適用される最も基本的な法律が、民法第三編「債権」であり、この部分を一般に債権法という。債権法については見直しがなされ、必要な改正が行われた(施行は2020年4月1日から)。
債権・債務関係が発生する原因のうち、最も一般的なものは契約である。例えば土地売買契約では、買い主は、土地の引渡しを売り主に要求する債権を得る一方で、代金を支払う債務を負うことになる。また、不法行為も債権債務関係の発生原因として重要である。たとえば、交通事故の加害者は、被害者に対して損害を賠償する債務を負うこととなる。
催告
相手に対して一定の行為を要求することをいう。
催告をして相手方が応じない場合に、一定の法律効果が生じるという意味がある。
大きく、債務者に対して債務の履行を請求すること、無権代理者等の行為を追認するかどうか確答を求めることの2つの場合がある。例えば、債務の履行を催告すれば、時効の中断、履行遅滞、解除権の発生などの、追認の催告は、場合に応じて、追認、取消しまたは追認の拒絶とみなされるなどの法律効果に結びつく。
口頭による催告も法律上有効であるが、確実を期すためには証拠力の強い方法によるのが望ましい。
催告の抗弁権
債権者が保証人に保証債務の履行を請求してきた場合には、保証人は「先に主債務者に対して債務の履行を催告せよ」と債権者に主張することができる。これを催告の抗弁権という(民法第452条)。
例えば、AがBから100万円の借金をし、Aの友人であるCがその借金の保証人になったとしよう。このとき債権者Bが、保証人Cに対して100万円の債務を支払うように請求したとする。その際保証人Cは「まず主債務者Aに対して借金返済の督促をせよ」と債権者Bに主張できることになる。
しかしながら、単に督促をするだけでよいのであるから、債権者にとってはこの催告の抗弁権は実際上ほとんど問題とならない。ただし、保証人にはより強力な抗弁権として、検索の抗弁権が与えられている(民法第453条)。
最多価格帯
複数の宅地建物が同時に販売されるときに、最も販売物件の多い価格帯をいう。
価格帯は100万円刻みで設定する。
宅地建物の販売広告に当たっては、原則として、1区画または1戸当たりの販売価格を表示しなければならない。しかしながら、販売物件数が10件以上ある場合で、すべての価格を示すことが難しい場合は、最低価格、最高価格および最多価格帯とその価格帯の販売物件数を示せばよいとされている。
再売買の予約
いったんAからBへ売却された物を、再びBからAへ売却することを予約すること。
具体的には、ある物をAからBへ売却する時点(第1売買の時点)において、「将来その物をBからAへ売却すること(第2売買)を事前に合意する」という予約を結んでおくのである。こうすることによって第1売買の売主であるAは、将来その物を取り返すことが可能となる。
再売買の予約は、融資に用いられることが多い。
例えばBがAに2,000万円を融資するとする。融資の担保がA所有の土地(2,000万円相当)であるとする。このとき次のような形で再売買の予約を用いる。
まずAがBに対して、この土地を売る(第1売買)。これによりAは2,000万円を得る(これが金を借りたことに該当する)。そして第1売買の際に「将来AがBに2,000万円を交付するならばBがその土地をAに再び売却する(第2売買)」という予約を結んでおく。
このように第1売買における買主Bは、土地の所有者となり、同時にBがAに2,000万円を交付する。これは見方を変えれば、Bが土地を担保にとって、Aに2,000万円を貸し付けた、と見ることができる。また予約(Aが土地を取り戻すという予約)に関しては、Aは予約完結権を仮登記することができるとされている。
債務
私法上の概念で、ある人(債権者)に対して一定の給付をなすべき義務をいう。
債務を負っているのが債務者である。
債務
私法上の概念で、ある人(債権者)に対して一定の給付をなすべき義務をいう。
債務を負っているのが債務者である。
債務不履行
債権・債務関係において、債務が履行されない状態をいう。
例えば、売買契約において、代金を支払ったにもかかわらず、売り主が物件を引き渡さないときは、売り主は引渡し義務を怠っていて、「債務不履行」にあたる。
このような債務不履行に対しては、法律(民法)により、債権者が債務者に対して損害賠償を請求することができるとされている。
ただし、債務不履行を理由とする損害賠償を請求するには、次の条件を満たすことが必要である。
1.債務者が債務を履行しないこと(履行不能・履行遅滞・不完全履行の3形態がある)
2.債務者に故意または過失があること
3.債務不履行を正当化するような法律上の理由が存在しないこと
債務名義
債務者に給付義務を強制的に履行させる手続き(強制執行)を行なう際に、その前提として必要となる公的機関が作成した文書のことを「債務名義」という。
債務名義には「確定判決」「仮執行宣言付判決」「和解調書」「調停調書」「執行認諾文言付公正証書」「仮執行宣言付支払督促」がある。
また、債務名義は強制執行の前提として必要な公的文書であるが、実際に強制執行を行なうには、債務名義に「執行文」が記載されることが必要である。
(ただし、「仮執行宣言付支払督促」は執行文なしで強制執行を行なうことができる)
先取特権
法律で定められた特殊な債権について、債務者の財産または特定の動産・不動産から優先的に弁済を受けることのできる権利をいう。この権利は、担保物権として強い保護を受ける。
例えば、雇人の最後の6ヵ月分の給料は、雇主の総財産に対して、不動産の賃貸借関係から生じた賃借人の債務は、賃借地、建物の動産、土地の果実に対して、請負人等がした不動産工事の費用や不動産売買の対価およびその利息は、その不動産に対して、それぞれ優先弁済の権利があるとされている。
ただし、他の先取特権との競合関係の際の順位が法律で定められているので、注意が必要である。
詐欺
詐欺とは、他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせることである。いい換えれば、詐欺とは他人を動機の錯誤に陥れることであるということができる。
詐欺により動機の錯誤に陥れられた者が、その錯誤にもとづいて意思表示を行なった場合には、その意思表示は取り消すことができる(民法第96条第1項)。
ただし、詐欺とは社会通念に反する違法性を帯びている場合に限られるので、例えば「この土地は値上がりするはずだ」と単に告げる程度では詐欺に該当しない。
また、詐欺と意思表示との間には因果関係が必要とされており、詐欺が動機を決定付けた場合にのみ、その詐欺にもとづく意思表示は取消しが可能なものとなる。
詐欺により法律行為が行なわれた場合に、詐欺があったことを知らない(=善意の)第三者は原則的に保護されるべきである。民法では第96条第3項でこのような第三者を保護している(詳しくは詐欺における第三者保護へ)。
なお、詐欺は取引の当事者が行なう場合だけでなく、当事者以外の者が行なう場合もある。これは第三者詐欺と呼ばれ、民法第96条第2項が適用される(詳しくは第三者詐欺へ)。
詐欺における第三者保護
詐欺による意思表示は、本人が取り消すことができる(民法第96条第1項)。例えば、AがBの詐欺により土地の売却を行ない、土地を取得したBがその土地をCに転売した場合には、AB間の土地売買は詐欺を理由として取り消すことが可能である。
しかし、Aが土地売買を取り消した場合、その売買は初めから無効であったものとして扱われる(民法第121条本文)ので、Cは権利のないBから土地を購入したこととなり、CはAに対して土地を返還する義務を負うこととなってしまう。
これでは取引の安全が確保されないので、民法ではCが善意である場合(すなわちAが詐欺にあっていたことをCが知らない場合)には、Aは取消しの効果をCに対して主張できないと定めている(民法第96条第3項)。これにより、善意のCは有効に土地の所有権を取得できることとなる。なおこの場合に、第三者Cには無過失までは要求されない。
また、第三者Cが土地の登記を備えている必要があるかどうかについては学説が対立している。有力説は、詐欺における第三者Cの保護は、詐欺にあった本人Aの犠牲において達成されるので、第三者Cは自己の権利の確保のためになすべきことをすべて行なうべきであるとして、第三者Cが自分名義の登記を取得することを要求する。
なお判例は農地売買において、第三者が仮登記を備えるべきであると判断しているが、これは特殊な事例であって、一般論ではないと解釈されている(昭和49年9月26日最高裁判決)。
錯誤
内心的効果意思と表示行為が対応せず、しかも表意者(意思表示をした本人)がその不一致を知らないこと。
錯誤は本来、内心的効果意思を欠く意思表示であるため、錯誤に基づいて法律行為を行なった本人を保護し、錯誤に基づく法律行為を無効とするのが原則である。しかし、それでは表意者の意思表示を信頼した相手方の保護に欠ける結果となる。
そこで、民法では次の方法により表意者保護と相手方保護の調整を図っている。
1.意思表示が次の錯誤に基づくものは取り消すことができる。ただし、その錯誤が法律行為の目的、社会通念に照らして重要なものであるときに限る。
1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2)法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤。ただしその事情が法律行為の基礎であることが表示されているときに限る。
2.表意者の重大な過失による錯誤は、次の場合を除き取消しすることができない。
1)相手方が錯誤であることを知り、または重大な過失によって知らなかったとき
2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
3. 錯誤による意思表示の取消は、善意かつ過失のない第三者に対抗できない。
なお、このような規定は、錯誤をめぐる判例の積み重ねの結果、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって明確化された。
錯誤における第三者保護
錯誤による意思表示の取消は、善意かつ過失のない第三者に対抗できない旨の定め。判例の積み重ねの結果、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって明定された。
差押
競売(または公売)の前提として、あらかじめ債務者の財産の売却等を禁止するような裁判所の命令のこと。
仮差押が、債務者の財産を一時的に凍結する命令であるのに対して、差押は競売(または公売)の手続きが開始すると同時に行なわれるものである。
差押の原因は、次の3つのどれかである。
1.抵当権等を実行するための任意競売が開始されたこと
2.裁判所の判決等にもとづく強制競売が開始されたこと
3.税金の滞納にもとづく公売が行なわれること
差押の登記
不動産に対する差押が行なわれた際に、不動産登記簿に記載される登記のこと。
競売または公売の手続きが正式に開始されたことを公示する登記である。
差押の登記に書かれる「原因」には、次の3種類の文言がある。
1.抵当権等を実行するための任意競売が開始されたとき
→原因「競売開始決定」
2.裁判所の判決等に基づく強制競売が開始されたとき
→原因「強制競売開始決定」
3.税金の滞納に基づく公売が行なわれるとき
→原因「税務署差押」
指値
売買の注文を委託する場合に指定する取引希望価格、または価格の範囲をいう。
取引所での売買、委託販売など、客の注文を受託して取引する場合に用いられる。指値は拘束価格の指示であり、委託者は指値に従わない売買についてその結果の引受けを否認できる。
不動産売買の仲介は売買受託ではないため、客が示す希望価格は指値ではない。一方、代理等による取引における希望価格は、一般的に指値に当たる。
サテライトオフィス
本拠地から離れた場所に設置する小規模な事務所。サテライト(satellite)は「衛星」を意味する英語であるが、サテライトオフィスは和製英語である。
主として、本拠地が都心部の企業が、郊外や地方部で勤務できる施設として設置している。これによって、従業者は、仕事と育児・介護等との両立や、地方に定住しながらの勤務が可能となるため、働き方の選択の幅が広がる。また、事業主は、多様な人材を確保できると考えられている。通勤や移動の時間を短縮する効果もある。
サテライトオフィスでの働き方は、情報通信機能を活用するテレワークに似た勤務形態のものもあれば、自立した拠点として組織的に仕事を進めるものもあって、設置の目的に応じてさまざまである。
なお、郊外や地方部を本拠地とする企業が、情報交流などのために都心部に設置するサテライトオフィスもある。
サブリース
賃借人が第三者にさらに賃貸することであるが、特に、住宅の管理を手がける事業者が賃貸住宅の所有者から住宅を一括して賃借し、それを入居者にさらに賃貸するという賃貸住宅経営の方法をいうことが多い。この場合、一括して賃借する事業者を、サブリース事業者または特定転貸事業者という。
賃貸住宅の所有者は、賃借人の募集、家賃の設定や改定、住宅の管理などの業務に責任を負うことなく賃貸料を得ることができるが、サブリース事業者とのリスク分担や空室の取扱いなどについて明確にしておく必要がある。
また、サブリース事業者は、事業の実施に当たって、賃貸住宅管理業法が定める規制を遵守しなければならない(2020年12月施行)。例えば、所有者と賃貸借契約を締結する前に家賃、契約期間等(重要事項)を記載した書面を交付しなければならないほか、誇大広告の禁止、故意に事実を告げずまたは不実を告げる行為の禁止などが課せられている。
サブリース方式
賃貸住宅管理業の実施方法の一つで、事業者が、転貸を目的に住宅の所有者から住宅を賃借し、併せてその住宅の管理業務を受託する方法。転貸目的の賃貸借契約が「マスターリース契約」、住宅の管理を受託する契約が「管理受託契約」で、サブリース方式はこの二つの契約を同時に締結することになる。
またこの場合、住宅に居住する賃借人は、賃貸住宅管理業者と転貸借契約(サブリース契約)を締結することとなる。
なお、賃貸住宅管理業の実施方法には、サブリース方式のほか、管理受託方式がある。
更地
建物等が存在しない土地のこと。
35条書面
「重要事項説明書」と同じ。それを参照。
なお、重要事項説明に当たって35条書面を交付するのは宅地建物取引士である。一方、37条書面は宅地建物取引業者が交付する。
37条書面
宅地建物取引業者が不動産取引に関与して契約が成立した場合に、当該業者が取引当事者に交付しなければならない書面。この書面の交付は、宅地建物取引業法第37条の規定に基づく義務である。
交付する書面には、代金または借賃の額、その支払方法、引き渡しの時期など法律に定める主要な契約内容(売買・交換の場合と賃貸借の場合とで異なる)を記載するとともに、宅地建物取引士が記名押印しなければならない。
なおこの書面の交付は、契約書(宅地建物取引士の記名押印があるもの)の交付によって満たすことができる。
サービサー
金銭債権の回収・管理業務を営業する者のこと。金融機関や一般会社から、金銭債権を譲り受けたり、委託を受けて回収・管理する。債権回収会社ともいう。
金銭債権の回収・管理業務を営業するためには、法務大臣の許可を受けなければならない(弁護士は、委託を受けて回収・管理に当たることのみを行なう場合には許可を要しない)。その許可を受けた会社(株式会社に限られている)がサービサーである。
その業務の実施については、人を威迫しまたはその私生活・業務の平穏を害するような言動により相手方を困惑させる行為の禁止、暴力団員等を業務に従事させたり業務の補助として使用することの禁止などの規制がある。これらの許可や仕組みを定めるのが、「債権管理回収業に関する特別措置法」(略称「サービサー法」)(1998(平成10)年10月公布)である。
不動産取引に関する金銭債権の回収・管理業務も、その営業は、弁護士またはサービサーでなければ行なうことはできない。
財産刑
刑罰のうち、犯人の財産を剥奪する刑罰のこと。「罰金」「科料」「没収」がある。
罰金と科料はともに、一定額の金銭を国庫に納付させるという刑罰であり、金額の違いがあるに過ぎない。
罰金は、犯罪ごとに金額が異なるが、「1万円以上」と法定されている(刑法第15条)。
科料は「1,000円以上1万円未満」である(刑法第17条)。
また没収は、主刑(死刑、懲役、禁固、罰金、拘留、科料)の言い渡しに伴って、犯人の物の所有権を剥奪して国庫に帰属させる刑罰であり、犯罪によって得た財物や証拠品を没収するものである。
在留カード
日本に中長期間在留する者に対して交付されるカード。出入国管理および難民認定法に基づくカードで、在留資格および在留期間の適法性を証明するとともに、その交付は在留を許可する行為であるとされている。
在留カードには、氏名、生年月日、性別、国籍・地域、住居地、在留資格、在留期間、就労の可否などが記載されている。また、16歳以上の者については顔写真も表示されている。
なお、中長期間在留する者とは、3ヵ月を超える在留期間が認められた者(外交官等を除く)が該当する。
雑種地
不動産登記における地目の一つ。地目は、土地の表示に関する登記の登記事項で、法務省令で定められた土地の用途に即して指定されるが、雑種地は、田、畑、宅地、山林、原野など法務省令で特定された他の22種類の用途のいずれにも該当しない土地をいう。
露天の駐車場、資材置き場などがこれに当たる。
地目の変更は申請によって行なう。また、地目は筆を単位として主な用途によって定められるため、例えば一筆の土地が住宅の敷地と駐車場に使われていれば、その土地の地目は通常は宅地とされる。
なお、法務省令で定められた地目は次の通りである。
田、畑、宅地、学校用地、鉄道用地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、堤、井溝、保安林、公衆用道路、公園、雑種地
資格証明書
会社の代表取締役などが商業登記簿に登記されていることを、登記所が証明する書面のこと。
正式名称は「登記事項に変更及びある事項の登記がないことの証明書」という。
この証明書に記載されるのは、一般的に次の事項である。
1.会社の商号
2.本店の住所
3.代表取締役の氏名と住所
4.上記1.から3.に変更がないこと
5.共同代表の登記がないこと
6.上記1.から5.について登記所の証明があること
敷金
建物の借主が、賃料その他賃貸借契約上の債務を担保するため、貸主に交付する金銭をいう。
敷金は、契約が終了した場合に、未払賃料等があればこれを控除したうえで借主に対して退去後に返還される。
敷金返還請求権
借主が貸主に対して敷金の返還を請求できる権利。賃貸借契約が終了して貸主が建物の返還を受けたときや、賃借権を譲渡したときに請求できる。
特に、賃借権が譲渡された場合には(譲渡について貸主の承諾が必要)、旧借主は、譲渡によって賃貸借関係から離脱するので敷金の返還を請求することができ、その敷金返還請求権は新賃借人に承継されないことに注意が必要である。
敷地
建築物のある土地のことを「敷地」という。
なお、同一の敷地の上に2つの建築物がある場合には、建築基準法では、2つの建築物が用途上分けられないときは、同一敷地にあるものとみなすことになっている(建築基準法施行令1条)。
例えば、ある人の所有地の上に「住宅」と「物置」が別々に建っている場合は、この2つは用途上不可分であるので、別々の敷地上に建てたと主張することはできない、ということである。
ところで、建築基準法では「敷地」が衛生的で安全であるように、次のようなルールを設定しているので注意したい(建築基準法19条)。
1.敷地は、道より高くなければならない(ただし排水や防湿の措置を取れば可)
2.敷地が、湿潤な土地や出水の多い土地であるときは、盛り土や地盤の改良を行なう。
3.敷地には、雨水と汚水を外部に排出する仕組み(下水道など)をしなければならない。
4.崖崩れの被害にあう恐れがあるときは、擁壁(ようへき)の設置などをしなければならない。
敷地延長
ある土地が、狭い通路を通じて道路に出ることができるような形状になっているとき、その通路の部分を「敷地延長」と呼ぶ。
また、こうした狭い通路を持つ土地全体のことを「敷地延長」と呼ぶこともある。
一方、その形状が旗に竿を付けた形に似ていることから、こうした土地のことを「旗竿地」と呼ぶこともある。
敷地権
一棟の区分所有建物の敷地に関する権利をいい、登記によって確定する。
分譲マンションなどの区分所有建物を所有するには、建物自体の所有権(区分所有権)と建物の敷地を利用する権利(所有権や借地権であり、敷地利用権といわれる)とを必要とするが、この区分所有権と敷地利用権は原則として分離して処分できないとされており、そのような分離不能な敷地利用権として登記された権利が敷地権である。
敷地権が登記されれば、建物の専有部分の権利変動等の登記に当たっては、敷地利用権に関する登記は省略される。両方の権利が一体化されている効果であり、区分所有建物の取引に伴う手続きが簡略なものとなる。
敷地権である旨の登記
一棟の建物を区分した各部分のことを、不動産登記法では区分建物と呼ぶ。
また、区分建物がその敷地を利用するための法律上の権利(例えば所有権の共有持分)のことを、敷地利用権と呼ぶ。
区分建物と敷地利用権は、別々に処分することが可能であるとすると、権利関係がいたずらに錯綜する可能性があるので、法律(建物の区分所有等に関する法律第22条)では、区分建物と敷地利用権を常に一体で処分することを原則的に義務付けている。
そこで不動産登記法では、区分建物の敷地である土地については、「敷地権である旨の登記」という特殊な登記を記載することとしている。土地の登記記録において、「敷地権である旨の登記」がなされて以降は、区分建物と敷地利用権が常に一体で処分されることを明確にしている。
また、区分建物の登記記録においても、敷地権の内容が表示される(詳細は「敷地権の表示の登記」へ)。
敷地権の表示の登記
不動産登記法では、区分建物の敷地である土地には、「敷地権である旨の登記」という特殊な登記を記載することとしている。
この「敷地権である旨の登記」がなされるとき、その敷地上に存在する区分建物(および区分建物が属する一棟の建物)について、次の事項が表示される。これを「敷地権の表示の登記」という。
1.区分建物の登記記録の表題部
敷地権の種類(所有権か地上権か等)、敷地権の割合(その区分建物所有者が有する土地の権利の持分割合)
2.一棟の建物の登記記録の表題部
その敷地全体の所在・地番、地目、地積など
敷引
借主から貸主に対して交付された敷金のうち、契約時点で一定の部分を借主に返還しないことを特約する慣行がある場合の、この返還しない部分をいう。
関西地方の慣行であるとされる。
資産価値
財産として評価した価額。おおむね市場での取引価格に等しい。これに対して、資産の利用によって得る便益に着目して評価した価額を「利用価値」という場合がある。
不動産の資産価値は、土地と建物を分けて算定することが多い。土地の資産価値は立地、区画形質などによって、建物の資産価値は立地、デザイン、管理状態などによって決まると考えられている。一般に、土地の資産価値は経年的に変化しない一方、建物の資産価値は建築後の時間経過とともに減少するとされる。ただし、不動産の資産価値は、通常、土地と建物が一体となって形成しているから、両者を截然と分けて評価することには限界がある。
指示・宅地建物取引業法による指示
監督処分の一つで、宅地建物取引業者や宅地建物取引士に対して、一定の作為または不作為(ある行為をすること、または行為をしてはならないこと)を命令することをいう。
指導と異なり、法的な強制力を伴い、指示に違反すると、罰則が課せられることがあるほか、原則的に、営業停止、免許取消などの新たな監督処分を受けることとなる。
詳しくは、「監督処分」を参照。
自然人
私法上の概念で、権利義務の主体となる個人のこと。法人に対する用語である。
すべての自然人は、出生によって権利義務の主体となるとされる。
失踪宣告
人が居所を去った後、長期間にわたって生死が不明である場合には、残された関係者はその後の生活を営むうえでさまざまな制約を強いられる結果となる。
そこで民法は、法律上その人が死亡したものとみなす制度を設けており、これを「失踪宣告」と呼ぶ(民法第30条)。
失踪宣告には、居所を去った後7年間生死不明であることを要件とする「普通失踪」と死亡の原因となるべき危難(戦争や船舶の沈没など)に遭遇したことを要件とする「特別失踪」という2種類がある。
失踪宣告を受けた場合、普通失踪については7年間の生死不明の期間が経過した時点で、特別失踪については危難の去った時点において、その人が死亡したものとみなされる(民法第31条)。
その結果、失踪宣告を受けた人について、死亡とみなされた時点から相続が開始することになる(民法882条)。
また死亡とみなされた時点において、婚姻(結婚)は当然に消滅する。
ただし姻族の関係(結婚によって生じた親戚関係)は当然に消滅するのではなく、配偶者が姻族関係の消滅の意思を表示する必要がある(民法728条)。
なお失踪宣告を受けるには、配偶者・相続人・保険金受取人などの利害関係者が家庭裁判所に請求する必要がある。要件を満たす請求があったとき、家庭裁判所は失踪の宣告をしなければならない(民法第30条)。
なおこのほかに、死亡が確実だが死体が確認できないという場合のために「認定死亡」という制度が用意されている(詳しくは認定死亡へ)。
失踪宣告の取消し
失踪宣告を受けた者が生存している場合(または失踪宣告によって死亡したとみなされる時期とは異なる時期に死亡していたことが判明した場合)には、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪宣告を取り消さなければならない(民法第32条第1項本文)。
この失踪宣告の取消しは、失踪宣告を受けた者が死亡したとみなされた時点にまで遡って、その効果を生ずる。具体的には、失踪宣告による死亡により発生した相続は無効となり、相続人は失踪者が生存していれば、相続財産を失踪者に返還する必要が生じる。
ただしこの点については、取消しの効果の制限という制度が設けられており、善意の相続人等が保護されている。
指定管理者制度
地方公共団体が設置する公の施設の管理を、民間事業者が担う仕組みをいう。
2003(平成15)年に地方自治法の改正によって導入された制度であり、施設の管理権限そのものを地方公共団体が指定する団体(指定管理者)に委任できることとした。委任の対象となる施設や管理者の指定手続きは条例で定められるが、指定管理者を公募したのち、あらかじめ定める基準に従って選定し、期間を定めて指定するのが一般的である。また、指定に当たっては、議会の議決を経なければならないとされている。
「公の施設」とは、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設であるとされ、文化施設、社会福祉施設、体育施設、観光施設などがこれに該当する。これらの施設については、原則として住民の利用を拒むことはできず、また、利用に関して不当な差別的取り扱いをしてはならないとされているが、指定管理者が管理する場合にもこの原則が適用される。
なお、指定管理者が管理する場合の管理の基準、利用料金の設定などの受任に当たっての条件は、条例に基づき、委任する地方公共団体との間の契約によって定められることとなる。また、指定管理者は、事業報告書を毎年度提出するなどの義務を負う。
指定避難所
災害の危険性があり避難した住民等を災害の危険性がなくなるまでの間滞在させ、または災害により住居に戻れなくなった住民等を一時的に滞在させるために市町村長が指定した施設をいう。指定避難所は災害の種類を問わず指定することとされ、公示される。
指定された避難所の管理者は、施設の廃止や重要な変更について届け出なければならないとされ、この制限は、宅地建物取引の営業における重要事項説明の対象とされている。
指定流通機構
指定流通機構とは、宅地建物取引業者間で不動産情報を交換するために、宅地建物取引業法第50条の2の5の規定により、国土交通大臣が指定した公益法人のことである。
全国では地域ごとに次の4つの公益法人が「指定流通機構」として指定されている。
1.公益財団法人 東日本不動産流通機構
2.公益社団法人 中部圏不動産流通機構
3.公益社団法人 近畿圏不動産流通機構
4.公益社団法人 西日本不動産流通機構
私道
民間の個人や法人が所有している道路を「私道」という。
「私道」には、特定の個人のために築造されたものもあれば、不特定多数の人が通行するために築造されたものもある。
「私道」は一定の手続きを経ることによって「建築基準法上の道路」になることができる。
この手続きは「道路位置指定」と呼ばれている。
私道負担
不動産の売買において、対象となる土地の一部が「私道の敷地」となっているとき、その私道の敷地の部分を「私道負担」と呼んでいる。
私道負担に関する事項は、重要事項として説明しなければならない。また、不動産広告では、区画面積と私道負担面積とを分けて表示しなければならないとされている。例えば、「土地面積100平方メートル、別に、私道負担面積5平方メートル」のように、わかりやすく表示する必要がある。
指導・助言・勧告
行政指導のことをいう。
行政機関が特定の者に対して一定の作為または不作為を求めることで、法律上の強制力はない。
宅地建物取引業法は、国土交通大臣または都道府県知事が、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、または宅地建物取引業の健全な発達を図るために必要な指導、助言および勧告をすることができると規定している。そして、その指導・助言・勧告に従わないときには、法律上の強制力を持つ監督処分がなされる恐れがある。しかしながら、指導・助言・勧告はあくまでも任意の措置である。
行政手続法では、行政指導を行なう際には、その趣旨や内容、指導の責任者を明確に示し、相手方が書面の交付を求めたときには行政上特別の支障がない限り交付しなければならないと規定されている。
支払督促
民事訴訟法第382条から第396条に規定されている、金銭債権を回収するための簡易な請求手続きのことである。支払命令・督促命令と呼ばれることもある。
支払督促を行なうには、債権者は、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に対して、請求する金額や請求の原因などをごく簡単に記載した支払督促申立書を提出し、通常の裁判費用の半額に相当する印紙を納付する必要がある。
簡易裁判所ではこの申立書にもとづき、支払督促を発令し、債務者に支払督促正本が郵送される。債務者が正本送達の翌日から2週間以内に異議申立てを行なえば、正式な裁判に移行することになるが、異議申立てを行なわなければ、債権者は2週間が経過した日の翌日から30日以内に、仮執行宣言の申立てをすることができる。
債権者が仮執行宣言の申立てをすると、簡易裁判所は、仮執行宣言付支払督促を発令し、仮執行宣言付支払督促正本が債務者に送達される。これに対して、2週間以内に債務者からの異議申立てがなければ、支払督促は確定判決と同一の効力を得ることとなる。
このように、早ければ申立書提出から1ヵ月程度で確定判決と同一の効力が発生し、しかも費用が通常裁判の半分であるので、支払督促は、主に少額の融資を迅速に回収する手段として多用されている(なお売掛金・未収金・未払金の回収など、金銭債権すべてについて利用できる)。
支払命令
簡易裁判所において行なう金銭債権を回収するための簡易な請求手続きのこと。
正式名称は支払督促である(詳しくは支払督促へ)。
私法
法のうち市民相互の関係を規律付けるものをいう。
国民と国家との関係を規律付けるのが「公法」であり、法の体系は、私法と公法の大きな2つの類型に分けることができる。
私法は、市民の相互関係を対象とする規律であるから、自由平等の関係を基盤に、私益を調整することを目的とする。一方、公法は、支配服従の関係を定めて公益の実現をめざすことに特徴があるとされる。
私法の一般法は民法である。民法の基本原理は、
1.法の下の平等、2.私的財産権の絶対性、3.契約自由の原則(私的自治)、4.過失責任主義
であるとされるが、これらの原理はいずれも私法の基本的な特徴でもある。私法を構成する代表的な法律は、民法のほか、借地借家法、商法、会社法などである。
私法と公法とを区分することに対しては、私的活動に対する行政の関与が拡大することに伴って両者を区分する必然性が薄れたこと、労働法や産業法のような公益上の理由で市民相互の関係を規律付ける法律分野(社会法といわれ、私法と公法の中間的な性格を持つとされる)が出現したことなどにより、その意味を失ったという意見もあるが、法の本質的な性格を明確にする基本的な視点を提供すること、法概念を分析するための基盤となることなど、区分することの理論的な有効性はいまなお失われていない。
司法書士
不動産の権利に関する登記の専門家。
不動産登記簿の「甲区」および「乙区」に登記すべき事項について、登記申請者から依頼を受けて登記申請書の作成を行ない、登記申請者の代理人として登記の申請を代理する。
また、会社の設立登記や役員変更の登記などの商業登記についても、不動産登記と同様に申請書を作成し、申請を代理することができる。
その他に、本人が行なう訴訟のための訴訟書類の作成援助、契約書の作成と助言も司法書士の業務とされている。また司法書士法の改正により2003年4月1日以降は、簡易裁判所における訴訟手続きの代理、裁判外での和解の代理なども司法書士の業務に加えられることになっている。
死亡等の届出・宅地建物取引士における
宅地建物取引士の登録を受けている者について、死亡等の一定の事情が発生した場合に、相続人等の一定の者が知事に対して行なうべき届出のこと。
宅地建物取引士として業務に従事するためには、その前提条件として、都道府県知事より宅地建物取引士の登録を受けることが必要である(宅地建物取引業法第22条の2第1項、第18条第1項)が、この登録を受けた者について死亡等の一定の事情が発生した場合には、その旨を、登録を受けた都道府県知事に対して届出なければならず、この届出を「死亡等の届出」という(法第21条)。
死亡等の届出が提出された場合、都道府県知事はその届出にもとづいて宅地建物取引士の登録を消除しなければならない(法第22条第2号)。
また、死亡等の届出に該当する事由(下記1.および2.の事由)が生じていることが知事において判明した場合には、知事は死亡等の届出が提出されていないときでも、職権により登録を消除しなければならない(法第22条第3号、法第68条の2第1項第1号)。
(詳しくは宅地建物取引士の登録の消除へ)
死亡等の届出を提出すべき事由と提出方法は次の1.および2.のとおりである。
1.死亡した場合
登録を受けた者が死亡した場合は、その者の相続人が、その事実を知った日から30日以内に、登録を受けた知事に対して、宅地建物取引士死亡等届出書(施行規則様式第7号の2)を提出しなければならない(法第21条第1号)。
届出期間は「死亡から30日以内」ではなく「死亡の事実を知った日から30日以内」であることに注意。
2.法第18条第1項第1号から第5号の2までの欠格事由が生じた場合
登録を受けた者について、宅地建物取引士の登録が不適当とされるような一定の欠格事由(法第18条第1項第1号から第5号の2までの事由)が発生した場合には、宅地建物取引士の登録を消除する必要がある。
(欠格事由について詳しくは宅地建物取引士の登録の基準へ)
この場合には、原則として本人(欠格事由が「成年被後見人又は被保佐人となったこと」(法第18条第1項第2号)であるときは、届出を行なうのは本人ではなく、後見人または保佐人(法第21条第3号))が、その事実が発生した日から30日以内に、登録を受けた知事に対して、宅地建物取引士死亡等届出書を提出しなければならない(法第21条第2号、第3号)。
CIM
建設に関する業務のための情報を統合的に活用するためのシステム。英語のConstruction Information Modeling(コンストラクション インフォメーション モデリング)の略であるが、和製英語である。Construction Information Modeling/Management(コンストラクション インフォメーション モデリング/マネージメント)と表記されることもある。
主として土木施設の計画・設計・施工・管理の効率化と施設の品質向上のためのシステムとして構築された。その基本的な手法は、施設の3次元モデルにさまざまなデータを付加して、多様に利用できるデータベースを構築することである。従って、BIMに類似したシステムとなっていることから、CIMをBIMの一種であるとする考え方もある。
借地権割合
土地の更地評価額に対する借地権価額の割合をいう。
土地の価格のうち、借地権者に帰属する経済的利益を示すとされ、地域特性など借地事情によってその値は異なる。一般に、地価が高いほど、借地権割合も高くなるとされる。
相続税や贈与税は借地権に対しても課税されるが、その際に借地権価額を算出するため、国税庁が公表する路線価図や評価倍率表には、借地権割合が表示されている。ただし、その値が実態と常に一致するとは限らないことに注意が必要である。
なお、定期借地権も課税の対象となるが、その場合の借地権割合は、借地権設定期間および残存期間を勘案して割り引いて算出することとされている。
借地借家法
借地権および建物の賃貸借契約などに関して特別の定めをする法律で、民法の特別法である。1991年公布、92年8月1日から施行されている。
従前の借地法、借家法を統合したほか、定期借地権等の規定が創設された。借地借家法では、借地権の存続期間や効力等、建物の賃貸借契約の更新や効力等について、借地権者や建物の賃借人に不利にならないよう一定の制限が定められている。
借家権
建物の賃借権をいう。
建物の賃借権は、通常の賃借権と異なって、借家人を保護するために特別の取扱いを受ける。
主要な保護措置として、
1.登記がなくても家屋の引渡しを受ければ第三者に対抗できること
2.家主の解約や契約更新拒絶には正当事由がなければならないこと
3.契約終了時の造作買取請求権が認められること
4.内縁の妻など同居者による借家権の継承が認められること
などがある。
なお、定期借家権については、原則としてこのような保護の対象とはならない。
収益還元法
不動産鑑定評価において、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される収益をベースとして対象不動産の価格を求める手法のこと。この収益還元法による試算価格を「収益価格」という。
収益還元法は、さらに直接還元法とDCF法に分けることができる。
直接還元法とは、ある一期間の純収益(総収益から総費用を控除した残額)をある一定の利回り(これを「還元利回り」という)で割ることで、収益価格を求める方法である。
またDCF法とは、連続する複数の期間におけるそれぞれの期間の純収益を、各期間に対応した割引率で割ることにより現在価値へと換算し、それらの現在価値の合計値を収益価格とする方法である。
終身建物賃貸借
借主の死亡のときまで存続し、借主が死亡したときに終了する建物の賃貸借契約をいう。
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によって認められた賃貸借契約で、借地借家法の定める契約ルールの特例である。
この契約を締結する事業者は、住宅のバリアフリー化や前払い家賃の保全措置を講じるなど、一定の条件を満たした上で都道府県知事の認可を得なければならない。また、契約は公正証書等書面によらなければならないとされる。
修繕義務
建物賃貸借契約においては、貸し主は建物の汚損・破損(借り主の故意や過失によって発生した汚損・破損を除く)について、必要な修繕を行なう義務を負うものとされている。これが修繕義務である。
ただし、この民法の定めは任意規定であるので、実際の建物賃貸借契約では、修繕義務を貸し主と借り主でそれぞれ分担する旨を特約することが多い。これを修繕特約という。この場合にも、老朽化した設備の取り替えや安全性確保のための修繕については、特約にかかわらず貸し主が負担すべきと考えられている。
なお、借り主は、賃貸借契約の終了に当たって原状回復義務を負うが、経年変化および通常の使用による損耗等については回復の義務はない。
修繕積立金
管理組合が管理費とは別に共用部分や付属施設などの修繕を目的とした長期計画に従って修繕を実施するために、区分所有者から毎月徴収した金銭を積み立てたものである。
管理費と同様、一般的に専有部分の専有部分の面積の割合で月額料金が定められている。
修補請求
売買契約の履行において、引き渡された売買の目的物が品質等に関して契約の内容に適合しない場合に、買主が売主に対して目的物の補修を請求すること。
修補請求は、契約不適合を原因とする債務不履行に対する追完請求のひとつである。
なお、補修請求をするためには、原則として、不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知しなければならない。
このルールは、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)によって明確化された。
集落生活圏
自然的社会的諸条件からみて一体的な日常生活圏を構成していると認められる集落およびその周辺の農用地等を含む一定の地域をいう。地域再生法の規定による地域で、その区域は地域再生土地利用計画において定められる。
集落生活圏の区域内において、
1)その立地を誘導すべきとされる集落福利等施設(住民の共同の福祉・利便のため必要な施設または就業の機会の創出に資する施設)整備のための開発行為、建築物の新築等
2)地域再生拠点区域内における土地の区画形質の変更、建築物の新築等の行為
を行なおうとする者は、着手する30日前までに市町村長に届けなければならないとされている。
この届出義務は法令上の制限であり、宅地建物取引業法の重要事項説明の対象となっている。
主たる債務
ある人の債務を他の者が保証するとき、保証を受ける債務を「主たる債務」という。
また保証人が負う債務を「保証債務」という。
保証債務は主たる債務に付従するものとされているので、主たる債務が弁済等の理由により消滅した場合には、保証債務もまた消滅するものとされている(詳しくは保証債務へ)。
取得時効
一定期間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有したとき、その物の所有権などの権利を取得することができるとする定め。
取得時効が完成するのに要する期間には、善意かつ過失なしで占有した場合には10年(短期取得時効)、それ以外の場合には20年(長期取得時効)である。
守秘義務
知り得た秘密を守る義務。法律によって、一定の職務・業務について課せられている。
この義務が課せられている職務には、公務員のほか、弁護士、医薬剤師、公認会計士などがあるが、宅地建物取引士についても、宅地建物取引業法に基づいて課せられている。守秘義務違反については原則として罰則が適用される。
この場合、どのような事項が守るべき秘密であるかが問題となるが、判例では、公知の程度や秘密として保護しなければならない事情を実質的に判断して決すべきとされている。
なお、業務を受託するときなどに、契約によって守秘を約束する場合もある。
承役地
地役権とは、自分の土地の利便性を高めるために、他人の土地を利用することができるという権利のことである(民法第280条)。
この地役権が設定されている場合において、利用される他人の土地のことを承役地という。
例えばA氏が、自分の所有地から公道に出るために、B氏の所有する土地を通行しようとして、B氏の所有地の一部について通行地役権を取得し、通行路を作ったとする。
このときB氏の所有地は、通行路の開設によってA氏の土地の利便性を高めるために利用されているので、B氏の所有地は「承役地」である。
少額訴訟
60万円以下の金銭の支払いを求める民事裁判について、各地の簡易裁判所で簡単・迅速に判決を得ることができる裁判制度のこと。1998(平成10)年1月1日から導入されている。
従来、民事裁判では弁護士費用等に多額の費用がかかり、また裁判自体も判決までに数ヵ月以上かかるという問題点があった。そこで、60万円以下の少額の金銭をめぐる訴訟では、原告本人が訴状を作成できるよう訴状の作成を簡略化し、裁判の審理を原則的に1日で終了させて即日判決を言い渡すという少額訴訟が導入され、大きな成果を挙げている。
1.少額訴訟の対象
金銭の支払いを求める訴訟であって、請求する金銭の額(遅延損害金などを除く本体部分)が60万円以下であれば、すべて少額訴訟を起こすことができる(注:従来は請求金額30万円以下とされていたが、2004(平成16)年4月1日より請求金額60万円以下へと引き上げられている)。
具体的には、貸金の返還請求、未払い給与の支払い請求、売掛金の支払請求、交通事故の損害賠償請求、不動産の賃貸借契約における家賃の支払請求、不動産の賃貸借契約における敷金の返還請求などはすべて少額訴訟の対象となる。
2.訴状の作成
少額訴訟では、本人でも提起することができるように、訴状の作成方法が簡略化されている。
全国各地の簡易裁判所には、よく提起されるいくつかのタイプの少額訴訟に対応した「定型的な訴状」の書式が用意されているので、少額訴訟を提起しようとする本人は、その訴状の項目にチェックを付けたり、数字を記入したり、紛争の概要を簡単に記述するだけで、訴状を作成することができる。
3.訴状の添付書類(証拠)
少額訴訟を提起する際には、訴状と一緒に証拠を簡易裁判所にあらかじめ提出しておくのが原則である。この証拠を「添付書類」と呼んでいる。
例えば、敷金返還請求事件の「定型的な訴状」では、賃貸借契約書、修繕・クリーニング費用の見積書等が添付書類(証拠)とされている。
4.訴状を提出する簡易裁判所(裁判管轄)
相手方の住所地の簡易裁判所に訴状を提出するのが原則である。
ただし、例えば敷金返還請求の事件で賃貸借契約書に「裁判管轄は東京地方裁判所又は八王子簡易裁判所とすることに合意する」というような「合意管轄」が定められている場合は、その合意した簡易裁判所に訴状を提出することになる。
なお、少額訴訟では簡単・迅速な裁判制度という趣旨にもとづき、原告の申立て(または裁判官の職権)により、合意管轄以外の簡易裁判所で裁判をすることが可能とされる場合がある(これを「移送」という)。
5.裁判に向けての準備
簡易裁判所に訴状を提出すると、裁判所と本人(原告)との間で簡単な事情聴取が電話で行なわれ、裁判手続の説明等が行なわれる。その後に呼出状という書面が原告に送付されて、審理の日が決まる。審理の日は、訴状提出から原則的に30日以内とされている。
訴状は裁判の相手方(被告)に送達され、被告は訴状を検討し、答弁書を作成して簡易裁判所に提出する必要がある(答弁書の書式は簡易裁判所に用意されている)。
なお、被告が少額訴訟ではなく通常の民事訴訟を希望する場合には、被告は通常手続に移行する旨の申出を簡易裁判所にすることができる
6.審理
呼出状に記載された日時に、簡易裁判所に原告・被告双方が出頭し、法廷で審理が行なわれる。この審理は通常1時間程度で終了する。
裁判官は、あらかじめ提出されている訴状・答弁書をもとに、紛争の争点を整理し、原告・被告に対して主張内容の不明な点・不十分な点を質問する(これを「当事者尋問」という)。
その後に、原告・被告の申し出(または裁判官の判断)により和解が勧められる場合があり、原告被告双方が和解の条件に同意すれば、その場で「和解調書」が作成され、和解が成立する。
和解がない場合には、ここまでで当事者双方の主張は打ち切られ(これを「弁論終結」という)、その日のうちに裁判官から「判決の言い渡し」が行なわれる。
小規模不動産特定共同事業
不動産特定共同事業のうち、一定の規模を超えない事業。不動産特定共同事業法に基づく制度である。
小規模不動産特定共同事業には二つの種類がある。一つは不動産特定共同事業契約を締結して不動産取引から生じる収益を分配する事業で小規模なもの(小規模第一号事業)、もう一つは特例事業者の委託を受けて実施する不動産取引に係る業務で小規模なもの(小規模第二号事業)である。この場合の事業の規模は、事業参加者の出資価額及び出資の合計額が政令で定める一定額を超えないものとされている。
小規模不動産特定共同事業を実施する場合は、事業実施のための許可は不要で、登録のみで足りる。なお、通常の不動産特定共同事業を実施する者は、同時に小規模不動産特定共同事業の実施者として登録することはできない。
小規模不動産特定共同事業制度は、空き家や空き店舗を再生・活用する事業に地域の不動産業者等が幅広く参入できるようにすることを目指して創設された。
償却金
不動産賃借において、保証金や敷金が返還されるときに差し引かれる金銭。
保証金や敷金は借主が貸主に預けた金銭であり、貸主は、契約終了時に、滞納家賃など借主の債務に充当する額を控除した残りの金銭を借主に返還しなければならない。しかしながら、この場合に、使途を特定しない一定の金銭を差し引いて返還されることがある。この差し引かれる金銭が償却金である。従って、貸主はその必要性や金銭の性格について明らかにする必要がある。
借主に償却金の負担を求める場合には、償却金を差し引いて返還する旨及びその金額について、賃貸契約時に明記しなければならない。また、償還金は借主にとって賃料に上乗せされる負担であるから、借主は、その理由や金額の妥当性について確認する必要がある。
なお、「償却」の本来の意味は、使った費用などを埋め合わせることである。
商圏分析
商取引の実態を地理的な視点(空間的な分布状態)で調査分析することをいう。地域特性に即したビジネスを構築・実施するために行われることが多い。
商圏分析によって、店舗への集客の可能性、顧客の分布状況や地理的な特性、営業のエリア別活動実態などが明らかとなる。
消費者契約
消費者(個人)と事業者との間で締結される契約で、労働契約を除いたものをいう。
消費者契約については、消費者の保護を図るために民法の特例が定められていて、事業者の損害賠償の責任を免除する一定の条項、消費者が支払う損害賠償の額を予定する一定の条項、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となるほか、契約締結の勧誘の際に一定の行為によって誤認や困惑したときには、契約の申し込みや承諾の意思表示を取り消すことができる(消費者契約法)。
個人(事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合を除く)と締結する不動産の売買や賃貸借、あるいはそれらを仲介する契約も消費者契約であり消費者契約法が適用されるが、宅地建物取引業法の規定と競合する場合には、宅地建物取引業法の規定が優先して適用される。
消費者契約法
消費者(個人)と事業者との間で締結される契約(消費契約)について、消費者の保護を図るための特例を定めた法律で、2001(平成13)年3月に施行された。
この法律では、消費者が契約の締結について勧誘された際に、
1.重要事項説明について事実と異なることを告げられたこと、2.将来の変動が不確実な事項について断定的判断が提供されたこと、3.重要事項について不利益となる事実が告げられなかったこと、4.勧誘の場所から事業者が退去しないまたは自らの退去を妨げられたこと
により誤認や困惑したときには、契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができることとしている。
また、消費契約について、事業者の損害賠償の責任を免除する一定の条項、消費者が支払う損害賠償の額を予定する一定の条項、消費者の利益を一方的に害する条項については、これを無効することを規定している。
なお、消費者は個人であるとされるが、事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合には消費者とはみなされず、その契約に対しては消費者契約法は適用されない。また、事業には非営利事業も含むとされている。
これらの規定は、すべて消費契約(労働契約を除く)について民法の特例を定めるもので、不動産の売買や賃貸借、あるいはそれらを仲介する契約に対しても適用される。ただし、宅地建物取引業法は消費者契約法の特別法であり、両者が競合する場合には、前者の規定が優先して適用される。
消滅時効
一定期間、権利を行使しない状態が継続する場合に、債権などの権利が消滅するという定め。
消滅時効が完成するまでの期間は、権利の性質や権利行使しない事情に応じて異なる。主な権利の消滅時効完成期間は、次のとおりである。
1)債権
・権利行使できることを知った時から5年
・権利行使できる時から10年
2)債権または所有権以外の財産権については、権利を行使できる時から10年
3)不法行為に基づく損害賠償請求権
・損害及び加害者を知った時から3年
・不法行為の時から20年
4)人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権(特例)
・損害および加害者を知った時から5年(通常3年の特例)
・権利行使できる時(債務不履行の始期)から20年(通常10年の特例)
5)定期金債権
・権利行使できることを知った時から10年
・権利行使できる時から20年
なお、民法(債権関係)改正(施行は2020年4月1日から)前まで、職業別の短期時効消滅および商事時効が定められていたが、これらの定めは改正によって削除され、債権の消滅時効に統合・整理された。
証約手付
手付の一種で、売買契約などが成立したことを証するために交付される手付のこと。
売買契約などが締結されるまでにはいろいろな交渉段階があり、どの時点で契約が成立したのかが一見明確でないことが考えられるので、そのような場合において契約の成立を証明するために交付される手付のことを証約手付けという。
ただしわが国では、手付とは原則として解約手付とされている。
初期費用
不動産の購入や賃借に際して、当初に発生する費用。
たとえば、賃貸住宅を借りる場合の初期費用は、敷金(退去するときの原状回復費用に充てるため前もって預ける金銭)、礼金(家賃とは別に賃借当初に支払う金銭、不要な場合もある)、前家賃(入居する当月の家賃)、仲介手数料、火災保険料、家賃保証のための保証料(保証人が保証する場合には不要の場合もある)、引っ越し費用などである。そのほかに、入居時に家具や家電を購入する場合には、その費用も加わる。
賃貸住宅に入居するための初期費用は、一般的に、家賃の5〜6ヵ月分程度とされている。
職務行為
法人の理事が、法人の目的の範囲内で行なう行為のこと。
法人は定款または寄附行為に定められた目的の範囲内で、権利を取得し、義務を負担することとされているので、法人の代表機関である理事はこの目的の範囲内で代表機関としての行為を行なうことができる。このような理事の行為のことを一般に「職務行為」と呼んでいる(法人の権利能力・行為能力を参照のこと)。
理事の職務行為が問題となるのは、法人が不法に他人に損害を与えた場合(=法人に不法行為責任が発生する場合)である。
民法第44条第1項では「理事などの代表機関が職務を行なうにつき他人に加えたる損害は法人が賠償する責任を負う」と規定して、法人が不法行為責任を負うことを明記している(詳しくは法人の不法行為責任へ)。
しかし、仮に上記の「職務を行なうにつき」という言葉を厳格に解釈するならば、そもそも理事が不法に他人に損害を与える行為自体が「職務」の範囲から除外されるという問題が生じる。
(不法に他人に損害を与える行為は、もはや法人の代表機関としての行為には該当しない、と考えることができる)
しかし、それでは法人の不法行為責任が発生するケースは存在しないことになってしまい、法人の不法行為責任を規定した民法第44条第1項が無意味なものとなる。
そこで判例では、「職務を行なうにつき」という言葉を次のように広く解釈している。
1.外形上「職務行為」と見える行為は、「職務を行なうにつき」に含める。
2.社会通念上「職務行為に関連する行為」は「職務を行なうにつき」に含める。
このように「職務を行なうにつき」という言葉を広く解釈することにより、法人の不法行為責任が成立する範囲を拡大し、法人の不法行為による被害者を救済しているのである。
なお、職務行為という言葉は、上記の1.と2.を合わせた意味で使用されることがある。本来職務行為とは、上述のように法人の代表機関の正当な行為のことを指すのであるが、法人の不法行為責任を論じる場合には、民法第44条第1項が適用されるすべての行為(上記1.と2.)を「職務行為」と呼ぶことが多いので、注意したい。
所得税
個人の所得に対して課される税金で、国税である。
課税の対象となる所得は、給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、不動産所得、譲渡所得、退職所得、山林所得、一時所得、雑所得に分類されている。たとえば、家賃収入など不動産の貸付けによって得る収入は不動産所得、不動産の譲渡によって得る収入は譲渡所得である。
所得額の計算は、所得の種類ごとに定められている方法で行なう。課税額は、退職所得及び山林所得以外の所得については、それぞれの所得額を合算した金額をもとに算定する(総合課税)。また、退職所得および山林所得については、他の所得から分離してそれぞれの課税額を算定する。
所得税の課税額は、(1)所得額から、社会保険料控除、医療費控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除などの控除対象となる金額の合計額を減じてその差額を求め(これが課税所得金額)、(2)課税所得金額に所得税率を乗じ、(3)さらに、乗じて得た金額から、配当控除、住宅ローン控除(住宅ローン減税)、住宅耐震改修特別控除等の税額控除の対象となる金額の合計額を差し引いて算出する。これが納付すべき税額(基準所得税額)である。
所得税については累進課税制度が採用され、その税率は、課税所得金額が195万円までは5%、これを超える金額については、一定の額を超えるごとに、10%、20%、23%、33%、40%、45%と高くなっていくように設定されている。
なお、2013年から37年までは、復興特別所得税額(基準所得税額に2.1%を乗じた金額)を加算して納税しなければならない。
また、所得税は申告によって納付するが、申告納税額は、基準所得税額と復興特別所得税額の合計額から源泉徴収税額および外国税額控除額を差し引いた残りの金額である。従って、申告の必要がない場合もあるし、申告によって税金が還付される場合もある。
処分禁止の仮処分
債権者が金銭債権を持っているとき、債務者の財産状況の悪化などの事情がある場合には、裁判所は債務者に対して、財産の売却等を当分の間行なわないよう命令することができる。
この裁判所の命令を「仮差押」と呼んでいる。
しかしながら、金銭債権以外の債権については、こうした仮差押を行なうことができないので、その代わりに「処分禁止の仮処分」が用意されている。
例えば、A氏が土地をB氏に売却したが、B氏が代金を支払ったにもかかわらず、A氏が土地の登記名義をB氏に移そうとしないというケースでは、B氏が登記名義を取得しない間に、A氏がその土地を第三者に売却してしまう可能性がある。
そこでB氏は、裁判所に対して、当該土地の第三者への売却を一時的に禁止するように申請することができる。
裁判所はB氏に相当な理由があると認めたならば、A氏に対して「処分禁止の仮処分」を命令することができる。
この「処分禁止の仮処分」が行なわれると、A氏は当該土地を第三者に売却することができなくなる(もし第三者に売却したとしても、B氏がA氏に対する裁判で勝訴した場合には、第三者はその土地の取得をB氏に主張することができなくなる)。
処分禁止の仮処分の登記
「処分禁止の仮処分」が行なわれた場合に、登記簿に記載される登記のこと。
書面申請・不動産登記における
不動産の登記を、書面で申請すること。
2005(平成17)年3月7日に施行された新しい不動産登記法(以下、新不動産登記法という)では、登記申請は原則としてオンライン申請によるものとされている。
ただし、現時点ではオンライン申請が可能な登記所(これをオンライン庁という)は限定されており、極めて数が少ない。
オンライン庁以外の登記所(これを未指定庁という)ではオンライン申請ができないので、従来どおり書面申請によって登記を申請することになる。
なお、オンライン庁では、オンライン申請ができるだけでなく、書面申請をすることもできる。つまりオンライン庁では、オンラインでも書面でもどちらでも申請できる制度になっている。
ところで、従来は、登記申請するには、原則として必ず登記所に出頭する必要があるとされていた(出頭主義)。しかし、新不動産登記法ではすべての登記所において、郵送で登記を申請することが認められている。このような郵送による書面申請のことを郵送申請という。
書面によらない贈与
贈与とは、当事者の一方がある財産権を相手方に無償で移転する意思を表示し、相手方がそれを受諾する意思を表示し、双方の意思が合致することによって成立する契約である(民法第549条)。
わが国の民法では、贈与を「書面による贈与」と「書面によらない贈与」に区分し、両者に異なった取扱いを設けている。
「書面による贈与」とは、贈与者による贈与の意思が現れた書面が存在する贈与である。書面による贈与は書面が存在する以上、もはや撤回することができない。「書面によらない贈与」は、原則的にいつでも撤回することができるが、履行が終わった部分については撤回できないとされている(民法第550条)。
このように、書面の存在によって取扱いが大きく異なる。しかも「書面」の範囲は広く解釈されており、できるだけ贈与の撤回を認めないという解釈が一般的である(詳しくは書面による贈与へ)。
また、書面によらない贈与であっても「履行が終わった部分」はもはや撤回できない。
では、「履行が終わる」とはどのような状態を指すのか。これは原則的には現実に引き渡したか、または登記名義を移転させた状態を指すが、判例ではゆるやかに解釈することがある。
書面による贈与
贈与とは、当事者の一方がある財産権を相手方に無償で移転する意思を表示し、相手方がそれを受諾する意思を表示し、双方の意思が合致することによって成立する契約である(民法第549条)。
わが国の民法では、贈与を「書面による贈与」と「書面によらない贈与」に区分し、両者に異なった取扱いを設けている。
「書面による贈与」とは、贈与者による贈与の意思が現れた書面が存在する贈与である。書面による贈与は書面が存在する以上、もはや撤回することができない。「書面によらない贈与」は、原則的にいつでも撤回することができるが、履行が終わった部分については撤回できないとされている(民法第550条)。
では、「書面による贈与」とは具体的にはどのようなものだろうか。判例では贈与における「書面」については、およそ次のような解釈がなされている。
まず、書面とは贈与の成立と同時に作成される必要はなく、事前や事後に作成されたものでもよい。
次に、書面には贈与を証する書面であると明記されている必要はなく、贈与の意思が現れていればよい。
また、書面は受贈者に宛てた書面である必要はなく、第三者に宛てた書面でもよいし、また自分の日記などに贈与の意思を記載したものであってもよい。
このように判例によれば、書面とは、贈与者の贈与の意思が明確にされたている書面を指すのであり、その宛先や文言、作成目的、作成時期などは緩やかに解釈している。こうすることにより書面による贈与の成立を容易にし、贈与の撤回は事実上難しくなっている。
所有権
法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいう。
物を全面的に、排他的に支配する権利であって、時効により消滅することはない。その円満な行使が妨げられたときには、返還、妨害排除、妨害予防などの請求をすることができる。
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
所有権以外の財産権の取得時効
取得時効とは、物を一定期間占有したとき、その物の権利を取得することができるという時効の制度であるが、わが国の民法では、所有権の取得時効を定める(民法第162条)だけでなく、地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効も定めている(民法第163条)。
所有権の取得時効は、占有開始時点において善意かつ無過失であれば10年間の短期取得時効、占有開始時点において悪意または有過失であれば20年間の長期取得時効が適用される。
地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効についてもこれと同様の区分がされており、時効期間を起算する起算点において自分が正当な権利者であると信じており、そう信じるにつき無過失であれば、時効期間は10年とされるが、悪意または有過失であれば時効期間は20年となる(民法第163条)。
所有権の取得時効は「所有の意思をもって」「占有」を継続することが要件とされるが、地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効では「自己のためにする意思をもって」「権利の行使」を継続することが要件とされる。
「自己のためにする意思」とは、例えば地上権であれば、「土地を使用するという意思」を持っていることである(自分が正当な地上権者であると信じることは必要でない。すなわち悪意であってもよい)。
また「権利の行使」とは具体的には「権利を行使し、そのことを客観的に外部に表示すること」であると解釈されているが、例えば地上権の場合に、単に土地を占有していればよいのか、それとも建物を建築する必要があるのかについては意見が分かれている。
なお、賃借権については賃料の支払いが必要とされた判例がある(詳しくは賃借権の取得時効へ)。
所有権以外の財産権の取得時効
取得時効とは、物を一定期間占有したとき、その物の権利を取得することができるという時効の制度であるが、わが国の民法では、所有権の取得時効を定める(民法第162条)だけでなく、地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効も定めている(民法第163条)。
所有権の取得時効は、占有開始時点において善意かつ無過失であれば10年間の短期取得時効、占有開始時点において悪意または有過失であれば20年間の長期取得時効が適用される。
地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効についてもこれと同様の区分がされており、時効期間を起算する起算点において自分が正当な権利者であると信じており、そう信じるにつき無過失であれば、時効期間は10年とされるが、悪意または有過失であれば時効期間は20年となる(民法第163条)。
所有権の取得時効は「所有の意思をもって」「占有」を継続することが要件とされるが、地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効では「自己のためにする意思をもって」「権利の行使」を継続することが要件とされる。
「自己のためにする意思」とは、例えば地上権であれば、「土地を使用するという意思」を持っていることである(自分が正当な地上権者であると信じることは必要でない。すなわち悪意であってもよい)。
また「権利の行使」とは具体的には「権利を行使し、そのことを客観的に外部に表示すること」であると解釈されているが、例えば地上権の場合に、単に土地を占有していればよいのか、それとも建物を建築する必要があるのかについては意見が分かれている。
なお、賃借権については賃料の支払いが必要とされた判例がある(詳しくは賃借権の取得時効へ)。
所有権の保存の登記
初めてする所有権の登記のこと。登記記録上では、権利部の甲区に「所有権保存 所有者A」のように記載される。
所有権の保存の登記をすることができるのは、原則として、表題部所有者である(不動産登記法第74条)。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法
所有者不明土地の利用の円滑化や、土地の所有者の効果的な探索を図るために必要な措置を定めた法律。2018年に制定された。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が定める主な措置は、次の通りである。
(1)所有者不明土地の利用円滑化のための措置
ア)一定の要件を満たす所有者不明土地(特定所有者不明土地)について、公共事業における収用手続きにおいて収用委員会による審理手続きを省略することができる。
イ)特定所有者不明土地に対して、地域福利増進事業に利用する権利を設定することができる。
(2)所有者の探索を合理化するための措置
ア)行政機関は、土地の所有者の探索のために必要な公的情報を利用することができる。
イ)登記官は、所有権の登記名義人の死亡後に相続登記等がされていない土地であって、公共の利益となる事業の円滑な遂行を図るためその所有権の登記名義人となり得る者を探索する必要があるもの(特定登記未了土地)で一定の要件を満たす土地について、特定登記未了土地である旨等を職権で登記できる。
(3)所有者不明土地を適切に管理するための措置
地方公共団体の長等は、所有者不明土地について、家庭裁判所に相続財産の管理人の選任を請求できる。
所要時間・徒歩所要時間
歩いてかかる時間のことだが、不動産広告で徒歩所要時間を表示する場合には、不動産の広告を規制する「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」により、徒歩1分が80mに相当するものとして計算する(不動産の表示に関する公正競争規約規約第15条第11号)。
さらに詳しくいうと、徒歩所要時間は次のルールで算出する必要がある。
1.直線距離ではなく、道路に沿って測定した距離(道路距離)をもとにする。
2.道路距離80mを徒歩1分に換算する。
3.80m未満の端数が出たときは、切り上げて1分とする。例えば、道路距離が100mならば、徒歩所要時間は「2分」となる。
4.駅からすぐに物件があるときでも、「駅から徒歩0分」ではなく、「駅から徒歩1分」と表示しなければならない。
5.車両通行量が多い道路や鉄道などを越えるために、横断歩道・歩道橋・踏切りを経由しなければならないときは、それを経由するために余分に歩く距離を含める必要がある。
6.横断歩道や踏切り等を横断するとき、信号待ちの時間は考慮しなくてよい。
7.坂道があるために実際に歩く時間が長くなるときでも、やはり道路距離80mを徒歩1分に換算してよい。
ショートセール
担保残債価額よりも安い価額で販売される住宅、またはそのような住宅販売をいう。
ローン債権の行使が担保物件に限定されるような融資(ノンリコース)が多いアメリカで見られる。
一般に、住宅ローンの担保に供されている住宅は、残債を返済しなければ売買できないが、債権者が販売額を超える部分の債権を放棄することに同意すれば、残債額よりも安い価格で販売することができる。そのようにして販売される住宅がショートセールである。
ショートセール物件は、市場価格よりも安く販売される場合もあるが、債権者の同意に期間を要することなどに注意が必要であるとされる。
使用収益
私法上の概念で、物を直接に利活用して利益・利便を得ることをいう。
使用収益するためには、その物を直接に支配する権利(物権)が必要である。
仕様書・建築物等の工事における
工事を注文するときに、その内容や実施方法を指示する図書。例えば、建築工事の発注に当たっては、通常、工事請負契約書に仕様書を添付し、契約内容の一部とする。
仕様書を作成するのは一般に設計者である。記載される事項は、使用する材料・部品・設備の規格・品質・寸法等、施工の手順・方法、検査の方法など。また、仕様書は、工事の種類に応じて共通する事項を定めた「共通仕様書」と、その工事に固有の技術的な水準、施工上の制約事項などを定めた「特記仕様書」に分けて示されることが多い。
使用貸借
動産や不動産を有償で貸し付ける契約が「賃貸借契約」であるが、無償で貸し付ける契約は「使用貸借契約」と呼ばれる。
使用貸借契約については、借地借家法が適用されず、民法第593条から第600条が適用される。また無償で貸し付けているため、使用貸借契約においては、貸主は原則としていつでも借主に対して契約を解除し、物の返還を要求することができる(ただし、存続期間を定めているときはその期間が満了するまでは物の返還を要求できない)(民法第597条)。
実際には使用貸借契約は、会社とその経営者の間で締結されたり、親子間で締結されることが多い。また契約書が存在せず、口約束で行なわれることも多い。
例えば会社の経営者が、個人名義の土地の上に会社名義の建物を建築するケースや、親名義の土地の上に子名義の建物を建築するケースなどである。
なお税法上の相続財産評価においては、使用貸借契約により土地を貸借する権利の経済的価値はゼロと評価されている。
白地
公図の上で地番が付されていない国有地のことを「白地」という。
白地の多くは道路であるが、中には土手や資材置場など、市町村が把握・管理していない国有地もある。このような管理されていない国有地である白地は、長年月のうちに隣接する民有地に取り込まれてしまった形となり、民間建物の敷地になっている場合も少なくない。
そのため、不動産取引にあたって白地の存在が問題になる場合がある。売買の対象となる土地に白地が含まれている場合には、白地は国有地であるから、売買取引の前に、市町村に対して国有地払い下げの手続きを申請する必要があることに留意しなければならない。
信義則・信義誠実の原則
権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行なわなければならないとする原則をいう。
この原則は、契約の趣旨を解釈する基準にもなるとされ、当事者相互が、相手方が持つであろう正当な期待に沿うように行動することを要請しているのである。
どのような場合に信義誠実の原則を適用するかは、具体的な事情に応じて決定するほかない。例えば、不動産仲介業会社は、直接の委託関係はなくとも、業者の介入に信頼して取引を成すに至った第三者一般に対しても信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとする判例もある。判断に当たって、置かれた立場や社会的な信頼などが考慮されるということである。
なお、民事訴訟法は、当事者の訴訟行為について信義誠実義務を課しているが、これは一般的な信義誠実の原則とは別のより厳密な義務であると考えてよい。
親権者
親が成年に達しない子を保護し監督することを「親権」という。
親は、子が未成年者である間は、民法の規定により「親権者」とされる(民法818条)。
親権者には次の2つの強い権限がある(民法824条)。
1.子の財産を管理する権限
2.子の法律行為を代理する権限
この親権は原則として父母が共同して行なうこととされている(民法818条3項)。
ただし父母のどちらか一方が、共同であると偽って親権を行使した場合には、そのことを知らなかった第三者については、その親権の行使は父母の共同であったものとみなされる(民法第825条)。
例えば、未成年者が賃貸借契約を締結するにあたって、母が父に事情を知らせないまま、母がこの契約締結について父母共同の同意を与えたとする。
この場合、本来ならば父母が実際に共同で同意を与えない限り、その契約は取消しが可能なものとなるはずである。
しかし上記の民法第825条によって、母の同意が父母共同の同意であるとみなされるので、その結果、事情を知らなかった契約の相手方(即ち善意の貸主)は保護されることとなる。
なお死別等により親権を行なう親がいないとき(または親が親権を喪失したとき等)については、親権者の遺言または家庭裁判所の選任により、未成年後見人が置かれる。
申請情報・不動産登記における
不動産登記を申請するにあたって必要となる情報のこと。従来の不動産登記制度における「登記申請書」に相当する。
2005(平成17)年3月7日から施行されている新たな不動産登記法(以下、新不動産登記法という)では、さまざまな用語がオンライン申請に対応できるように改められた。
オンライン申請では登記申請書自体を提出することがなくなり、必要な情報をオンラインで送信することとなる。そこで、登記申請書という名称を廃止して、申請情報という名称にしたものである。
なお、新不動産登記法では、すべての登記所において書面申請・郵送申請を認めているが、このような紙を提出する申請の場合であっても、やはり申請書ではなく「申請情報」と呼んでいる。
新中間省略登記
合法性が高いとされる手法によって行なわれる中間省略登記をいう。
従来の中間省略登記は、権利が移転する実態を反映していないという問題があり(「中間省略登記」を参照)、また、不動産登記法の改正で手続上それが困難となった。そこで、合法的に中間省略登記を行なう手法が工夫された。その手法によって行なわれるのが新中間省略登記である。
新中間登記には、次の2つの手法があるとされる(A→B→Cの譲渡を、A→Cと登記する場合を例示する)。
1.買主の地位の譲渡を利用する手法
売買契約(A→B)、および、買主の地位を譲渡する契約(B→C)による所有権移転
2.第三者のためにする契約を利用する手法(直接移転売買)
第三者のためにする売買契約(A→B、所有権は直接Cに移転する特約付き)、および、他人物売買契約(B→C、Aの所有物をCに移転)による所有権移転
心理的瑕疵
不動産の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらをいう。
心理的瑕疵とされているのは、自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったこと、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどである。
物件の物理的、機能的な瑕疵ではないが、物件の評価に影響することがあるため、知っていながらその事実を説明しない場合には契約不適合責任を問われることがある。もっとも、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はない。
なお、不動産の取引や取引の代理・仲介に当たって、取引対象の不動産において過去に人の死が生じた場合に宅地建物取引業者がとるべき対応を示した指針(「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」2021年)が公表されている。
心理的瑕疵の告知
宅地建物取引業者が不動産の取引や取引の代理・仲介を行なうときに、取引の相手に心理的瑕疵を告げること。
宅地建物取引業者は、業務を行なうときに、取引条件に関する事項であって、取引相手の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が禁じられている。取引対象不動産に関する心理的瑕疵も、取引の判断に重要な影響を及ぼすこととなるときには、取引相手に告知しなければならない。
しかしながら、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はなく、また、心理的瑕疵が取引の判断に与える影響の程度は一律ではない。告知の要否や告知内容は、物件の性質、取引の内容、事由の重大性などに応じて、個別に判断することになる。
なお、不動産の取引や取引の代理・仲介に当たって、取引対象の不動産において過去に人の死が生じた場合に宅地建物取引業者がとるべき対応の指針(「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」2021年)が公表されている。
心裡留保
本人の真意とは異なる内容を、本人が外部に表示することをいう。
例えば、ある品物を買う意思がまったくないのに、冗談で「その品物を買います」と店員に言う行為が、この心裡留保に該当する。心裡留保とは「真意を心のうちに留めて置く」という意味である。
このような心裡留保による意思表示は、有効な内心的効果意思を欠くものとして無効とするという考え方もありうるが、民法ではこのような真意と異なる意思表示をする本人は法の保護に値しないとの趣旨により、心裡留保にもとづく意思表示を原則的に有効と定めている(民法第93条本文)。
ただし、心裡留保にもとづく意思表示の相手方が、本人の真意に気付いていた場合(または通常の注意力を働かせれば真意に気付いて当然であった場合)には、相手方を保護する必要がないので、心裡留保にもとづく意思表示は無効となる(民法第93条但書)。
心裡留保における第三者保護
心裡留保による意思表示において、相手方が本人の真意を知っていたとき(または真意を知るべきであったとき)には、意思表示は無効となる(民法第93条但書)。この場合において、それにより不測の損害を被る第三者を保護する規定は民法には存在しない。
そこで民法学の通説では、このような場合に第三者を保護するために、虚偽表示に関する民法第94条第2項を類推適用することを主張している。
つまり、本人(A)が心裡留保により意思表示をし、相手方(B)が本人の真意を知っていた(または真意を知るべきであった)ときに、その相手方と取引をした第三者(C)は原則として保護されるべきであるということである。
従って、AとBは、AB間の法律行為が、民法第93条但書の適用により無効である旨をCに対して原則的に主張できないことになる。
ただしCが、AB間の法律行為が民法第93条但書により無効であることを知っていた場合には、そのようなCを保護する必要はないため、この場合にはAとBは、AB間の法律行為が無効である旨をCに対して主張できることとなる。
CRE
Corporate Real Estate の略で、「企業不動産」をいう。
企業は、事業のために事務所、店舗、工場、福利厚生施設など各種の不動産を所有・賃貸借しているが、それらすべての不動産がCREである。
CREが注目されているのは、企業経営において、不動産の活用によって企業の価値を高めることができるという認識が高まったことによる。この場合、不動産の売買や賃貸借だけを考えるのではなく、経営戦略の一環として不動産を活用することが重要であるとされ、そのような視点で企業不動産を運用することを「CRE戦略」という。
そのような業務を実施するためには、企業経営と結びついた不動産マネジメントの能力が必要であるとされている。
地上げ
事業用地を確保するために、不動産会社が土地などを購入することをいう。
自らの事業のための購入のほか、依頼を受けて土地等を買収することも含まれる。買収を依頼されたときの方法には自ら買収した後依頼者に転売する場合と、依頼者の買収を媒介する場合とがある。
地上げの目的は土地を事業の用に供することであり、そのために必要となる、地上権の解消、家屋の撤去、借家人の立ち退きの実現などもその業務に含まれる。また、権利関係が複雑な市街地の開発などにあたっては、その調整等のため専門的な能力が要請されることもある。
公共事業のための用地買収も地上げと類似するところがあるが、買収価格は用地補償基準従って決められた価格でなければならず、最終的には土地収用に至ることなど、その性質は異なる。
事業用定期借地権・事業用借地権
定期借地権の一つで、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とするものをいう。
当初、契約期間が10年以上20年以下とされていたが、借地借家法の改正により、2008年1月1日以降は、10年以上50年未満に改められた。
事業用定期借地権は、契約の更新(存続期間の更新)を伴わない、契約終了時に建物買取請求権が発生しない、建物再築による存続期間の延長がないことを特約した借地権の設定契約(事業用借地権設定契約)によって発生する。この場合、契約期間が10年以上30年未満の場合には必ずこの特約が必要である一方、契約期間が30年以上50年未満の場合は特約するかどうかは任意とされる。また、契約は公正証書によらなければならない。
従って、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権の設定は、契約期間に応じて右表のような方法を選択することができる。
事業用不動産
収益を得ることを目的に所有・利用される不動産をいう。店舗、事務所ビルなど事業のための設備として利用される不動産のほか、投資の対象とされるマンションなどもこれに該当する。一方、自己居住のために所有される住宅等は事業用不動産ではない。
事業用不動産の価格や賃料は、原理的には、得られるであろう収益に基づいて市場競争によって形成される。一方、自己居住用不動産等についてはそのようなメカニズムが働きにくい。また、事業用不動産については収益最大化を目指して利用形態や管理手法が競争的に変化する傾向があるのに対して、自己居住用不動産等については安定性が強い。さらには、事業用不動産のうち居住用途のものは住生活の基盤としての性格があるため、市場において区分して取り扱う必要がある。
時効
ある事実状態が一定期間継続した場合に、そのことを尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという制度を「時効」という。
時効は「取得時効」と「消滅時効」に分かれる。取得時効は所有権、賃借権その他の権利を取得する制度であり、消滅時効は債権、用益物権、担保物権が消滅するという制度である。
時効は時間の経過により完成するものであるが、当事者が時効の完成により利益を受ける旨を主張すること(これを援用という)によって初めて、時効の効果が発生する。
また、時効の利益(時効の完成によって当事者が受ける利益)は、時効が完成した後で放棄することができる。これを時効利益の放棄という。
また時効は、時効の完成によって不利益を受ける者が一定の行為を行なうことにより、時効の完成を妨げることができる。これを時効の中断という。
時効完成後の債務の承認
債務が消滅時効により消滅した後に、債務者が、消滅時効が完成したことを知らないまま、債務の存在を承認することを「時効完成後の債務の承認」という。
例えば、BがAから借金をしていた場合に、時効期間の経過により債権の消滅時効が完成し、すでに債務が消滅しているのに、AがBに返済を督促したとする。このときBが、消滅時効の完成を知らないまま、Aに対して返済の猶予を求めたり、一部だけ返済したとしよう。このようなBの行為が、時効完成後の債務の承認に該当する。
この場合、Bの債務はすでに消滅しているのであるから、Bは時効の完成を主張すれば(すなわち時効を援用すれば)、消滅時効の起算点にさかのぼって債務は消滅するので、起算点以降に支払った金銭の返還を求めることができると考えることもできる。
しかし判例では、このようなBについて、いったん債務の存在を認めるような行為(返済の猶予を求めるなどの行為)をした以上は、その行為の後であらためて消滅時効を援用することは許されないとしている。
この理由は「いったん債務の存在を承認した以上、債権者Aとしては債務者Bがもはや消滅時効を主張することはない、と信頼するのが通常である。BはこのAの信頼を裏切ることは許されない」と説明されている。従って、時効完成後の債務の承認により、時効の援用権の行使が不可能になるということができる。
時効の援用
時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することである。時効の援用とは、時効の効果を確定的に発生させる意思表示であるということもできる。
当事者が時効を援用しない限り、時効の効果は発生しないものとされている(民法第145条)。時効の援用は、裁判において主張することもできるが、裁判外で主張することもできる。なお、時効の援用は「相対効」とされており、援用した者だけが時効の完成を主張することができ、援用しない者についてまで時効が完成するわけではない。
時効の援用をすることができる者の範囲は、「時効の完成により直接的に利益を受ける者」に限定されている(判例)。ただし「直接的に利益を受ける者」の範囲は、判例上次第に緩やかに解釈されるようになってきており、また判例も多数あるので注意したい。いくつか具体例を挙げる。
1.保証人
債務者の債務を保証している保証人は、債務者の債務が消滅時効により消滅すれば、保証債務から解放されるので、「消滅時効の完成により直接利益を受ける者」に該当する。たとえ債務者が時効を援用しなくとも、保証人自身が債務者の債務が時効消滅していると主張し、消滅時効を援用することができる(つまり保証人は援用権者である)。
なお、債務者が時効を援用せず保証人が援用した場合には、債権者は保証人に対する関係では債務の存在を主張できなくなる。従ってこの場合には、保証のない債務が残る結果となる。
2.物上保証人
債務者のために自己の財産を担保に入れている者(物上保証人)も、上記の保証人と同じ理由により、援用権者である。
3.抵当不動産の第三取得者
AがBから借金をし、その担保としてA所有の土地に抵当権を設定し、その後にAがこの抵当権付の土地をCに売却したとする。このときCを抵当不動産の第三取得者というが、CはAの債務(借金)が消滅時効により消滅すれば、抵当権も同時に消滅するので、Cの所有する土地の価値は上昇する。このようなCも消滅時効の援用権者である。
4.仮登記担保付の不動産の第三取得者
借金の担保として債務者の土地について再売買の予約を行ない、登記の原因を「売買予約」として「所有権移転請求権仮登記」を行なった場合も、実質的には上記3.の抵当権の設定と同じことである。そのため、こうした仮登記のついた不動産の第三取得者も、上記3.と同様に、消滅時効の援用権者である。
5.借地人・抵当権者
取得時効の時効期間が経過した土地の借地人や、その土地に抵当権を設定している抵当権者は、その土地が取得時効により取得されたことを主張できる。つまり、借地人や抵当権者は援用権者である。
6.建物賃借人は土地所有者に対して取得時効を援用できない。
AがBの土地を占有し、Aが自己所有の建物を建築し、その建物をAがCに賃貸した場合に、建物賃借人であるCは、Aが取得時効により土地を取得していることをBに対して主張できないとされる(昭和44年7月15日最高裁判決)。ただし、学説はこの判例に反対である。
時効の中断
時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、その事実状態を尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという法制度である。
この事実状態が継続する必要があるとされる一定の期間を「時効期間」といい、時効の種類により時効期間が設けられている(例えば所有権の短期取得時効の時効期間は10年、所有権の長期取得時効の時効期間は20年、普通の金銭債権の消滅時効の時効期間は10年である)。
このような時効期間が進行している途中において、それまで継続してきた事実状態を妨げるような事実や行為が発生した場合には、もはや事実状態の継続が失われたことになるので、それまで進行してきた時効期間はすべて効力を失うことになる。
このように、一定の事実や行為によって、それまで進行してきた時効期間が効力を失うことを「時効の中断」と呼んでいる(時効の進行が「ふりだしに戻る」ということである)。
なお、時効を中断させるような事実や行為は「時効の中断事由」と呼ばれている。
時効の中断事由
進行していた時効の効力を失わせる事実や行為。時効の中断事由が発生すれば、時効の完成が猶予され、事由が終了した時から新たに進行を始める。
時効の中断事由には次の3種類がある。
1.裁判上の請求等
「裁判上の請求」「支払督促」「和解又は調停(法律に基づくもの)」「破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加」によって時効の完成が猶予される。そして、これらによって権利が確定し事由が終了したときから、時効は新たに進行を始める。
2.強制執行等
「強制執行」「担保権の実行」「担保権の実行としての競売」「財産開示手続」
によって時効の完成が猶予される。そして、これらによって権利が確定し事由が終了したときから、時効は新たに進行を始める。ただし、申立の取り下げまたは法律の規定による取消による事由の終了の場合には時効の進行が継続する。
3.承認
債務者が権利を承認したときには、そのときから新たに時効が進行する。この「権利の承認」とは、たとえば、支払猶予の要請、利息の支払い、債務の一部弁済などである。
また、「仮差押」「仮処分」「催告」「協議を行なう旨の合意」があったときには、それぞれの事由に応じて定められた一定の期間、時効は完成しない。
時効利益の放棄
時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成による利益を放棄することである。
時効利益の放棄は、時効が完成する前に放棄することができない(民法第146条)。これは特に、債権の消滅時効において、債権者が債務者の窮状に乗じて、債務者に時効利益の放棄を事前に強いることを防止するための規定である。
ただし、時効完成後に放棄することは自由である。なお、時効利益の放棄と類似した問題として「時効完成後の債務の承認」がある。
時効利益の放棄は「相対効」である。つまり、時効を援用できる者(援用権者)が複数いる場合に、1人が時効利益を放棄してしまっても、他の者はそれに関係なく時効を援用できるということである。
なお債務の保証については、時効利益の放棄は次のように解釈されている。
1.主債務者が時効利益を放棄し、その後に保証人が時効を援用した場合
AがBから借金をし、その債務をCが保証した場合、AB間の債務を主債務といい、BC間の債務を保証債務という(保証債務は、主債務が弁済されないときに、補充的に主債務の弁済されない部分を弁済するという債務である)。
ここで、主債務者Aは借金が消滅時効で消滅したにもかかわらず、時効利益を放棄したのであるから、主債務は有効に残存している。しかし、時効利益の放棄は「相対効」であるから、保証人Cは独自に主債務の消滅を主張してよい(これは保証債務の消滅を意味する)。
2.主債務者が時効を援用し、その後に保証人が時効利益を放棄した場合
時効の援用は「相対効」を持つに過ぎないから、Aの時効の援用は、Cに影響しないのが原則であるが、保証債務は主債務の消滅により自動的に消滅するという性質(附従性)を持つので、この附従性を通じて、Aの時効の援用は、Cの保証債務を消滅させる。その結果、保証人Cは時効利益を放棄することは不可能となる(消滅してしまった保証債務を、時効利益の放棄により復活させることはできない)。
従ってこの場合、保証人Cが時効利益を放棄する旨の意思表示をしたことは無意味であり、仮にCがBに対して債務を支払ったならば、その支払い分は本来は不当利得返還請求によりCに返還されるべきである(ただし、民法第705条の非債弁済の規定により、Cは返還を請求することができないという結論になる)。
自己の財産におけるのと同一の注意義務
善管注意義務よりも軽い注意義務のこと。
民法では、一定の場合に「取引上、一般的・客観的に要求される程度の注意義務」を取引関係者に要求しており、この注意義務を「善管注意義務」という。
これに対して、民法上、一定の場合には善管注意義務よりも軽い注意義務だけを負うことがあり、これを「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」または「自己のためにすると同一の注意をなす義務」などと呼んでいる(詳しくは「善管注意義務」へ)。
自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限
宅地建物取引業者が、他人物や未完成物件を売ることを原則的に禁止するという規制のこと。これは、一般消費者を保護するための措置である(宅地建物取引業法第33条の2)。
1.概要
「自己の所有に属しない宅地又は建物」とは他人物と未完成物件を指している。
他人物の売買は、民法上は可能とされているが、一般消費者にとってはそのような取引を行なうことは危険性が高い。未完成物件の取引も同様である。そこで宅地建物取引業法では、そのような他人物・未完成物件の売買取引を、原則的に禁止しているのである。
2.他人物売買の制限
宅地建物取引業法では他人物売買について、原則的に禁止する措置を取っている(法第33条の2本文)。
具体的には、宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売主になるような「売買契約」を締結することができない。また、宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売主になるような「予約」を締結することもできないとされている。
ただし、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約」があるときには、他人物の売買契約または予約を締結してよいという例外規定がある(法第33条の2第1号)(詳細については「他人物売買の制限」へ)。
3.未完成物件の売買の制限
未完成物件を造成中・工事中の段階で販売することは、「自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結」に該当するので、原則的に禁止されている(法第33条の2本文)。
しかし仮に、造成中における宅地分譲・工事中における建物分譲がまったく行なえないことになっては不動産実務上、非常に不便なことは明らかである。
そこで、宅地建物取引業法では「未完成物件に関する手付金等の保全措置」が行なわれている未完成物件については、造成中・工事中であっても、未完成物件の売買契約または予約を締結してよいこととしている(法第33条の2第2号)(詳細については「未完成物件の売買の制限」へ)。
4.適用範囲
宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者以外の者が買主になる場合についてのみ適用されることになっている(法第78条第2項)。
5.違反に対する罰則
「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」(法第33条の2)に違反した場合には、宅地建物取引業法の監督処分として「指示処分」または「業務停止処分」が予定されている。
なお、「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」に違反した売買契約(予約含む)の効力については、宅地建物取引業法にはこれを無効とする規定がないので、そのまま有効な売買契約(予約含む)として取り扱われることになる。
事故物件
権利について争いがあったり、浸水、自殺、倒産などの事故の場所となったりした宅地建物をいう。
取引価格は、事情を反映して低くなることが多い。
事情変更の原則
私法上の概念で、契約の内容は、社会的事情の変化があればそれに応じて変更されなければならないという原則のこと。明文の規定はないが、契約締結後、急激なインフレなどの契約当時まったく予見できなかった社会的事情の変動があり、それが当事者にとって重大である場合には、「信義誠実の原則」を適用して、当事者に契約の解除、または契約内容の改定を請求することを認めようという考え方である。
例えば、借地借家法では、地価の変動等の経済事情の変動などによって地代や借賃が不相応になったときには、契約の条件にかかわらず、地代や借賃の増減を請求できるとしている(地代等増減請求権および借賃増減請求権の規定であり、強行規定である)が、この規定は、事情変更の原則を法律のうえで認めたものといわれている。だが、具体的にどのような場合に事情変更の原則が適用されるかは、判例によって判断するほかない。
実質賃料
不動産鑑定評価における概念で、貸主に支払われるすべての経済的対価をいう。
賃料の鑑定評価に当たっては、実質賃料を求めることが原則とされている。
実質賃料を構成するのは、
1.支払い時期に支払われる賃料(支払賃料)
2.権利金、敷金、保証金等の運用益および償却額
3.必要経費等
である。
なお、共益費等の名目で支払われる金銭のなかには、実質的に支払賃料に相当するものが含まれている場合がある。
実測売買
土地の売買契約において、取引価額を実測面積によって確定する場合をいう。
面積を確定するための測量が必要で、隣地との境界が確定していないと実測面積そのものを測ることができない。境界を確定するには労力を要することも多いが、その分、契約後の憂いは少ない。また、売買契約後に実測面積を確定して取引価額を精算することがあるが、これも実測売買である。
なお、実測売買とは別の簡便な方法として、公簿売買がある。
詳しくは、「公簿売買と実測売買」を参照。
実印
個人の印鑑であって、市区町村長に対してあらかじめ印鑑登録を行なった印鑑のこと。
印鑑証明の発行を受けることができる印鑑である。
実務経験・宅地建物取引士の登録における
宅地建物取引士として登録する際に必要とされる、宅地建物取引業に従事した経験をいう。
宅地建物取引士資格試験に合格した者が取引士として登録を申請しようとする場合には、原則として宅地建物の取引に関し2年以上の実務の経験を有することが必要とされている。この経験は、免許を受けた宅地建物取引業者としての経験、または宅地建物取引業者のもとで勤務していた経験でなければならず、また、経験として認められる実務は、顧客への説明、物件の調査等の具体的な取引に関する業務であるとされている。
なお、実務経験がない場合でも、国土交通大臣が実務の経験を有する者と同等以上の能力を有すると認めた者は、取引士として登録を申請できることとされている。例えば、宅地または建物の取引に関する実務についての講習であって国土交通大臣の登録を受けたもの(登録実務講習)を修了した者が、これに該当する。
実務講習
登録実務講習を参照。
自筆証書遺言
全文を自筆で書き記した証書による遺言。本文のほか、日付と氏名も自書し押印しなければならない。
2019年1月13日以降は、遺言作成に当たって添付する財産目録については、自書でなく、パソコン等で作成した目録、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等であってもかまわない。また、自筆証書遺言に係る遺言書は、法務局に保管を申請することができる。
なお、証書による遺言の方法には、自筆証書遺言のほか、公正証書遺言(公証役場で証書を作成する方法)及び秘密証書遺言(内容を秘密にした証書について公証役場で証明だけ行なう方法)がある。
事務禁止処分
宅地建物取引士に対して、期間を定めてその事務を行なうことを禁止する命令をいう。
通常は、名義貸し、不正・不当な行為などによって指示処分を受けたにもかかわらずそれに違反した場合に処せられるが、行為等が悪質な場合には指示処分を経ずに事務禁止処分となることもある。
事務禁止処分に違反したときには過料に処せられる。また、事務禁止処分に処せられたときはすみやかに宅地建物取引士証を交付を受けた知事に提出しなければならない。
なお、事務禁止処分に違反した場合や行為が特に悪質な場合などは、登録抹消処分に処せられることもある。
事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所
宅地建物取引業法では、法第3条第1項の「事務所」には専任の宅地建物取引士を一定割合以上設置することを義務付けている(詳しくは宅地建物取引士の設置義務)。
しかし、法第3条第1項の「事務所」に該当しない案内所・展示会等であっても、契約締結等を行なう場合には、宅地建物取引業の業務の適正を確保すべき必要性が非常に高いといえる。
そこで宅地建物取引業法では、こうした案内所等が一定の要件に該当する場合には、1名以上の成年の専任の宅地建物取引士を常時設置するように義務付けているのである。
このような「事務所以外の場所であって、専任の宅地建物取引士を置くべき場所」とは、具体的には、施行規則第15条の5の2で規定されている。ただし、この施行規則第15条の5の2の内容は複雑なので、1.外形的な要件と2.実質的な要件に分けてそれぞれ説明する(なお、以下の文章は国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方にもとづいている)。
1.外形的な要件
施行規則第15条の5の2で規定する「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」とは、次の4種類の場所のどれかに該当することが必要である。
1)事務所以外で継続的に業務を行なう施設を有する場所
2)10区画以上の一団の宅地または10戸以上の一団の建物を分譲する場合の案内所
3)他の宅地建物取引業者が分譲する10区画以上の一団の宅地または10戸以上の一団の建物について、代理または媒介をする場合の案内所
4)宅地建物取引業者が展示会その他の催しをする場所
上記の1)は、「事務所」と同等程度に事務所としての物的施設を有してはいるが、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する者(支店長・支配人など)が設置されていないせいで、「事務所」から除外されるような場所を指している。
具体的には、「特定の物件の契約または申込みの受付等を行なう場所」「特定のプロジェクトを実施するための現地の出張所」等が該当する。
2)は、一団地(すなわち10区画以上の一団の宅地または10区画以上の一団の建物)の分譲をするための案内所のことである。これには臨時に開設する案内所も含まれる。例えば、「週末に宅地建物取引士や契約締結権者が出張して申込みの受付や契約の締結を行なう別荘の現地案内所等のように、週末にのみ営業を行なうような場所」も含まれる。
3)は、上記2)の分譲について、販売の代理や媒介を行なう宅地建物取引業者が設置する案内所を指している。
4)は、「宅地建物の取引や媒介契約の申込みを行なう不動産フェア」「宅地建物の買換え・住替えの相談会」「住宅金融公庫融資付物件等のように一時に多数の顧客が対象となる場合に設けられる抽選会」「売買契約の事務処理等を行なう場所」などのように、催しとして期間を限って開催されるフェア・展示会・相談会・抽選会その他を指している。
2.実質的な要件
上述の1.の1)から4)の場所において、契約を締結しまたは契約の申込みを受けるとき、その場所は「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」となる。
ここで、「契約の締結」「契約の申込みを受ける」という言葉の具体的な意味が「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」で詳しく規定されているので以下で紹介する。
1)契約の締結
契約とは、「宅地建物の売買・交換の契約(予約を含む)」「宅地建物の売買・交換・貸借の代理・媒介の契約(予約を含む)」を指している。従って、物件の売買契約だけでなく、物件の売買の媒介契約や、物件の賃貸の媒介契約なども含まれている。
このような意味での契約を締結するためには、「契約を締結する権限を有する者が派遣されている」か、または「契約を締結する権限の委任を受けた者が置かれている」ことが必要となる。
2)契約の申込みを受ける
契約の意味は上記1)と同じである。
また「申込み」とは、契約を締結する意思を表示することであるが、手付金・申込証拠金などの金銭を交付して締結の意思表示をする場合だけではなくて、「物件の購入のための抽選の申し込み」のような金銭の授受を伴わない意思表示も含まれるので、注意したい。
なお「申込みを受ける」ためには、「契約を締結する権限を有する者が派遣されていること」または「契約を締結する権限の委任を受けた者が置かれていること」は必須ではない。この点にも注意したい。
事務所等・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業法では、その第31条の3第1項で、一定の場所には、成年で専任の宅地建物取引士を置かなければならないと定めている。
この専任の宅地建物取引士を置くべき場所のことを、宅地建物取引業法では「事務所等」と表現している。
「事務所等」とは具体的には次の2種類の場所を指す言葉である。
1.「事務所」
原則的には本店・支店を「事務所」と呼ぶ。ただし、本店・支店以外であっても、継続的に業務を行なうことができる施設に宅地建物取引業に係る支店長や支配人を置いていれば、その施設は「事務所」に含まれることになる(宅地建物取引業法施行令第1条の2)。
2.「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」
これは上記1.の事務所以外であって、専任の宅地建物取引士を置かなければならない場所のことである。この場所は宅地建物取引業法施行規則第15条の5の2において具体的に規定されている。
この規則第15条の5の2の内容は複雑なので、概略だけをまとめれば「事務所以外で継続的に業務を行なう施設を有する場所」「10区画以上または10戸以上の一団地の宅地建物を分譲する場合の案内所」「他の宅地建物取引業者が分譲する10区画以上または10戸以上の一団地の宅地建物の代理または媒介をする場合の案内所」「宅地建物取引業者が展示会その他の催しをする場所」という4種類の場所であって、契約の締結または契約の申込みの受付をする場所が、この規則第15条の5の2の場所である。
なお「事務所等」という言葉は、上記のとおり宅地建物取引業法第31条第3項で定義されている。しかし、宅地建物取引業法第37条の2(クーリングオフ)においてもやはり「事務所等」という言葉が使用されている。両者は異なる内容を指しているので注意したい。
事務所・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業法第3条第1項で規定する場所のこと(法第3条第1項、施行令第1条の2)。
具体的には、次の2種類の場所が「事務所」に該当する(以下の文章は国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方にもとづいている)。
1.本店または支店(施行令第1条の2第1号)
商業登記簿等に記載されており、継続的に宅地建物取引業の営業の拠点となる実体を備えているものを指す。
ただし、宅地建物取引業を営まない支店は「事務所」から除外される。
また本店は、支店の業務を統括する立場にあるため、本店が宅地建物取引業を直接営んでいない場合であっても、その本店は「事務所」に該当するものとされる。
2.上記1.以外で「継続的に業務を行なうことができる施設」を有する場所で、宅地建物取引業に係る「契約を締結する権限を有する使用人」を置く場所(施行令第1条の2第2号)。
「継続的に業務を行なうことができる施設」とは、固定的な施設であり、テント張りの施設や仮設小屋は含まれない。
「契約を締結する権限を有する使用人」とは、宅地建物取引士を指すものではなく、支店長・支配人などのように営業に関して一定範囲の代理権を持つ者を指している(ただし、支店長等が同時に宅地建物取引士である場合がある)。
また、「置く」とは常勤の使用人を置くという意味である。
以上の1.と2.の場所を合わせて、宅地建物取引業法では「事務所」と呼んでいる。
従って、会社の登記(商業登記簿)では支店として登記されていなくても、継続的に業務を行なうことができる施設に、宅地建物取引業に係る支店長や支配人を置いていれば、その施設は「事務所」とみなされることになる。
なお、宅地建物取引業法ではよく似た概念として「事務所等」「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」「標識を掲示すべき場所」「クーリングオフが適用されない場所」を定めているので、それぞれの違いに注意したい。
受遺者
遺言によって遺産の譲与を受ける者。受遺者が法人の場合もある。遺言による遺産の譲与を「遺贈」といい、相続人は原則として受遺者に対して遺贈を履行する義務を負う。
なお遺贈には、遺産の全体についてのもの(包括遺贈)と特定の財産についてのもの(特定遺贈)とがあり、その違いに応じて受遺者の法律的な取扱いが異なる。すなわち、包括遺贈の場合には受遺者に対して遺産分割など相続人と同様の法律規定が適用される一方、特定遺贈の場合には直ちに受遺者に権利が移転すると解されている。
住居番号
「住居表示に関する法律」により、各建物に付された番号のこと。
土地登記簿に記載された地番とは異なる。
住居表示
1962(昭和37)年以前は、土地登記簿に記載されている地番に基づいて、各建物を表示していたため、郵便の集配等で混乱が生じていた。
そこで1962(昭和37)年に「住居表示に関する法律」が施行され、各建物を合理的に表示するために、各建物ごとに新しい番号(これを住居番号という)を付けることとなった。これによる建物の新しい表示の方法のことを「住居表示」と呼んでいる。
建物ごとに新しい番号を付ける方式としては、街区方式と道路方式が定められている。
従業者証明書
宅地建物取引業者は、その「従業者」に対して、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない(宅地建物取引業法第48条)。
この証明書を「従業者証明書」と呼んでいる。
この「従業者証明書」は、宅地建物取引業者が作成してその従業者に交付するものであり、従業者の顔写真が付いたカード型のものである。
なお従業者は、取引の関係者から請求があった場合には、この「従業者証明書」を提示しなければならない(宅地建物取引業法第48条)。
従業者名簿
宅地建物取引業法第48条の規定により、従業者証明書を携帯させるべき者のことを「従業者」という。
この従業者について、宅地建物取引業者は、その事務所ごとに「従業者名簿」を作成して備え付け、最終の記載をした日から少なくとも10年間保存しなければならないという義務を負う(宅地建物取引業法第48条第3項、同法施行規則第17条の2)。
さらに宅地建物取引業者は、取引の関係者から請求があったときは、この「従業者名簿」をその者の閲覧に供しなければならないという義務を負う(宅地建物取引業法第48条第4項)。
この「従業者名簿」に記載すべき事項は次のとおりである(宅地建物取引業法施行規則第17条の2)。
1.従業者の氏名
2.従業者証明書の番号
3.生年月日
4.主たる職務内容
5.取引士であるか否かの別
6.当該事務所の従業者となった年月日
7.当該事務所の従業者でなくなったときは、その年月日
従業者・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業法第48条の規定により、従業者証明書を携帯させるべき者のことを「従業者」という。
この従業者の定義は、国土交通省のガイドラインである宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方に規定されている。
それによれば、従業者は従事者よりも広い概念である。具体的には、従業者とは「従事者」と「非常勤の役員」と「宅地建物の取引に直接的な関係が乏しい業務に臨時的に従事する者」を合わせたもののことである。
こうした従業者について、宅地建物取引業者は次の2つの義務を負う。
1.従業者証明書の携帯義務(宅地建物取引業法第48条第1項)
2.従業者名簿の作成義務(宅地建物取引業法第48条第3項)
また従業者自身は、宅地建物取引業法第31条に定める「業務に関する禁止事項」を遵守する義務を負い、宅地建物取引業法第75条の2に規定する「守秘義務」を負う。
従事者・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業法の規定により、宅地建物取引業者はその事務所において「従事者」の数の5分の1以上の割合で、成年の専任の宅地建物取引士を置く義務を負う。
この成年の専任の宅地建物取引士の設置義務は、宅地建物取引業者にとって非常に重要な義務であるので、従事者の範囲は重要な意味を持っている。
この点について、国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方は次のようなガイドラインを設けている。
1. 宅地建物取引業のみを営む宅地建物取引業者の場合
代表者、役員(非常勤の役員を除く)およびすべての従業員等が「従事者」に含まれる。受付、秘書、運転手等の業務に従事する者も「従事者」に含まれる。
ただし、宅地建物の取引に直接的な関係が乏しい業務に臨時的に従事する者は「従事者」から除外される。
2.他の業種を兼業している宅地建物取引業者の場合
代表者、宅地建物取引業を担当する役員(非常勤の役員および主として他の業種も担当し宅地建物取引業の業務の比重が小さい役員を除く)と、宅地建物取引業の業務に従事する者が「従事者」に含まれる。
なお、宅地建物取引業を主として営む宅地建物取引業者にあっては、全体を統括する一般管理部門の職員も「従事者」に含める。
住生活基本計画
住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画で、全国計画と都道府県計画がある。住生活基本法に基づき、全国計画は政府が、都道府県計画は都道府県が策定する。
全国計画には、計画期間、施策の基本方針、目標、基本的施策、大都市圏における住宅・宅地の供給促進などを定めることとされている。
例えば、2016(平成28)年に策定された全国計画は、「居住者からの視点」「住宅ストックからの視点」「産業・地域からの視点」を設定し、「結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現」、「高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現」、「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築」、「建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」など8つの目標を定めている。そして、それぞれの目標について基本的な施策と成果指標を示し、住宅政策の枠組みを明確にしている。
また、都道府県計画には、全国計画に即して、当該都道府県の区域内における同様の計画が定められている。
重説
「重要事項説明」の略で、宅地建物取引業者が、売買契約・賃貸借契約の締結に先立って、買主・借主に対して契約上の重要な事項を宅地建物取引業法第35条にもとづき説明すること。
この重要事項説明において宅地建物取引業者が買主・借主に対して交付する書面を「重要事項説明書」という。
不動産の買主・借主は、契約しようとする物件に関して十分な情報を持っていない事がほとんどで、また買主・借主が一般人である場合には不動産に関する法律知識が不十分であるため、思わぬ損害を受けてしまう可能性がある。
そこで、宅地建物取引業法第35条では、売買契約・賃貸借契約を締結するよりも前に、不動産取引を代理・媒介する(または自ら売主として取引する)宅地建物取引業者が、買主・借主に契約上の重要な事項を説明するように法律で義務付けているのである。
重要事項説明にあたっては、説明する重要事項をすべて書面に記載し、買主・借主にその書面(重要事項説明書)を渡す必要があるとされている。この重要事項説明書には、宅地建物取引士が記名押印しなければならない。
さらに宅地建物取引業者は、宅地建物取引士を通じて、重要事項説明書の内容をわかりやすく買主・借主に説明しなければならない(このとき宅地建物取引士は宅地建物取引士証を提示しなければならない)。このように、一定以上の知識経験を有すると認められる有資格者(宅地建物取引士)が説明することにより、買主・借主に誤った説明がされないよう配慮されているのである。
重要事項説明書に記載すべき事項は、非常に広範囲にわたる。また契約の種類・物件の種類によっても説明すべき事項に多くの違いがある。
重説IT化
不動産取引における重要事項説明を、インターネット等を活用して対面以外の方法で行なうこと、またはその方法を導入すること。
重要事項説明は、宅地建物取引士が対面で行ない、書面を交付しなければならないとされている(宅地建物取引業法)。しかし、情報技術を活用すれば、インターネット等を利用して説明し、電磁的方法で書面を交付することができる。そこで、政府においてその導入の可能性等が検討されている。
検討においては、① 取引士により重要事項説明が行なわれ、取引士証が提示されること、② 重要事項説明を受ける者が契約者本人であること、③ 取引士が、必要な内容について伝達すること、④ 取引士と重要事項説明を受ける者とのやり取りに十分な双方向性があること、を満たす必要があるとされている。そこで、社会実験によって導入の可能性を検証するとされている。その際には、売買か賃貸かというような取引の類型や、契約の相手方が個人か法人かというような属性の違いについても留意することになっている。
住宅瑕疵担保責任
売買契約や請負契約の履行において、引き渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合に、売り主・請負人が買い主・注文者に対して負うこととなる責任。債務不履行により生じる責任のひとつで、目的物が特定物(その固有性に着目して取引され代替性がない)である場合の「契約不適合責任」と同義である。
瑕疵担保責任を負わせるためには、買い主・注文者は、売り主・請負人に対して、履行の追完請求(補修等の実施請求)、代金の減額請求、報酬の減額請求、損害賠償請求または契約解除権の行使をしなければならない。
なお、住宅の品質を確保するため、新築住宅の瑕疵担保責任について「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく特別の定めがある。詳しくは「売り主の瑕疵担保責任(品確法における~)」および「請負人の瑕疵担保責任(品確法における~)」を参照。
また、債権関連の民法改正(2020年4月1日施行)までは、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があったときには売主に瑕疵担保責任を課す旨の規定があった。この規定は改正によって削除され、瑕疵担保責任は、改正で整備された契約不適合に関する規定によって対応することとされた。
住宅瑕疵担保履行法
新築住宅に係る瑕疵担保責任の履行を確保することを目的とした法律で、正式には「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」という。
同法は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」によって建設業者及び宅地建物取引業者が負う瑕疵担保責任(構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分の瑕疵に対する10年間の担保責任)の確実な履行を確保するための規定を定めている。主な規定は次のとおりである。
(1)保証金の供託又は住宅瑕疵担保責任保険による資力の確保
(2)住宅の検査と一体として保険を引き受ける住宅瑕疵担保責任保険法人の指定
(3)住宅瑕疵担保責任保険契約に係る紛争を処理するための体制の整備
なお、宅地建物取引業者が瑕疵担保責任を負うのは、住宅の売り主となる場合である。
住宅宿泊管理業者
住宅宿泊事業のために必要な一定の管理業務を委託を受けて実施する事業者。「住宅宿泊事業法」に基づく事業である。
住宅宿泊管理業として実施すべきとされている業務は、住宅の維持保全および宿泊者の退室後の状況確認等である。また、住宅宿泊事業者が通常は住宅に不在である場合には、これらの業務を住宅宿泊管理業者に委託しなければならないとされている。
住宅宿泊管理業者は、国土交通大臣の登録を受けなければならない。登録に当たっては、業務従事者が一定の実務経験を有していること、常時苦情への応答が可能である人員体制を備えていること等の条件を満たす必要がある。
この場合、実務経験を有している条件については、宅地建物取引士、マンション管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、宅地建物取引業者、マンション管理業者、賃貸住宅管理業者は同等の能力を有するものとみなされる。
住宅宿泊事業
民泊の営業であって、都道府県知事等に届け出たものをいう。「住宅宿泊事業法」に基づく事業である。
有償で人を宿泊させる事業は、原則として旅館業法による許可が必要であるが、住宅に人を宿泊させる事業(民泊営業)で一定の条件を満たすものについては、都道府県知事等に届けることによって営業することができる。この届出によって営まれる事業が「住宅宿泊事業」である。
住宅宿泊事業を営む者は、年間の営業日数が180日を限度とすること(この日数は、条例で、地域を定めて短縮できる)、一定の衛生・安全等の措置を講じること、宿泊者名簿を備付けること、標識を掲示することなどの条件を満たさなければならない。また、通常は住宅に不在である場合には、営業のために必要な業務を住宅宿泊管理業者に委託しなければならない。
住宅宿泊事業法
住宅宿泊事業(民泊)を営むことに関する規制等を定めた法律。2017年に制定された。
住宅宿泊事業法が定める主な規制は、次の通りである。
(1)事業者の届出・登録
ア)民泊事業を営む「住宅宿泊事業者」は都道府県知事等に届け出なければならない。
イ)民泊施設の管理を受託する「住宅宿泊管理業者」は国土交通大臣の、民泊契約を仲介する「住宅宿泊仲介業」は観光庁長官の登録を受けなければならない。
(2)住宅宿泊事業に関する業務規制
衛生確保措置、宿泊者に対する騒音防止のための説明、近隣からの苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示等をしなければならない。
(3)住宅宿泊管理業に関する業務規制
ア)住宅宿泊事業の業務を代行する場合には、その業務規制を遵守しなければならない。
イ)管理受託契約の内容の説明、契約書面の交付等をしなければならない。
(4)住宅宿泊仲介業に関する業務規制
宿泊者への契約内容の説明等をしなければならない。
住宅着工統計
住宅の新改築の動向に関する統計で、国土交通省が実施し、その結果は毎月公表されている。住宅の着工状況(戸数、床面積の合計)を、構造(木造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、コンクリートブロック造、その他)、建て方(一戸建て、長屋建て、共同住宅)、利用関係(持家、貸家、給与住宅、分譲住宅)、資金(民間、公的)、建築工法(在来工法、プレハブ工法、枠組壁工法)等に分類して把握できる。統計のための原資料は、建築確認申請である。
なお、住宅着工統計は、全国の建築物の動態を明らかにするための統計調査(建築動態統計調査)の一環として実施されており、その全体的な体系は次のようになっている。
1.建築着工統計調査(建築物着工統計、住宅着工統計、補正調査)
2.建築物滅失統計調査(建築物除去統計、建築物災害統計)
住宅手当・離職者に対する
住宅を喪失または喪失する恐れのある離職者であって、就労意欲のある者に対し、賃貸住宅の家賃を給付する制度をいう。
支給の対象となるのは、
1.離職し、離職前に生計維持者であったこと
2.ハローワークに求職を申し込んでいること
3.住宅を喪失し、または賃貸住宅に居住し住宅を喪失する恐れがあること
4.申請者および生計同一者の収入、預貯金が一定額未満であること
という条件を満たす者である。
支給額は、賃貸住宅の家賃額で地域ごとに上限があるほか、収入に応じた調整がなされる。支給期間は原則6ヵ月(一定の条件を満たせば最大9ヵ月)である。
手当を受給するには、住宅の賃貸借契約の際に住宅手当支給対象者証明書を提示したうえで自治体窓口に契約書の写し等を提出することが必要で、手当はそれにもとづき賃貸住宅の貸主等に対して直接に支払われる。
住宅販売瑕疵担保責任保険
宅地建物取引業者が新築住宅を販売した場合に、特定住宅瑕疵担保責任(構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分の瑕疵に対する10年間の担保責任)を確実に履行するために当該宅地建物取引業者が締結する保険をいう。
この保険は、(1)売り主となった住宅に関して宅地建物取引業者が特定住宅瑕疵担保責任を履行した場合に生じる損害の補填、(2)特定住宅瑕疵担保責任が生じたにもかかわらず売主の宅地建物取引業者がそれを履行しない場合に行なう損害の補填、を行なうためのもので、保険料は瑕疵担保責任を負う宅地建物取引業者が負担する。
住宅瑕疵担保履行法は、宅地建物取引業者が新築住宅を販売した場合には住宅販売瑕疵担保保証金を供託することを義務としているが、住宅販売瑕疵担保責任保険を締結した住宅については供託の対象から除外される。
なお、住宅販売瑕疵担保責任保険には、新築住宅の販売に適用される特定住宅瑕疵担保責任を対象としたもののほか、宅地建物取引業者等が既存住宅を販売する場合の瑕疵担保責任を対象としたもの(既存住宅売買瑕疵保険)がある。いずれの場合にも、保険契約と住宅の検査とを一体として行なうことが特徴である。
また、住宅新築工事又はリフォーム工事における工事請負者の瑕疵担保責任を対象にした保険(住宅建設瑕疵担保責任保険)も制度化されている。
住宅履歴情報
住宅の構造・設備、改修工事、維持保全、権利関係など、住宅の情況を示す情報をいう。
その具体的な内容が統一的に定められているわけではないが、長期優良住宅の普及、住宅の資産価値の保全、中古住宅流通の活性化、住宅の維持保全などのためには、住宅履歴情報の記録・保存が必要または有効であると考えられている。
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」では、長期優良住宅の認定を受けるためには、その建築・維持保全の状況に関する記録を作成・保存しなければならないとされているが、この記録は、住宅履歴情報に該当する。また、住宅履歴情報は、その活用によって、住宅の維持管理やリフォームを適切に実施すること、取引の安心を向上し円滑にすること、災害や事故時に迅速・適切に対応することなどに資すると期待されている。
住宅履歴情報に関する仕組みの構築、例えば情報項目の標準化、情報表示の共通化、情報活用ルールの明確化などについては、国土交通省が設置した委員会を中心に検討が進んでいる。
住宅ローン
個人に対する住宅資金の融資をいう。
主として民間の金融機関が担っているが、その円滑な実施などのため、(独)住宅金融支援機構(住宅金融公庫の廃止後、その機能の一部を引き継いだ組織)と連携することが多い。また、年金基金、共済組合などが融資する場合もある。
融資の期間、利率(固定金利か変動金利かを含めて)などの条件は、金融機関によって異なるほか、借入者の属性や状況等、金融機関との取引の状況に応じて多様である。その選択のために、借入と償還をさまざまにシュミレーションできるサービスも提供されている。
住宅ローンの実施に際しては、通常、融資対象となる住宅に担保権が設定されるほか、連帯保証人を求められることが多い。また、住宅販売会社が提携金融機関の融資を斡旋する場合もある(提携住宅ローン)。
なお、住宅ローンの負担軽減のための税制上の優遇措置(住宅ローン減税)があるほか、住宅ローン債権がSPCなどに譲渡され証券化される例も増えてきている。
住宅ローン控除
住宅ローン減税を参照。
従たる権利
民法第87条第2項は「従物は主物の処分にしたがう」と定めている。これは、主物の効用を高めるために主物に結合させられた物(これを従物という)は、原則として主物と法律的運命を共にするという趣旨である(詳しくは従物へ)。
この民法第87条第2項は、物と権利との関係にも類推適用されている。例えば、借地上の建物が売買される場合には、その建物とともに土地賃借権も売買される。このように主物に附属せしめられた権利を「従たる権利」と呼んでいる。
また、抵当権の効力は従たる権利にも及ぶとされている(「付加一体物」参照)。ただし主物が登記を備えたとき、従たる権利についても物権変動が公示されたことになるかどうかは別問題であり、不動産登記法などによって決定される。
重大な不履行・契約の
債務の履行について合理的な期待を持てない状態にあることをいう。このような場合には、債務者に故意・過失がない場合にも契約解除を認めるべきであるという私法上の考え方がある。
伝統的に、債務不履行による契約解除には相手方の責めに帰すべき事由が必要であるとされ、民法はこれを採用している。これに対して、契約解除は合理的な期待を失った法的拘束から債権者を解放する役割を果たすのだから、債務者の故意・過失の有無とは無関係にこれを認めるべきであるという考え方(帰責事由不要説)があり、その要件とされるのが「重大な不履行」である(ただしどのような場合が重大な不履行に当たるのかについては必ずしも明確ではない)。
このように帰責事由の取扱いは債務の履行を確保する上で大事な観点であり、そのあり方について議論がある。
従物
主物に附属せしめられた物のことを「従物」という(民法第87条第1項)。
例えば、建物が主物、建物に取り付けられたエアコンは従物である。判例に現れた従物の例としては、建物に対する畳・建具、宅地に対する石灯籠・取り外し可能な庭石などがある。
従物については、次の点が問題となる。
1.主物の売買
従物は「主物の処分にしたがう」(民法第87条第2項)とされているので、通常は、主物を売買すれば、当然に従物も売買されることになる。ただし、売買の当事者がこれと異なる合意をすれば、従物と主物を切り離して売買することが可能である。
2.主物の登記
主物が登記されれば、その登記により主物と従物の両方の物権変動が公示されたことになる。従って、建物が登記されれば、附属建物である物置が未登記であっても、登記の対抗力は附属建物である物置に及ぶ。
3.抵当権の設定
抵当権を設定した当時において、すでに主物に附属せしめられていた従物には、抵当権の効力が及ぶ。しかし抵当権設定後に附属せしめられた従物については解釈が分かれている。
(詳しくは付加一体物へ)
4.従たる権利
「従物は主物の処分にしたがう」という民法第87条第2項は、物と権利との関係にも類推適用されている。例えば、借地上の建物が売買される場合には、その建物とともに借地権も売買される。このように、主物に附属せしめられた権利を「従たる権利」という。
住民票
市区町村の住民について、その属性を個人単位に記載した書類。住民基本台帳法に基づき、市区町村長が作成する。
作成の対象となる住民は日本国籍を有する者に限られ、記載される事項は、氏名、出生年月日、性別、世帯主との関係、住所、住民となった年月日、住民票コードなどである。
また、住民票を世帯ごとに編成して住民基本台帳が作成されている。
住民票の記載事項に変更が生じる場合には、その原因に応じて、転入届(他市町村から異動したとき)、転居届(同一市町村内において住所が異動したとき)、転出届(他市町村へ異動するとき)または世帯変更届(同一住所内における世帯の分離、世帯の合併、世帯主の変更、世帯員の異動があったとき)が必要である。
重要事項説明
宅地建物の取引において、宅地建物取引業者が取引当事者に対して契約上重要な事項を説明することをいう。
また、その際に、説明の内容を記載して当事者に交付する書面を重要事項説明書という。
重要事項説明を必要とするのは、宅地建物取引業者が自ら売主として取引する場合、および不動産取引を代理・媒介する場合であり、その説明は、売買契約や賃貸借契約を締結するよりも前に行なわなければならない。また、説明に当たるのは宅地建物取引士でなければならず、さらには、説明する重要事項をすべて書面に記載し、取引当事者にその書面(重要事項説明書)を交付する必要がある。
説明を要する事項は、売買か賃貸かなどの取引内容に応じて異なるが、大きく分けて、
1.取引対象不動産の権利関係、2.取引対象不動産に係る法令上の制限、3.取引対象不動産の状態やその見込み、4.契約の条件
に関する事項とされている(詳細は必ず直接に法令(宅地建物取引業法第35条およびその関連法令)に当たって確認されたい。また、臨機に改正も予想されるので留意が必要である)。
重要事項説明は、不動産の特性や取引の形態に起因して取引当事者に不利益が発生することを防ぐための仕組みとされ、その適正な実施が強く求められている。
重要事項説明書
宅地建物取引業務における重要事項説明に当たって、取引の相手となる当事者に対して交付して説明しなけばならない書面をいう(「重要事項説明」についての詳細は当該用語を参照)。
重要事項説明書には説明を要する重要事項を記載しなければならず、また、書面は、宅地建物取引士が、記名押印して交付しなければならないとされている。
14条地図
登記所に備え付けられている地図。不動産登記法第14条の規定によって作成されている。
14条地図は、正確な測量に基づいて、筆ごとの土地についてその区画と地番を明確に表示している。地図の縮尺は、市街地地域では250分の1または500分の1、村落・農耕地域では500分の1または1,000の1、山林・原野地域では1,000分の1または2,500分の1で、測量は、三角点、基準点などを基礎にして行なうこととされている。その多くは、国土調査法による地籍調査の成果(地積図)がそのまま利用されている。
なお、正確な測量が実施されていない土地については、課税のために作成された土地台帳付属地図等が「地図に準ずる図面」として備え付けられている。
授権行為
本人が代理人に対して、代理権を授与する行為のこと(詳しくは代理権授与行為へ)。
受贈者
贈与契約において財産等の贈与を受ける者。
贈与が成立するためには、与える者(贈与者)の贈与する旨の意思表示だけでなく、受贈者の受諾が必要である
準委任契約
法律行為以外の事務の実施を委託する契約をいう。民法上委任契約の規定が全面的に適用されるため(民法656条)、委任契約と区別する実益はない。
不動産取引における媒介契約や不動産の管理委託する契約(不動産管理契約)はこれに該当する。
順位番号・不動産登記における
登記記録の甲区、乙区のそれぞれにおいて、登記の時間的順序に従って、各個の登記に付される番号のこと。
甲区にされた登記は甲区の中で順位番号が付けられ、乙区にされた登記は乙区の中で順位番号が付けられる。つまり、区の中における登記の先後は、順位番号によって判明する。
なお、区を越えて登記の先後を見るためには、受付番号で判断する。
準禁治産者
心神耗弱者(こうじゃくしゃ)や浪費者であって、準禁治産の宣告を受けた者のこと(旧民法第11条)。
2000(平成12)年に民法が改正・施行されたため、この準禁治産者の制度は次のように改められた。
1.準禁治産者の制度は、被保佐人の制度へと移行した(被保佐人を参照のこと)。
2.上記1.の際に、単なる浪費者は被保佐人の範囲から除外された。
3.ただし、旧民法第11条により準禁治産者であった者は、改正法施行後も準禁治産者として扱われる。
準法律行為
法律効果の発生を目的としない意思の通知や観念の通知のこと。
具体的には、制限能力者の相手方の催告権のように、ある意思の通知ではあるが、それ自体は法律上の権利義務に影響しないものが、準法律行為である。
また、社員総会の招集の通知のように、単なる観念の通知も準法律行為である。
自由刑
刑罰のうち、犯人の自由を剥奪する刑罰のこと。
自由刑としては、重い順に「懲役、禁固、拘留」がある。
懲役は「犯人を拘禁し、作業を課す」という刑罰であり、有期と無期に分かれる。有期ではその刑期は犯罪ごとに異なっているが、1月以上20年以下とされている(ただし加重する場合は30年まで上げるなどの措置が認められている)。
禁固は「犯人を拘禁する」という刑罰であり、作業をしなくてよい点に特色がある(ただし、受刑者の要望により作業することは可能である)。禁固が適用される犯罪は、過失犯などごく一部の犯罪に限定されている。
拘留は、公然わいせつ罪、暴行罪、侮辱罪、軽犯罪などに適用される刑罰であり、刑期は「1日以上30日未満」と短い。
自由設計・住宅の
注文に応じて設計し建築する住宅。ブランド名として用いられることが多い。
自由設計においては、建築主の注文によって、住宅の外観、間取り、設備などを決定する。この場合、あらかじめ用意されたパターンから選択して注文する方法もある。
J
畳(広さの単位として)を参照。
畳・広さの単位として
「◯畳の間」のように使用する。その意味は「畳(たたみ)」を参照。
譲渡担保
債務者(または物上保証人)の所有する物(動産でも不動産でもよい)を、債務者(または物上保証人)が債権者に譲渡し、債務を全額弁済すると同時に債務者(または物上保証人)が債権者からその物を買い戻すという制度である。
担保に入っている期間中は、債権者(すなわち物の所有者)が、その物を債務者に賃貸するという点に最大の特徴がある。この意味で譲渡担保とは、買戻または再売買の予約に、賃貸借を組み合わせた制度であるということができる。
譲渡担保においては債務が弁済されないときは、債権者(すなわち物の所有者)はその物を確定的に所有できることとなる。その場合、債務の金額を物の価額が超える場合には、債権者はその超過部分を債務者に返還する必要があり、この債権者の義務を清算義務という。清算義務は判例により確立したものである(昭和46年3月25日最高裁判決など)。
譲渡費用
不動産等を譲渡する際に直接に負担した費用。譲渡所得の算定に当たって、収入から控除できる。
譲渡費用として認められるものは、支払った仲介手数料、印紙税で売主が負担したもの、賃借人に支払う立退料、土地売却のために必要な建物の取り壊し費用などである。従って、修繕費、固定資産税などの維持管理費用、代金の取り立て費用などは含まれない。
除斥期間
法律で定められた期間のうち、その期間内に権利を行使しないと権利が当然に消滅する場合の、その期間をいう。
時効と異なり、中断すること(ある事由により経過した期間が消えること)はなく、また、当事者の援用(この規定によって利益を受ける旨の意思表示)がなくても効果が生じる。
法律で期間が制限されている場合に、その制限された期間が除斥期間であるかどうかは、権利の性質や関係の実態に照らして個別に判断される(つまり、条文の書き方では判断できない)。例えば、占有を妨害されたときの妨害停止等の訴え(占有保持の訴え)の提起期間や、賃貸借契約において借主の契約に反した行為による損害賠償等を返還後に請求することのできる期間は、除斥期間であると考えられている。これらの場合には、それぞれの期間(いずれも1年とされている)を過ぎれば、提起や請求をする権利は消滅する。
水害保険
洪水、高潮、土砂崩れなどの水害による被災損失に対して補償する損害保険。火災保険の補償対象に含める形で設定されていて、例えば、「住宅総合保険」「オールリスクタイプの火災保険」などは水害も補償対象となっているが、「住宅火災保険」には水害に対する補償はない。
保険補償額は、全損であっても保険金額の7割を限度とし、床上浸水による一部損ではその被害の状況に応じて支払限度額が定められているのが一般的である。
なお、マンションの上層階では一般に水害保険は不要であるし、浸水が予想される地域では水害リスクが高いなど、保険の加入について選択が働きやすいこと、洪水等がいったん起きれば広い範囲で被災することから、水害保険の設計には難しい要素を伴うとされている。
水流に関するルール
土地の上を流れる水に関して、隣地との関係を定めたルール。民法の相隣関係として規定されている。
水流は土地に固着しないため、その特質に即した取り扱いが必要となるからである。
主なルールとして、
1)隣地から水が自然に流れてくるのを妨害してはならないこと
2)他の土地で水流の閉塞等が生じて自らの土地に損害が及ぶときには、その除去等を行なうことができまたは除去を請求できること
3)自らの土地において、隣地の岸辺・流路が変わるような行為をしてはならないこと
4)高地の所有者は、浸水や余水の排出のため、公共水流または下水道に至るまで低地に水を通過させることができること
5)堰を設ける場合には、対岸の他人所有地に付着させることができること
などが定められている。
なお、水利用に関する民法の規定は極めて簡素であって、その利用関係の調整は、河川法などによるほか、慣習による場合もある。
数量指示売買
数量を基礎にして価格が決定されている売買のこと。
1.数量指示売買の定義
数量指示売買とは、「当事者において売買の対象となる物が実際に持つ数量を確保するために、その一定の面積(容積、重量、員数、尺度なども)があるということが契約に表示され、かつ、この数量を基礎にして代金額が定められた売買」であるとされている(最高裁判決昭和43年8月20日)。
このように、ある売買契約が数量指示売買と認められるためには、「当事者の数量確保の意思」、「数量の表示」、「数量をもとにした代金額の決定」、という3要素が必要である。
2.数量指示売買で数量が不足したとき
数量が不足したとき、買主は、民法第565条による売主の担保責任を追及することができる。
これは、「数量の不足または物の一部滅失の場合における売り主の担保責任」と呼ばれる売主の責任である(民法第565条)。
具体的には、善意(数量の不足を知らなかった)の買主は、売主に対して、代金減額請求、契約解除、損害賠償請求ができる(ただし契約解除は、その残存数量であれば購入しなかったであろう場合にのみ認められる)。
つまり、数量指示売買で数量不足であれば、善意の買主は常に代金減額を請求でき、重大な数量不足ならば契約を解除でき、どちらのときでも損害賠償を請求できる。このように、善意の買主の権利が非常に強いということができる。
数量の不足または物の一部滅失の場合における売り主の担保責任
売買契約において、数量の不足または目的物の一部滅失がある場合に、売り主が負うべき契約不適合責任。
責任を負わせるには、買い主が、追完請求(不足数量の追加や滅失の補修の請求)、代金減額請求、損害賠償請求、解除権の行使をしなければならない。
これらの請求等を行なうためは、原則として契約不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知しなければならないとしている。ただし、売り主が不適合を知っていたときまたは重大な過失によって知らなかったときはその限りではないとされている。
なお、数量不足による契約不適合を主張するためには、売買契約が「数量指示売買」であることが必要とされている。数量指示売買とは、当事者が或る数量を確保するため契約において数量を表示し、この数量をもとに売買代金が定められた売買である。
数量の不足または物の一部滅失の場合における売り主の担保責任
売買契約において、数量の不足または目的物の一部滅失がある場合に、売り主が負うべき契約不適合責任。
責任を負わせるには、買い主が、追完請求(不足数量の追加や滅失の補修の請求)、代金減額請求、損害賠償請求、解除権の行使をしなければならない。
これらの請求等を行なうためは、原則として契約不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知しなければならないとしている。ただし、売り主が不適合を知っていたときまたは重大な過失によって知らなかったときはその限りではないとされている。
なお、数量不足による契約不適合を主張するためには、売買契約が「数量指示売買」であることが必要とされている。数量指示売買とは、当事者が或る数量を確保するため契約において数量を表示し、この数量をもとに売買代金が定められた売買である。
スタートアップオフィス
起業のための事務所。和製英語である。
初期費用が嵩まないことや、起業のために必要なサービスを手軽に利用できることが要件となる。設備機器などを備えたレンタルオフィス(rental office)である場合が多い。
また、資金援助、経営コンサルテーションなど新規事業の立ち上げを支援する機能を備えた施設を「インキュベーションオフィス」(インキュベーション(incubation)は「孵化」を意味する英語)をいうが、これもスタートアップオフィスである。
ステータス管理
取引などの進行状態を記録し、必要に応じて共有すること。一般的な用語であるが、不動産取引においては、レインズに登録された物件の状態を公開することをいう。
レインズのステータス管理は、物件の囲い込みを防止するなどのため、2017年1月に開始された。そこでは、専属専任媒介契約または専任媒介契約によって登録された売り物件について、その状態を、「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」に分けて表示することとされている。
「公開中」は原則として買い主の紹介を拒否しない、「書面による購入申込みあり」は文書(電子メール等も可)による買い受けの申込みが必要、「売り主都合で一時紹介停止中」は売り主の意向によって紹介を受け付けない、という状態を示している。
なお、ステータスの変遷(ステータス履歴)を公開するかどうかは、各不動産流通機構の判断に委ねることとなっている。
ストックビジネス
継続的に収入を得ることのできる事業手法。和製英語である。資産(ストック)が生む価値を源泉とする事業である。
ストックビジネスの典型は、不動産賃貸で、空室が生じない限り継続的に賃料収入を得ることができる。あるいは、装置型サービスの供給(電力業、通信業など)、長期融資、機器の保守、資格・基準の認証などは、料金や利子を継続的に得ることができ、ストックビジネスとして展開できる。
一般に安定的に営むことができるとされる一方、提供する価値に対する需要が持続する必要がある。また、サービスなどを提供し続ける責任を負わなければならない。
なお、ストックビジネスに対して、時々の取引に依存する事業手法を「フロービジネス」という。
制限能力者
行為能力を欠くために、単独で行なった法律行為を事後的に取り消すことが可能とされている者のこと。
具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人が制限能力者である。
制限能力者は、その保護者(法定代理人、成年後見人、保佐人、補助人)の同意がない場合には、有効に法律行為を行なうことができないとされている(同意を得ない法律行為は事後的に取り消すことが可能である)。
制限能力者の相手方の催告権
制限能力者と契約等をした相手方は、制限能力者またはその法定代理人・保佐人・補助人が、その契約等を取り消すかもしれないという不安定な立場に置かれる。
そこで民法第19条では、制限能力者と契約等をした相手方から、その法定代理人・保佐人・補助人等に対して、1ヵ月以上の期間内に、その契約等を追認するか否かを返答するように催告することができると定めた。
催告をする対象が、法定代理人・保佐人・補助人であるときは、期間内に返答がない場合には、その契約等を追認したものとみなされる(すなわち契約等の取消しができなくなる)。
また、制限能力者である被保佐人・被補助人に対して「保佐人・補助人の追認を得る」ように催告することもできるが、この場合には、期間内に返答がないならば、その契約等は取り消しされたものとみなされる。
なお、制限能力者である未成年者・成年被後見人に対して催告をすることはできない。
制限能力者の詐術
制限能力者が詐術(さじゅつ)を用いて、契約等の相手方に対して、自分が制限能力者ではないと誤信させたような場合には、制限能力者(およびその法定代理人・保佐人・補助人)は、その契約等を取り消すことができなくなる(民法第20条)。
これはそのような悪意のある制限能力者はもはや保護に値せず、誤信した相手方の取引の安全を保護すべきであるという趣旨である。
例えば、自分が制限能力者ではないことを証明する書類を偽造して契約の相手方に交付するというような積極的な手段を用いる場合はもちろん「詐術」に該当し、制限能力者側の取消権は消滅する。
また、自分には相当の資産があるから信用せよと語る場合のように、他の言動と相まって相手方の誤信を強めた場合も「詐術」に該当する。
これに対して、単に制限能力者であることを黙秘していたというだけでは「詐術」に該当しないので、制限能力者側の取消権は存続すると解されている。
なお、民法20条により制限能力者側の取消権が消滅するには、契約等の相手方が、制限能力者であるという事実に気付いていなかったことが必要である。
正当事由
土地・建物の賃貸借契約において、賃貸人が契約の更新を拒絶したり、解約の申し入れをする際に必要とされる「事由」をいう。
一般的に、賃貸借契約は、期間の満了や解約の申し入れによって特段の理由を必要とせずに終了するが、土地・建物の賃貸借については、賃借人保護のために、更新拒絶等に当たって「正当事由」を要するとされているのである(強行規定であり、これに反する契約条項は無効となる。1941(昭和16)年施行)。
何が正当事由となるかは、裁判での判断に委ねられていて、多数の判例があるが、規定の趣旨に照らせば、借地・借家人に有利になる傾向があるのは当然である。判例を受けて、現在の借地借家法では、正当事由は、貸主・借主が土地・建物の使用を必要とする事情、賃貸借に関する従前の経緯、土地・建物の利用状況、立退料の提供などを考慮して判断するとしている。
このように、正当事由がないと土地・建物の賃貸借を終了することができないという規定は、借地や貸家の供給を妨げかねないという意見も強く、最近、一定の要件に該当する場合には、契約の更新を認めないという特約を結ぶことも可能とするよう法律が改正された(土地については1992(平成4)年8月、建物については2000(平成12)年3月から施行)。そのような特約付きの賃借権が、定期借地・借家権等である。
成年
民法上、満20歳に達したことをいう。ただし、2022年4月1日からは「満18歳」に達したときに改正される。成年に達していないものを「未成年者」という。
成年に達するのは、20回目の誕生日の前日が終了した時点である(年齢計算に関する法律)。
成年に達すると、一人で有効な契約を締結することができ、親権に服することもなくなる。一方、成年年齢が満18歳に改正されたのちも、喫煙年齢、飲酒年齢などは満20歳のままである。
なお、2022年3月31日までは、満20歳に満たない者であっても、結婚をすることにより成年に達したものとみなされる(成年擬制)。
成年擬制
満20歳に満たない者が、結婚をすることにより、成年に達したものとみなすこと。民法上の制度であるが、2022年4月1日からは、民法改正によって成年年齢が18歳に引き下げられ、また、女性の婚姻開始年齢が18歳に引き上げられるため(男性は18歳のまま)、成年擬制の規定が削除され、この制度は消滅する。
成年後見人
成年被後見人を保護・支援するために、家庭裁判所が職権で選任する後見人のこと(民法843条)。成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、法律行為について成年被後見人を代理する権限を持つ(民法859条)。
成年後見人は、成年後見制度によって成年被後見人に付される法的な機関で、成年被後見人を代理して行う行為は広範である。ただし、成年被後見人が居住の用に供する建物・敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除等の処分を代理するときには、家庭裁判所の許可が必要である(民法859条の3)。
成年年齢
民法上、成年とされる年齢。従来「満20歳」とされていたが、2022年4月1日から年齢が引き下げられ、「満18歳」とされる。
なお、成年年齢が満18歳に引き下げられたのちも、喫煙年齢、飲酒年齢、勝馬投票券の購入年齢、国民年金の被保険者資格年齢、少年法の適用年齢などは、満20歳のままである。
成年被後見人
精神上の障害があるために、後見人を付けられた者のこと。
精神上の障害により物事を判断する能力が欠如した状態にある者について、家庭裁判所は、本人・配偶者・親族などの請求にもとづいて審判を行ない、「後見開始」の決定をし、「後見人」を職権で選任する(民法第7条、第843条)。
こうした手続きにより後見人を付けられた者のことを「成年被後見人」と呼ぶ。
また、成年被後見人に付けられる後見人は「成年後見人」と呼ばれる。この「成年被後見人」の制度は、2000(平成12)年の民法改正によって創設されたもので、それ以前は「禁治産者」という名称であった。
成年被後見人は法律行為を有効に行なうことができないものとされているので、どんな法律行為でも原則的に後で取り消すことが可能である(ただし日用品の購入などは有効に自分で行なうことができる)(民法第9条)。
従って、成年被後見人との契約を行なうには、その成年後見人を代理人として契約を行なうべきである(民法第859条)。
積算
工事に要する経費を見積もること。設計図書等に基づいて、施工に要する材料費、労務費、機械経費、工事管理費などを推計し、総額を算出する業務である。工事の請負価額は、通常、積算を基に、入札、相見積もり、協議などによって決定される。
積算のための費目や算定方法については、工事の種類に応じて標準化されている。しかしながら、積算価額は予測値であって、工事に要する実際の価額は、建築物等の品質、施工技術、工事条件などによって異なる。
設計事務所
建築の設計や工事監理を業として営むために設置する事務所。業務には建築士が従事する。法律上は「建築士事務所」とされ、その設置に当たっては都道府県知事の登録を受けなければならない。「建築事務所」も同義。
「設計事務所」「建築士事務所」「建築事務所」のような名称で設置される事務所は、一般に、設計・工事監理業務を専業で営んでいて、建築工事の施工は請け負わない。
なお、住宅の施工を主としつつ住宅の設計を兼業するハウスメーカーなども、法律上の建築士事務所を設置し登録しなければならないが、通常は、その事務所を設計事務所、建築事務所などと称することはない。
セットバック
2項道路(建築基準法第42条第2項の規定により道路であるものとみなされた幅4m未満の道のこと)に接する場合において、建物を建築・再建築する際、道路の中心線から2mとなるよう敷地の一部を後退させることをいう。
なお、セットバックした部分は道路とみなされ、建物を建築することはできない。
専属専任媒介契約
宅地または建物の売買または交換の媒介の契約(媒介契約)のうち、専任媒介契約であって、かつ依頼者は、依頼した宅地建物取引業者が探索した相手方以外の者と売買等の契約を締結することができない旨の特約が付いた契約をいう。
つまり、依頼者は取引の相手方を自分で発見しても、媒介を依頼した宅地建物取引業者の媒介なしには契約できないことになる。
専属専任媒介契約を締結した場合には、宅地建物取引業者は、契約の相手方を探索するため、5日以内に、媒介の目的物に関する事項を指定流通機構に登録しなければならないとされている。
専任取引士
「宅地建物取引士の設置義務」へ。
専任媒介契約
宅地または建物の売買または交換の媒介の契約(媒介契約)であって、媒介の依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買または交換の媒介または代理を依頼することを禁ずる媒介契約をいう。
この契約の有効期間は、3月を超えることができないとされている(契約期間の更新は可能)。
専任媒介契約を締結した場合には、宅地建物取引業者は、契約の相手方を探索するため、7日以内に、媒介の目的物に関する事項を指定流通機構に登録しなければならないとされている。
占有
自分が利益を受ける意思によって物を現実に支配している事実・状態をいう。
そして、占有によって「占有権」という法律上の権利が認められる。占有権は、物権の一つとされている。
占有権の法的な効果は、占有の形態などによって若干異なるが、一定の要件のもとでは、取得時効(占有の継続によって所有権を得る)、即時取得(占有されている動産を取引行為によって取得できる、不動産についてはこのような効果がないことに注意)、占有責任(不法行為などについて責任を負う)などが認められ、あるいは負わされる。
占有権
占有権とは、物を支配する権利のことである(民法第180条)。
土地の所有者は、その土地を所持しているので、占有権を有している。また土地の賃借人は、その土地を使用する権限があるので、やはり占有権を有している。
そうすると占有権という権利を考えなくても、所有権や土地賃借権だけに着目すればよいようにも考えられるが、あえて占有権という権利を想定するにはそれなりの理由がある。
例えば、ある人が土地を現実に支配し利用しているが、他の人がその土地の真実の所有者であると主張したような場合には、土地を現実に支配している人はまったくの無権利者である可能性があることになる。
こうした場合には、法律上、現実に支配している人をとりあえず保護することが必要となるので、現実に支配している人に「占有権」という権利があると考えるのである。
もちろん、民事裁判によって土地を現実に支配している人が無権利者であることが確定すれば、占有権は最終的には失われることになるが、裁判が確定するまでの間は占有権によって事実状態が保護されることになるのである。
なお、真実の権利者が長期間にわたって権利を主張せず、無権利者の占有状態が長期間継続した場合には、無権利者が土地の所有権を取得することが認められている。この制度を「所有権の取得時効」という。
占有屋
担保不動産が競売に付される際に不動産を占有し、担保価値を損なったり、競売を妨害して高額な立退料を要求する者をいう。
虚偽の賃貸借契約などによるケースが多く、権利なき占有は違法であるが、その排除には訴訟その他の労力を要する。
なお、抵当権の登記後なされた短期間賃借(住宅は3年間)を抵当権者から保護するための制度(短期賃貸借の保護の規定)があってこれを占有屋が悪用することが多かったため、2003年にその規定が廃止され(短期賃貸借保護制度の廃止参照)、代わりに、競売前からの占有者は競売落札時から6ヵ月に限って引渡しを要しないという規定(落札後の賃料を支払わないときには適用されない)が設けられた。
また、占有屋を排除する手続きを簡便にするため、占有者不明のまま明渡し命令をなすことも可能となった。
善管注意義務
取引上において一般的・客観的に要求される程度の注意をしなければならないという注意義務のこと。
すべての取引においてこの注意義務が要求されるものではなく、この注意義務が要求される取引の種類は限られている。
1.善管注意義務の意味
善管注意義務とは、正確には「善良なる管理者の注意義務」のことであり、民法第400条の条文に由来する。
民法第400条では、特定物(中古車・美術品・建物のようにその物の個性に着目して取引される物のこと)の引渡しの義務を負う者は、その引渡しが完了するまでは、その特定物を「善良なる管理者の注意義務」をもって保存しなければならない、と定めている。
この民法第400条の趣旨は、例えば美術品の売買契約が成立した場合に、契約成立後から美術品の引渡しまでの期間においては、美術品の売主は、一般的・客観的に要求される程度の注意義務(すなわち善管注意義務)をもって保管しておかなければならない、ということである。
従って、契約成立後から美術品の引渡しまでの期間に、何らかの事情で美術品が破損したとすると、売主が一般的・客観的に要求される程度の注意義務(善管注意義務)を果たしていたかどうかが問題となる。善管注意義務を果たしていたのであれば、売主には過失がないことになるので、売主には債務不履行責任(民法第415条の責任)は発生しないことになり、破損による損失は危険負担(民法第534条)として処理されることになる。
このように善管注意義務は、その義務を果たしていれば、債務者が責任を回避できるという点に実益がある。
2.善管注意義務が要求される場面
民法第400条では、特定物の引渡し前に善管注意義務が要求されると規定するが、これ以外にもさまざまな民法の条文で善管注意義務が要求されている。
具体的には、「留置権にもとづいて物を占有する者(民法第298条第1項)」「質権にもとづいて物を占有する者(民法第350条)」「委任契約の受任者(民法第644条)」などである。
3.善管注意義務よりも軽い注意義務
民法では、善管注意義務よりも軽い注意義務を要求する場合がいくつかある。
例えば、無報酬で物の保管を引き受けた者(受寄者という)は、その物の保管について「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」を負う(民法第659条)。
また、親権者は子の財産を管理するにあたっては、「自己のためにすると同一の注意をなす義務」を負う(民法第827条)。
このように「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」「自己のためにすると同一の注意をなす義務」と表現するのは、いずれも注意義務の程度が「善管注意義務」に比べて軽いということを意味している。
従って、例えば無報酬の受寄者が保管していた物を、その受寄者の不注意によって破損した場合には、受寄者の注意義務は軽いので、重大な不注意(すなわち重過失)があるときだけ、受寄者は損害賠償責任を負う。逆に、軽い不注意(すなわち軽過失)であるならば、受寄者は損害賠償責任を負わない。
全部事項証明書
不動産登記簿に記載されている総ての内容を表示し、それが真正であることを証明する書面。登記簿が登記用紙によって調整されていたときの登記簿謄本と同じである。誰でも登記所に申請して交付を受けることができる(オンラインで申請することも可能)。
全部事項証明書には過去の履歴(所有権の移転、抵当権の設定・抹消など)も含めた記載内容が総て表示されている。
なお、登記簿の記載内容を表示する書面には、全部事項証明書のほか、現在有効である内容のみを表示し証明する「現在事項証明書」、内容の表示のみで証明を欠く「登記事項要約書」などがある。
総合特別区域・総合特区
区域を指定して規制・制度の特例や税制・財政・金融措置を総合的に適用する制度、またはその制度によって指定された区域をいう。
この制度は、実現可能性のある区域を限定し、そこに国と地域の政策資源を集中して、規制・制度の特例と税制・財政・金融上の支援を総合的に実施することによって包括的・戦略的な政策課題の設定・解決を図ることが目的とされる。
総合特別区域には、国際戦略総合特区(経済成長を牽引する産業・機能の集積を形成)および地域活性化総合特区(地域資源を活用した地域力の向上)の2つのパターンがある。いずれも、
1.地方公共団体が地域協議会の協議等を経て指定を申請
2.内閣総理大臣が総合特別区域推進本部の意見を聴いて指定
3.総合特別区域計画の作成・認定(特例措置・支援措置の対象事業について記載)
という手順を経て実現する。
適用される特例・支援措置としては、
1.建築基準法の特例などの法律や政省令等の特例および条例委任の特例(規制・制度の特例)
2.国際競争力強化のための法人税の軽減等(税制上の支援)
3.各府省庁予算制度の重点的な活用等(金融上の支援)
4.総合特別区域支援利子補給金の支給(金融上の支援)
などがある。
相殺
2人の者が互いに相手に対して同種の債権を持っているとき、相手方への意思表示によってその債務を対当額で消滅させることをいう。
一方の財産状態が悪化した場合に、相殺の意思表示によって確実に債権を回収できる(自らの債務の範囲ではあるが)から、債権担保の機能も果たすとされる。
相殺ができるのは、1.同種の債権が債権者・債務者の間に相対立して存在し、2.双方の債権がともに弁済期にある(実際には、相殺しようとする者がその債務について期限の利益を放棄すれば、債権と弁済期を同じにできる)状態にある場合で、そのような状態にあることを「相殺適状」という。意思表示をすれば、双方の債務は相殺適状の時に遡って対当額で消滅する。
ただし、相殺禁止の特約があるときなど一定の場合には、相殺が許されない。
相続
死者の有した財産上の一切の権利義務を、特定の者が包括的に承継することをいう。
相続は、死亡のみによって、意思表示を要せず一方的に開始される。ただし、遺言により相続の財産処分について生前に意思を明らかにし、相続に反映させることができるが、この場合には、遺留分の制約がある。
財産の継承者(相続人)は、1.子・直系尊属・兄弟姉妹がこの順で先順位の者が(同順位者が複数あるときには共同して均等に)、2.配偶者は1.の者と同順位で常に、その地位を得る。子・兄弟姉妹の相続開始前の死亡や相続欠格等の場合には、その者の子が代わって相続人となる(代襲相続)。
また、相続人は、相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に、相続の承認、限定承認、相続放棄のいずれかの意思表示が必要である(意思表示がないときには相続の承認とみなされる)。
遺言の指定がないときの相続分(法定相続分)は、1)配偶者と子のときには、配偶者2分の1、子2分の1、2)配偶者と直系尊属のときには、配偶者3分の2、直系尊属3分の1、3)配偶者と兄弟姉妹のときは、配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1である。
なお、法定相続分は遺言がない場合の共同相続人の権利義務継承の割合を定めたもので、遺産分割は相続人の協議等によってこれと異なる割合で行なうことができる。
相続税
相続や遺贈によって取得した財産に対して賦課される税をいう。
この場合の財産には、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与により取得した財産を含む。
納税義務者は財産を取得した者であるが、税額の算定に際しては各種控除などが適用されるので、十分な注意が必要である。
一般的な相続税額の算出手順は次の通りである。
① 課税価格の算出
取得した財産の価額から、一定の生命保険金等の非課税財産の価額、小規模宅地に係る減額相当額などを減じ、相続時精算課税に係る贈与財産価額や3年以内の贈与財産の価額などを加算して、課税財産額を算出する。
② 相続税総額の算出
ア 課税遺産総額の算出:①で算出した課税価格から、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を減じる。
イ 法定相続人の取得金額の算出:アで算出した課税遺産総額を民法に定める法定相続分に従って取得したと仮定して、各法定相続人の取得金額を算出する。
ウ 法定相続分ごとの取得金額に応じた相続税額の算出:イで算出した金額に相続税率を乗じて算出する。税率は、取得金額に応じて、10%から55%まで累進的に定められている。
エ 相続税総額の確定:ウで算出した法的相続人ごとの相続税額を合計する。
③ 各人ごとの相続税額の算出
②エで確定した相続税総額を、各人の実際の相続割合に応じて按分し、相続税額を算出する。
各人ごとの相続税額=②エの価額×各人の相続割合
④ 各人の納付税額の算出
③の価額から、相続人の属性に応じて、配偶者税額軽減、未成年控除などの各種税額控除額を減じ、各人の納付税額を確定する。この場合、財産取得者が被相続人の配偶者、父母、子供以外の者である場合には、相続税額の20%相当額を加算して納付税額が算出されることに注意が必要である。
相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告納税しなければならない。
相続登記
相続の発生に伴って、土地建物の権利者(または権利の割合)が変わった場合に、その権利の変更を登記することを「相続登記」という。
相続登記をするには、法定相続分のままで登記する場合と、遺産分割協議で決定した内容に基づいて登記する場合がある。また、有効な遺言書が存在すれば、遺言書に従って相続登記することになる。
法定相続分のままで相続登記をし、その後に遺産分割協議が成立した場合は、その協議の決定内容に基づいて再度、相続登記を申請することになる。
双方代理(双方代理の禁止)
同一人が契約当事者双方のそれぞれの代理人となって代理行為をすること。双方代理は原則として禁止されているが、これに反した代理行為が無効となるわけではなく、無権代理として扱われ、当事者本人が追認すれば有効となる。
例えば、Bが売主Aと買主Cのそれぞれの代理人となって売買契約を成立させることは双方代理に当たる。また、この場合に、AまたはCがB自身である場合を自己契約といい、双方代理と同様に禁止されている。
なお、不動産の売買・賃貸借の契約を媒介する行為は、代理行為ではないとされているので、双方の当事者から同一人が媒介の依頼を受けても双方代理とはならない(もっとも、双方に同時に信義誠実を尽くすのは容易ではないであろう)。
双務契約
契約当事者の双方がお互いに対価性のある債務を負担する契約をいう。売買、賃貸借などの契約はこれに該当する。これに対して、贈与のような当事者の一方のみが債務を負担する契約を「片務契約」という。
双務契約においては、双方の債務履行が密接な関係にあるから、相手の給付があるまでは自分の債務を履行しないとの主張(同時履行の抗弁権)が認められているほか、一方の債務の消滅等において他方の債務をどうするか(危険負担)などが問題となる。
総有
ある財産が団体の所有となっており、その財産が団体によって強く拘束されている状態であることを「総有」という。
ある団体の財産が「総有」であるときは、各構成員はその団体財産について持分を持たない。従って、各構成員は団体財産に対して持分分割請求をすることができない。
また、各構成員が団体から脱退する際には、各構成員は持分の払い戻しを受けることができない。その反面、団体の債務については団体財産だけから弁済を行なえばよく、債権者は個々の構成員の個人財産から弁済を受けることはできないとされる。
社団法人の財産は社員の総有である。また、権利能力なき社団の財産も構成員の総有であるとされている(判例:最高裁昭和39年10月15日など)。
増価競売
抵当権が付着している不動産を、抵当権が付着した状態のままで取得した者(第三取得者という)は、いつ債権者の意向により任意競売(抵当権の実行)にかけられるかわからないという不安定な状態に置かれてしまう。そこで民法改正(2004年4月1日)より以前の旧民法第378条では「滌除(てきじょ)」という制度を設けていた。
この「滌除」では、第三取得者が自ら適当と認める金額を債権者に呈示して、債権者がそれを承諾すれば抵当権が消滅するが、債権者がそれを承諾しないときには債権者は必ず一定の金額以上で抵当不動産を任意競売にかけなければならないとされていた。この一定の金額以上での債権者による任意競売のことを「増価競売」という(改正前の民法第383条・第384条)。
増価競売では、第三取得者が呈示した金額の10分の1以上高価な価額で競売を申し立てなければならない。例えば、債権者Aが債務者Bに3,000万円を融資し、不動産Pに3,000万円の抵当権を付けたとする。その後、Bがこの不動産Pを500万円で第三者Cへ売却したとする。本来、この不動産Pの時価評価は3,500万円だが、3,000万円の抵当権が付着している分だけ売却価格が下げられているとする。
このとき第三取得者Cは、債権者Aに対して「Cが2,500万円をAに支払うので、これにより抵当権を消滅させる」旨を請求することができる(2,500万円という金額は例えとして挙げたもので、事情により幾らにするかは第三取得者が決めてよい)。
債権者が、この2,500万円の呈示に承諾しかねるときは、債権者は2,750万円の最低売却価額を設定して、抵当不動産を任意競売にかけなければならない。そして買受人が現れないときは、債権者自らが抵当不動産をその最低売却価額で買い受けなければならない。このような仕組みが「増価競売」である。
増価競売では、特に不動産の相場が下落している時期には、債権者(主に金融機関)にとって損失が発生する可能性があり、債権者にとって酷であると考えられてきた。そのため、2004年4月1日の民法改正により増価競売は廃止されている。なお、このとき滌除の制度そのものも大幅に改正され、抵当権消滅請求という名称になっている(詳しくは抵当権消滅請求へ)。
造作買取請求権
借家契約の終了の際、借家人が建物に付加した造作を家主に時価で買い取らせることのできる権利をいう。
造作とは、畳、建具、電気・水道施設などをいい、その付加について家主の同意を得ていることが必要である。
民法の原則では、賃貸借契約の終了時には賃借人が付加した造作を収去しなければならないとされているが、造作買取請求権は、借家契約における例外規定である。ただし、造作の買取り義務を負わないよう契約上特約することができる(任意規定である)。
なお、造作買取請求が正当で有効である場合に、家主が代金を支払わない間は、同時履行の抗弁権(双務契約において相手方が債務を履行するまでは自分の債務を履行しないと主張する権利)によって、家屋の明渡しを拒絶される恐れがある。
た行
タウンマネジメント
住民・事業主・地権者等が主体的にまちづくりに取り組む手法。
明確な定義はないが、まちづくりをテーマにしていること、ハードとソフトを組み合わせた取り組みであること、住民や事業主が主体となって進めることが特徴である。
取り組むテーマは、魅力に富む環境の創出、美しいまち並みの形成、歴史文化資産の保全、まちのブランド力の形成、安全・安心な地域づくり、良好なコミュニティの形成、地域の伝統・文化の継承など、さまざまである。
中心市街地活性化のために商業事業者を中心にTMO(Town Management Organization)を設立して活性化事業を推進する方法で始まったが、十分な成果を得ることができなかった。その後、その経験を踏まえて、活動領域を商店街振興からまちづくりに拡大し、幅広い市民の参加のもとで活動を展開する取り組みが見られるようになっていった。現在のタウンマネジメントは、このような動きと、従来から展開されていたNPO等を主体とするさまざまなまちづくり活動とを包含した手法である。
なお、類似の用語に「エリアマネジメント」があるが、ほぼ同じ意味である。
宅地建物取引業
宅地建物取引業とは「宅地建物の取引」を「業として行なう」ことである(法第2条第2号)。
ここで「宅地建物の取引」と「業として行なう」とは具体的には次の意味である。
1.「宅地建物の取引」とは次の1)および2)を指している。
1)宅地建物の売買・交換
2)宅地建物の売買・交換・賃借の媒介・代理
上記1.の1)では「宅地建物の貸借」が除外されている。このため、自ら貸主として賃貸ビル・賃貸マンション・アパート・土地・駐車場を不特定多数の者に反復継続的に貸す行為は、宅地建物取引業から除外されているので、宅地建物取引業の免許を取得する必要がない。
またここでいう「宅地」とは、宅地建物取引業法上の宅地を指す(詳しくは「宅地(宅地建物取引業法における~)」を参照のこと)。
2.「業として行なう」とは、宅地建物の取引を「社会通念上事業の遂行と見ることができる程度に行なう状態」を指す。具体的な判断基準は宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方の「第2条第2号関係」に記載されているが、主な考え方は次のとおりである。
1)取引の対象者
広く一般の者を対象に取引を行なおうとするものは事業性が高く、取引の当事者に特定の関係が認められるものは事業性が低い。
2)取引の反復継続性
反復継続的に取引を行なおうとするものは事業性が高く、1回限りの取引として行なおうとするものは事業性が低い。
宅地建物取引業協会・宅建協会
宅地建物取引業者が設立した業界団体の一つで、都道府県ごとに設立されている。
業界団体の設立は本来自由であるが、宅地建物取引業法は、宅地建物取引業の適正な運営の確保と健全な発達を図るため、宅地建物と取引者が各都道府県ごとに「宅地建物取引業協会」と称する社団法人を設立することができるとし、併せて全国を単位とする宅地建物取引業連合会および名称使用制限を設けている(同法74・75条)。
宅地建物取引業者
宅地建物取引業者とは、宅地建物取引業免許を受けて、宅地建物取引業を営む者のことである(宅地建物取引業法第2条第3号)。
宅地建物取引業者には、法人業者と個人業者がいる。
なお、宅地建物取引業を事実上営んでいる者であっても、宅地建物取引業免許を取得していない場合には、その者は宅地建物取引業者ではない(このような者は一般に「無免許業者」と呼ばれる)。
宅地建物取引業者名簿
宅地建物取引業者に関する一定の事項を登載した名簿のこと。
都道府県知事または国土交通大臣は、下記の1.から8.の事項を登載した宅地建物取引業者名簿を作成しなければならない(宅地建物取引業法第8条)(※末尾参照)。
1.免許証番号・免許を受けた年月日(法第8条第2項第1号)
2.商号または名称(法第8条第2項第2号)
3.事務所の名称と所在地(法第8条第2項第5号)
4.宅地建物取引業者が法人である場合には、その法人の役員の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第3号)
5.宅地建物取引業者が個人である場合には、その者の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第4号)
6.事務所に置かれる専任の宅地建物取引士の氏名(法第8条第2項第6号)
7.宅地建物取引業以外の事業を営んでいるときは、その事業の種類(施行規則第5条第2号)
8.過去に指示処分(法第65条第1項、第3項)または業務停止処分(法第65条第2項、第4項)を受けた場合には、その内容および処分の年月日(施行規則第5条第1号)
上記2.から7.までは免許申請書の記載事項(法第4条第1項)と同じである。
また上記2.から6.に関して変更があったときは、宅地建物取引業者は免許権者である知事または大臣に対して、宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出(法第9条)を行なう必要がある。
※宅地建物取引業者が、不動産投資信託等に関して取引一任代理等の認可を国土交通大臣から得ている場合にはその旨も宅地建物取引業者名簿に登載される(法第50条の2、法第8条第2項第7号)。
大臣と知事では、宅地建物取引業者名簿を作成する範囲が異なっている。
国土交通大臣は、国土交通大臣が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿のみを作成する。
各都道府県知事は、その都道府県知事が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿と、その都道府県内に本店を置く国土交通大臣が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿を作成する(法第8条第2項本文)。
宅地建物取引業者名簿等の閲覧
宅地建物取引業法では、都道府県知事または国土交通大臣は、宅地建物取引業者名簿などの一定の書類を広く一般の閲覧に供しなければならないと定めている(宅地建物取引業法第10条)。
これは、宅地建物取引業者の業歴、信用状況、行政処分歴などを公開することにより、宅地建物の取引の円滑化を図る制度であるということができる。具体的には次のとおり。
1.閲覧できる書類の範囲
次のように広い範囲の書類が閲覧対象とされている(法第10条)
1)宅地建物取引業者名簿
2)免許申請書
3)免許申請書の添付書類
4)宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出に係る書類
上記1)には指示処分、業務停止処分の履歴が登載されており、行政処分歴が把握できる。
また上記3)には、貸借対照表および損益計算書(施行規則第1条の2第6号)、資産に関する調書 (施行規則第1条の2第7号)などの財務書類が含まれており、信用状況の把握に役立つ。
2.閲覧の方法
誰でも閲覧できることとされている。具体的な閲覧の方法は、閲覧場所ごとに閲覧規則を定めて規定している(施行規則第5条の2)。これにより閲覧可能な時間帯、閲覧申請書の記入方法などが個別に定められている。
3.閲覧場所
宅地建物取引業者が都道府県知事から免許を受けた場合(知事免許)は次の1)の場所で、国土交通大臣から免許を受けた場合(大臣免許)は次の2)の場所で、それぞれ閲覧できる。
1)知事免許の場合
各都道府県の宅地建物取引業を所管する部署において、上記1.の書類が閲覧できる。
例えば、東京都知事免許の宅地建物取引業者であれば、東京都庁の宅地建物取引業所管課で上記1.の書類が閲覧できる。
2)大臣免許の場合
この場合には次の2ヵ所で上記1.の書類が閲覧できる。
a)その宅地建物取引業者の本店の所在地を管轄する都道府県の宅地建物取引業所管課
b)全国の国土交通省地方整備局の宅地建物取引業所管課(注)
例えば、大阪府に本店・東京都に支店を置く大臣免許の宅地建物取引業者であれば、大阪府庁および全国の地方整備局において上記1.の書類が閲覧できることになる。
(ただ、し支店所在地である東京都庁では閲覧できないことに注意)
(注)地方整備局とは、「北海道開発局」「東北地方整備局」「関東地方整備局」「北陸地方整備局」「中部地方整備局」「近畿地方整備局」「中国地方整備局」「四国地方整備局」「九州地方整備局」「沖縄総合事務局」のこと。
宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出
都道府県知事または国土交通大臣は一定の事項を登載した宅地建物取引業者名簿を作成するが、この名簿の登載事項のうち一部の登載事項について変更があったときは、宅地建物取引業者は30日以内に変更の届出を行なう義務を負う。
具体的には次のとおり。
1.変更の届出を行なうべき事項
次の1)から5)の事項に変更が生じたとき、宅地建物取引業者は変更の届出を行なう必要がある(法第9条)(※参照)。
1)商号または名称(法第8条第2項第2号)
2)事務所の名称と所在地(法第8条第2項第5号)
3)宅地建物取引業者が法人である場合には、その法人の役員の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第3号)
4)宅地建物取引業者が個人である場合には、その者の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第4号)
5)事務所に置かれる専任の宅地建物取引士の氏名(法第8条第2項第6号)
※●宅地建物取引業以外の事業を営んでいるとき、その兼業している事業の種類(施行規則第5条第2号)については、変更の届出を行なう義務がない。
●役員・事務所の代表者・専任の宅地建物取引士の氏名の変更があったときは届出の必要があるが、住所の変更があったときは届出の必要がない。
●事務所の新設・移転・廃止は、「事務所の名称、所在地」の変更(法第8条第2項第5号)に該当するので、新設・移転・廃止を行なってから30日以内に届出が必要である。
●法人の場合、資本金の額や定款は、そもそも宅地建物取引業者名簿の登載事項ではない。従って資本金の額の変更や定款変更は、届出が不要である。
2.届出期間・届出の相手方
変更が生じてから30日以内に、免許権者(知事免許ならばその知事、大臣免許ならば国土交通大臣)に対して、宅地建物取引業者名簿登載事項変更届出書(施行規則様式第3号)を提出しなければならない(施行規則第5条の3第1項)。
この際に、役員・事務所の代表者・専任の宅地建物取引士の増員・交代については、成年被後見人および被保佐人に該当しない旨の登記事項証明書を提出するなど、さまざまな添付書類が必要となる場合がある(施行規則第5条の3第2項)。
宅地建物取引業初任従業者教育研修
(公財)不動産流通推進センター等が実施する従業者向けの研修のこと。宅地建物取引業務に必要な法律、制度等を実務に即して基礎から体系的に習得するためもので、受講資格要件はない。
講座内容は、3ヵ月間の通信講座と2日間のスクーリングのいずれか一方を選んで受講するというものである。
宅地建物取引業法
宅地建物取引の営業に関して、免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を定めた法律。1952年に制定された。
この法律に定められている主な内容は、宅地建物取引を営業する者に対する免許制度のほか、宅地建物取引士制度、営業保証金制度、業務を実施する場合の禁止・遵守事項などである。これによって、宅地建物取引業務の適正な運営、宅地および建物の取引の公正の確保および宅地建物取引業の健全な発達の促進を図ることとされている。
宅地建物取引業法施行規則第15条の5の2で定める場所
事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所へ。
宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
宅地建物取引業法の解釈・運用に関して、国が定めた包括的なガイドラインのこと。
従来、宅地建物取引業法の解釈・運用については、国(旧建設省)が通達・行政実例により詳細かつ統一的な基準を定めてきたが、2000(平成12)年4月1日付けで「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)が施行されたことにより、宅地建物取引業に係る事務は都道府県の自治事務等となった。
このため、2000(平成12)年4月1日をもって従来旧建設省から各都道府県に発出された宅地建物取引業法に関する通達等は一律廃止された。
しかし、これでは宅地建物取引業法の解釈・運用が国民から見て極めてわかりにくくなると考えられたので、2000(平成12)年7月25日付で建設省不動産業課(現・国土交通省総合政策局不動産業課)において「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を策定し、各都道府県に参考通知したものである。
なお、宅地建物取引業法等に改正があったときは、この「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」もその都度改正され、各都道府県に参考通知されている。
宅地建物取引業保証協会
宅地建物取引業により生じた債権の弁済(弁済業務)、債務の連帯保証(一般保証業務)、苦情の解決、研修などを行なう社団法人(現在は、公益社団法人または一般社団法人)で、国土交通大臣の指定したものをいう。
その社員は、営業保証金の供託を必要としないかわりに、弁済業務保証金分担金(主たる事務所につき60万円、その他の事務所につき事務所ごとに30万円)を納付しなければならない。
現在指定を受けているのは、(公社)全国宅地建物取引業保証協会および(公社)不動産保証協会の2つの団体である。
宅地建物取引士
宅地建物取引士資格試験に合格し、都道府県知事の登録を受けて、宅地建物取引士証の交付を受けた者のこと。
宅地建物取引士は、一定以上の知識・経験を持つ者として公的に認められた者である。宅地建物取引業者は、事務所ごとに従事者5名に対して1名以上の割合で、専任の宅地建物取引士を置かなければならない(詳しくは宅地建物取引士の設置義務へ)。
宅地建物取引において特に重要な次の3つの業務は、宅地建物取引士だけが行なうことができるとされている(宅地建物取引士ではない者はこれらの業務を行なうことができない)。
1.重要事項説明
2.重要事項説明書への記名・押印
3.37条書面への記名・押印
宅地建物取引士となるためには、具体的には次の1)から5)の条件を満たす必要がある。
1)宅地建物取引士資格試験に合格すること
宅地建物取引業に関して必要な知識に関する資格試験である宅地建物取引士資格試験に合格することが必要である。なお、一定の要件を満たす者については宅地建物取引士資格試験の一部免除の制度がある。
2)都道府県知事に登録を申請すること
この場合、宅地建物取引に関して2年以上の実務経験を有しない者であるときは、「登録実務講習」を受講し修了する必要がある。
3)都道府県知事の登録を受けること
登録を受けるには一定の欠格事由に該当しないことが必要である。
4)宅地建物取引士証の交付を申請すること
宅地建物取引士証の交付を申請する日が宅地建物取引士資格試験に合格した日から1年を超えている場合には、都道府県知事の定める「法定講習」を受講する義務がある。
5)宅地建物取引士証の交付を受けること
氏名、住所、生年月日、有効期間の満了する日等が記載されている宅地建物取引士証の交付を受けて初めて正式に宅地建物取引士となる。
宅地建物取引士は、宅地建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護および円滑な宅地建物の流通に資するよう公正誠実に業務を処理するほか、信用・品位を害するような行為をしないこと、必要な知識・能力の維持向上に努めることとされている。
宅地建物取引士資格試験の一部免除
宅地建物取引士資格試験は、宅地建物取引業法第16条にもとづき、都道府県知事が実施する資格試験である。この試験で、一定の講習(「登録講習」)を受けた者については、試験の一部を免除する制度が設けられている(宅地建物取引業法第16条第3項)。
これを宅地建物取引士資格試験の一部免除と呼んでいる。
一部免除を受けるために必要となる「登録講習」は(公財)不動産流通推進センターをはじめとする複数の登録講習機関が実施している。
「登録講習」を受講するためには、宅地建物取引業に従事していることが要件となっている(2004(平成16)年までの「指定講習」を受講するためには「通算して3年以上の宅地建物取引業務に関する実務経験を有すること」が必要だったが、2005(平成17)年からは宅地建物取引業に従事しているだけで受講できることになった)。
「登録講習」は通信講座およびスクーリングから成り立っている。
スクーリングの最終日に登録講習修了試験が実施され、この試験に合格すると「登録講習修了者証明書」が交付される。この証明書によって、証明書の公布日から3年以内に実施される宅地建物取引士資格試験の一部免除の適用を受けることができる。
なお一部免除を受ける者(即ち証明書の交付を受けた者)については次の要領で試験が実施される。
1.試験時間は1時間50分(通常の受験者より10分短い)
2.5問免除される結果、45問4肢択一の試験問題
3.上記の2.の45問は、通常の受験者と同一の問題である
4.免除される5問の範囲は「宅地及び建物の需給に関する法令および実務に関すること」および「土地の形質、地積、地目および種別並びに建物の形質、構造および種別に関すること」である。過去の出題から分析すれば、具体的には「統計・景品表示・住宅金融公庫・土地・建物」が免除されるという意味である(宅地建物取引業法施行規則第10条の5、同施行規則第8条第1号および第5号)。
5.合格点は通常の受験者と同一である。例えば、その年の通常の受験者の合格点が33点であるときは、指定講習修了者は45問中28問に正解すれば合格することとなる。
宅地建物取引士資格試験の試験内容
宅地建物取引士資格試験は、4肢択一式の50問(50点満点)が出題される。
実施年によって多少の変化があるが、おおむね次のような科目構成となっている。
1.権利の変動(民法など)…15問
2.法令上の制限(行政法規)…10問
3.宅地建物取引業法…16問
4.税法…3問
5.その他…6問
合格ラインは全国一律で、実施年ごとに異なるが、50問中、32~34問以上正解とされることが多い。毎年、試験実施後に公開されている。
宅地建物取引士証
都道府県知事の行なう宅地建物取引士資格試験に合格し、都道府県知事の登録を受けた者は、登録をしている都道府県知事に対して申請することにより、宅地建物取引士証の交付を受けることができる(宅地建物取引業法第22条の2)。
宅地建物取引士証は顔写真付のカードであり、氏名、住所、生年月日、有効期間の満了する日等が記載されている。
有効期間は5年であり、申請により更新することができる(宅地建物取引業法第22条の3)。
取引士証の交付を受ける際に、取引士証の交付を申請する日が宅地建物取引士資格試験に合格した日から1年を超えている場合には、「法定講習」を受講する義務が生じるので注意が必要である(宅地建物取引業法第22条の2第2項)。
宅地建物取引士証の提示義務
宅地建物取引士は、不動産取引の当事者から請求があったときは、宅地建物取引士証を必ず提示しなければならない(宅地建物取引業法第22条の4)。
また、宅地建物取引士は、不動産取引の当事者に重要事項説明を行なう際には、説明の相手方に対して、宅地建物取引士証を必ず提示しなければならない(宅地建物取引業法第35条)。
宅地建物取引士の設置義務
宅地建物取引業者が、その事務所等に、「成年の専任の宅地建物取引士」を置かなければならないという義務のこと。
1.取引士を置くべき場所と人数
最低設置人数は、その場所の種類で異なることとされており、具体的には次のとおり。
1)「事務所」に設置すべき成年の専任の宅地建物取引士の最低設置人数は、事務所の「業務に従事する者」(以下「従事者」という)の数の5分の1以上である。
例えば、事務所における従事者が11人ならば、その5分の1は2.2人であるので、成年の専任の宅地建物取引士を3人(またはそれ以上)置かなければならない。
なお従事者の範囲については、詳細なガイドラインが設けられている(別項目の「従事者」を参照のこと)。
2)「事務所以外で専任の宅地建物取引士を置くべき場所」に設置すべき成年の専任の宅地建物取引士の最低設置人数は、その場所の従事者の人数に関係なく、1名以上である。
2.置くべき取引士の要件
上述の1.において置くべき宅地建物取引士は「成年」かつ「専任」でなければならないとされている。
ここで「専任」とは、国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方によれば、原則として、宅地建物取引業を営む事務所に常勤(宅地建物取引業者の通常の勤務時間を勤務することをいう)して、専ら宅地建物取引業に従事する状態をいうと解説されている。
ただし、当該事務所が宅地建物取引業以外の業種を兼業している場合等で、当該事務所において一時的に宅地建物取引業の業務が行なわれていない間に他の業種に係る業務に従事することは差し支えないものと解説されている。
また、「成年」とは満20歳に達したことをいうが、民法第753条により未成年でもいったん結婚すると成年に達したものとみなされる(詳しくは別項目の「成年」へ)。
3.置くべき取引士の要件に関する特例措置
役員(個人業者の場合には業者本人)が、宅地建物取引士であるときは、その者が「成年の専任の宅地建物取引士」とみなされるという特例措置が設けられている。
従って、例えば、ある宅地建物取引業者において、18歳の役員である宅地建物取引士(婚姻はしていない者)がいて、主として専らある事務所の業務に従事している場合には、その役員がその事務所の「成年の専任の宅地建物取引士」とみなされることになる。
なお、ここでいう「役員」とは、取締役よりも広い範囲を指している。具体的には「役員とは、業務を執行する社員、取締役、執行役、またはこれらに準ずる者」とされている。ちなみに監査役はここでいう「役員」から除外されている。
4.設置義務違反の是正措置
上述の1.の最低設置人数に違反する状態になった場合には、宅地建物取引業者は早急に是正しなければならない。
具体的には、既存の事務所等がこの成年の専任取引士の設置義務に違反する状態となったときは、2週間以内に設置義務を満たす必要があるとされている。
宅地建物取引士の登録
宅地建物取引士資格試験に合格した者が、宅地建物取引士として業務に従事するのにふさわしい資格等を有していることを都道府県知事が確認する手続きのこと(宅地建物取引業法第18条、第19条)。具体的には次のとおりである。
1.登録を申請する相手方
宅地建物取引士資格試験に合格した者が、試験を行なった都道府県知事に対して登録を申請する(宅地建物取引業に従事しようとする都道府県の知事ではないことに注意)。
2.登録を受けるための要件
宅地建物取引士の登録を受けるには次の1)と2)の要件を満たすことが必要である。
1)宅地建物の取引に関して2年以上の実務経験を有すること
宅地建物取引業者の下で2年以上勤務していた経験(または免許を受けた宅地建物取引業者としての2年以上の経験)が必要である。
ただし、(公財)不動産流通推進センターが実施する実務講習を受講し修了することにより、この実務経験を有するものと同等以上の能力を持つ者として認定されることができる。
(詳しくは、実務経験、実務講習へ)
2)一定の不適格な事情(欠格事由)に該当しないこと
成年被後見人であることなどの一定の不適格な事情(欠格事由)がある者は、登録を受けることができないとされている。
(詳しくは宅地建物取引士の登録の基準へ)
3.登録の申請の方法
宅地建物取引士資格試験に合格した者が、試験を行なった都道府県知事に対して、一定の事項を記載した登録申請書を提出する(法第19条第1項、施行規則第14条の3、施行規則様式第5号)。このとき実務経験証明書などの一定の書類の添付が必要である(施行規則第14条の3)。
4.宅地建物取引士資格登録簿への登載
登録申請書を提出された都道府県知事は、上記2.の要件を満たしていることを確認した後に、宅地建物取引士資格登録簿に一定の事項を遅滞なく登載する(法第19条第2項)。
これにより宅地建物取引士の登録が完了する。
(詳しくは宅地建物取引士資格登録簿へ)
5.変更の登録
宅地建物取引士資格登録簿の登載事項(氏名、住所など)に変更が生じた場合には、登録を受けている本人が遅滞なく変更を申請しなければならない(法第20条)。これを「変更の登録」と呼んでいる。
(詳しくは変更の登録(宅地建物取引士の~)へ)
6.登録の移転
宅地建物取引士の登録を受けた者は、一定の事情が発生したときは、他の都道府県知事に対して登録の移転を申請することが可能である。
(詳しくは宅地建物取引士の登録の移転へ)
7.死亡等の届出
宅地建物取引士の登録を受けた者について、死亡等の事情が発生した場合には、登録を受けている都道府県知事への届出が必要である。
(詳しくは死亡等の届出へ)
8.登録の消除
上記7.の死亡等の届出があった場合やその他の場合には、登録を受けている都道府県知事は、宅地建物取引士の登録を消除しなければならない。
(詳しくは宅地建物取引士の登録の消除へ)
9.登録の有効期間
有効期間の制限はないので、一度登録すれば生涯にわたって有効である。ただし、上記8.により消除される場合あり。
10.宅地建物取引士との関係
宅地建物取引士の登録を受けた者は、宅地建物取引士証の交付を受けることによって、初めて宅地建物取引士となることができる(宅地建物取引士の登録を受けただけでは、まだ宅地建物取引士ではない)。
宅地建物取引士の登録の移転
宅地建物取引士の登録を受けている者は、登録をしている都道府県以外の都道府県に所在する宅地建物取引業者の事務所において、業務に従事する(または業務に従事しようとする)ときは、登録を移転することができる。
宅地建物取引士の登録は、試験を行なった都道府県知事から登録を受けることとされている。しかし、宅地建物取引士の登録を終えた後に、他の都道府県内の事務所で勤務する(または勤務する予定の)場合には、登録を移転することが可能とされている(宅地建物取引業法第19条の2)。具体的には次のとおり。
1.登録を移転できる場合
登録をしている都道府県以外の都道府県に所在する事務所において、業務に従事する(または業務に従事しようとするとき)ことが必要である。
例えば東京都知事の登録を受けている者が、大阪府知事免許の宅地建物取引業者に勤務する(または勤務しようとする)場合には、登録の移転を申請して、大阪府知事の登録を受けることができる。また、東京都知事の登録を受けている者が、国土交通大臣免許の宅地建物取引業者(本店は大阪府、支店が兵庫県と京都府)の兵庫県の支店に勤務する場合には、登録の移転を申請して、兵庫県知事の登録を受けることができる。
登録の移転をするには、勤務する(または勤務する予定の)事務所が登録を受けた都道府県以外にあることが必要である。従って、住所を変更したが、勤務地は登録を受けた都道府県のままであるという場合には、登録の移転はできない。
ちなみに登録の移転は任意であるので、他の都道府県の事務所に勤務するときは必ず登録を移転しなければならないということではない。
2.登録を移転する方法
登録を受けている本人が、自分が勤務する(または自分が勤務する予定の)事務所を管轄する都道府県知事に対して、登録の移転を申請する。ただし実際の手続きとしては、現に登録を受けている都道府県知事を経由して登録の移転を申請する。
例えば、東京都知事の登録を受けている者が、大阪府知事免許の宅地建物取引業者に勤務する予定である場合には、大阪府知事に対して登録の移転を申請する(実際には東京都知事に登録移転申請書を提出する。ただし登録移転申請書の冒頭に記載する宛先は大阪府知事とする)。
3.提出する書類
登録移転申請書(施行規則様式第6号の2)に必要事項を記載して提出する(施行規則第14条の5)。
4.登録の移転が禁止される場合
宅地建物取引士としてすべき事務の禁止の処分を受けている場合(法第68条第2項、第4項)には、事務の禁止の期間が終了するまでは、登録の移転をすることができない(法第19条の2但書)。
宅地建物取引士の登録の基準
宅地建物取引士資格試験の合格者が、宅地建物取引士の登録を受けるにあたって満たすべき基準のこと。
宅地建物取引士資格試験の合格者が、宅地建物取引士の登録を受けるためには、一定の不適格な事情(登録の欠格事由)に該当しないことが必要とされている(法第18条第1項各号)。
具体的には、次の1.から5.の欠格事由に該当しない場合にのみ登録を受けることができる。
1.成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない者(法第18条第1項第2号、第3号)
これらの者は登録を受けることができない。
2.免許取消し処分を受けた宅地建物取引業者等
悪質な違反行為(法第66条第1項第8号、第9号)を犯したことを理由として、免許の取消処分を受けた個人業者、免許の取消処分を受けた法人の役員は、当該免許の取消処分の日から5年間は、宅地建物取引士の登録を受けることができない(法第18条第1項第4号)。
このほか、役員の連座(第4号の2)、免許取消し処分を不当にまぬがれるための廃業等(第4号の3)についても詳細な規定が設けられている。
3.懲役刑、禁固刑、一定の罪に対する罰金刑を受けた者
一定の刑事罰を受けた経歴がある場合には、刑の執行を終えた日(または刑の執行を受けることがなくなった日)から5年間は、登録を受けることができない(法第18条第1項第5号、第5号の2)。
4.登録消除処分を受けた者等
一定の悪質な違反行為(法第68条の2第2号、第3号、第4号など)を犯したことを理由として、登録の消除の処分を受けた個人は、当該登録の消除の処分の日から5年間は、宅地建物取引士の登録を受けることができない(法第18条第1項第6号)。
このほか、登録消除処分を不当にまぬがれる目的で登録の消除を申請した場合(第7号)、事務禁止処分の期間中に登録の消除を申請した場合(第8号)などに関する詳細な定めがある。
5.営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者(法第18条第1項第1号)
未成年者が登録を受けるためには「宅地建物取引業の営業に関して成年者と同一の能力を有すること」が必要とされる。
「成年者と同一の能力を有する」とは、「法定代理人より営業を許可されていること」または「婚姻により成年と同一の能力を獲得していること」を指している。
(詳しくは未成年者へ)
宅地建物取引士の登録の消除
宅地建物取引士の登録を受けている者について一定の事情が発生した場合に、都道府県知事が宅地建物取引士の登録を消除すること。
宅地建物取引士資格試験の合格者が、宅地建物取引士として業務に従事するためには、その前提条件として都道府県知事より宅地建物取引士の登録を受けることが必要である(宅地建物取引業法第22条の2第1項、第18条第1項)。この登録を受けた場合には、氏名、住所等の一定の事項が宅地建物取引士資格登録簿に登載される(法第18条第2項)。
このような宅地建物取引士の登録を受けた者について一定の事情が発生した場合には、届出により、または知事の職権により、宅地建物取引士の登録が消除される(法第22条、法第68条の2)。その場合には、再び登録を受けない限り、宅地建物取引士として業務に従事することはできない(法第22条の2により、登録がない者は宅地建物取引士証の交付を受けることができないため)。
登録が消除されるのは次の場合である。
1.本人から登録の消除の申請があったとき(法第22条第1号)
宅地建物取引士の登録は一度登録すれば生涯にわたり有効であるが、本人の意思により登録を消除することも可能である。
2.法第21条の届出(死亡等の届出)があったとき(法第22条第2号)
死亡等の届出が提出された場合、知事はその届出に基づいて登録を消除しなければならない(詳しくは死亡等の届出へ)。
3.死亡したとき
死亡の事実が判明したときは、都道府県知事は職権により登録を消除しなければならない。
本来は、相続人が上記2.の「死亡等の届出」(法第21条)を提出すべきであるが、この届出がない場合であっても、知事は職権により登録を消除しなければならない(法第22条第3号)。
4.死亡以外の理由で、法第21条の届出(死亡等の届出)を提出すべき事由が発生したとき(法第22条第3号、法第68条の2第1項第1号、法第68条の2第2項第1号)
死亡以外の理由で「死亡等の届出」を提出すべき事由が発生した場合(すなわち法第18条第1項第1号から第5号の2までの登録の欠格事由が生じた場合)については、上記3.と同様の扱いである。
従って、知事に対してその旨の届出が提出されないときでも、知事は職権により登録を消除しなければならない。
(登録の欠格事由について詳しくは宅地建物取引士の登録の基準へ)
5.宅地建物取引士資格試験の合格が取消されたとき(法第22条第4号、法第17条第1項、第2項)
6.不正の手段により宅地建物取引士の登録を受けたとき(法第68条の2第1項第2号、第2項第2号)
7.不正の手段により宅地建物取引士証の交付を受けたとき(法第68条の2第1項第3号)
8.法第68条第1項各号の事由(指示処分の対象となる事由)に違反し、特に情状が重いとき(法第68条の2第1項第4号)
9.法第68条第2項・第4項にもとづく事務の禁止の処分を受けて、その事務の禁止の処分に違反したとき(法第68条の2第1項第4号)
10.宅地建物取引士証の交付を受けていない者が、宅地建物取引士としてすべき事務を行ない、情状が特に重いとき(法第68条の2第2項第3号)
上記5.から10.までの場合には、知事は職権により登録を消除しなければならない。
また上記6.から10.までは、宅地建物取引士としての不正行為・不当行為(法第68条第1項第2号、第3号、第4号)などがあったことに由来する知事の監督処分である。このような意味で、6.から10.までの登録消除を、特に「登録消除処分」と呼ぶことがある。
宅地建物取引主任者
「宅地建物取引士」の従前の名称。平成27(2015)年4月1日に改称された。
宅地建物取引士資格試験
宅地建物取引業法第16条第1項にもとづき、都道府県知事が実施する資格試験。宅地建物取引業に関して必要な知識について行なわれる試験である。
年齢、学歴、宅地建物取引業に関する実務経験などによる受験資格の制限は一切ないので、誰でも受験することができる(ただし試験を受けようとする都道府県内に居住していることが条件となっている場合が多い)。
なお、一定の実務経験を有し、登録講習機関が実施する講習(登録講習)を受けた者については、試験の一部を免除する制度が設けられている(宅地建物取引業法第16条第3項)。
宅地建物取引士資格登録簿
宅地建物取引士の登録を受けた者に関して、都道府県知事が作成した登録簿のこと。
宅地建物取引士となるためには、その前提として、宅地建物取引士の登録を受けることが必要とされている(宅地建物取引業法第18条第1項)。
この宅地建物取引士の登録を受けた者について、都道府県知事が作成した登録簿が宅地建物取引士資格登録簿である(宅地建物取引士資格登録簿の様式は施行規則様式第4号に規定されている)。
1.宅地建物取引士資格登録簿の登載事項
宅地建物取引士資格登録簿には、宅地建物取引士の登録を受けた者に関する次の事項が登載される(法第18条第2項、施行規則第14条の2)。
1)氏名
2)生年月日
3)住所
4)本籍(日本の国籍を有しない場合は、その者の国籍)
5)性別
6)試験の合格年月日および合格証書番号
7)実務経験を有する者である場合は、登録申請時現在の実務経験の期間、その内容、従事していた宅地建物取引業者の商号(または名称)と免許証番号
8)実務講習の修了者である場合は、修了認定の年月日
9)宅地建物取引業者の業務に従事している場合は、当該宅地建物取引業者の商号(または名称)および免許証番号
2.宅地建物取引士資格登録簿の登載事項の変更
登録簿に登載された上記1から9の事項について変更が生じた場合には、登録を受けた者は遅滞なく変更登録申請書を提出しなければならない(法第20条、施行規則第14条の7、施行規則様式第7号)。これを「変更の登録」と呼んでいる。
具体的には、下記の4つの事項について変更が生じれば、変更登録申請書を遅滞なく提出する必要が生じることになる
1)氏名
2)住所
3)本籍
4)宅地建物取引業者の業務に従事している場合は、当該宅地建物取引業者の商号(または名称)および免許証番号
宅地・宅地建物取引業法におけるとは
宅地建物取引業法では、宅地の定義を次のように定めている(宅地建物取引業法第2条第1号、施行令第1条)。
1.用途地域内の土地について
都市計画法で定める12種類の用途地域内に存在する土地は、どのような目的で取引する場合であろうと、すべて宅地建物取引業法上の「宅地」である。
従って、例えば用途地域内に存在する農地を、農地として利用する目的で売却する場合であっても、宅地建物取引業法では「宅地」として取り扱う。
2.用途地域内の道路・公園・河川・広場・水路の用地について
用途地域内の土地のうちで、5種類の公共施設の用に供されている土地については、「宅地」から除外する。具体的には、道路・公園・河川・広場・水路という5種類の公共施設の用地は「宅地」から除外される(ただし下記の補足1を参照のこと)。
3.建物の敷地に供する目的で取引の対象とされた土地について
建物の敷地に供する目的で取引の対象とされた土地は、土地の原状の用途に関係なく、すべて宅地建物取引業法上の「宅地」である。
従って、例えば土地登記簿上の地目が「田」「畑」「池沼」「山林」「原野」である土地であっても、その土地を、建物の敷地に供する目的で取引するならば、宅地建物取引業法上はすべて「宅地」として取り扱われる。
これについては、土地の所在がどこであろうと適用される判断基準である。従って、都市計画区域外の山林や原野を、建物の敷地に供する目的で取引する場合には、その山林や原野は「宅地」として取り扱われる。
(補足1)用途地域内の道路・公園・河川・広場・水路の用地を、建物の敷地に供する目的で取引の対象とする場合について:
例えば、用途地域内の道路用地である土地を、建物の敷地に供する目的で取引する場合には、上記3.の基準が適用される。従って、この場合は、用途地域内の道路用地が、宅地建物取引業法上の「宅地」に該当することになる。
宅地・不動産登記法における
土地登記簿の最初の部分(表題部という)には土地の「地目」が記載されている。地目は、「田」「畑」「宅地」「山林」「原野」など全部で21種類に限定されており、ここでいう「宅地」とは「建物の敷地およびその維持もしくは効用を果たすための土地」と説明されている。
なお、現況が明らかに「宅地」であるにもかかわらず、登記簿上の地目が「田」や「畑」となっている場合には、登記所に対して「地目の変更登記」を申請することが可能な場合もある。
多重債務者
複数の金融業者から借入れをして、返済困難に陥っている者をいう。
借入れの目的はさまざまであり、借入先も、消費者金融、信販・クレジット会社、日賦貸金業者、ヤミ金融など多様であるが、返済能力を超える債務を負っていることに変わりはない。また、返済金を用意するために借入れするという悪循環に陥っている場合もある。
多重債務者が債務を整理する方法には、各債権者と任意に交渉のうえ和解合意する方法(任意整理)、調停委員の仲介により協議和解する方法(特定調停)、裁判所に申し立てて返済負担を圧縮し返済計画を立案する方法(個人民事再生)、裁判所に申し立てて生活最低必需基準資産以外の財産を放棄するのと引換えに免責を受けすべての債務の支払義務をなくする方法(自己破産)がある。
立退料
借地・借家の明渡しの際に、賃貸人から賃借人に支払われる金銭をいう。
私法上の明確な支払い根拠はなく、その意味や金額は、慣習や事情に応じてさまざまである。
なお、借地借家契約の更新拒絶や解除の際に必要となる「正当事由」の判断に当たっては、立退料の提供如何も考慮される。
宅建試験
宅地建物取引業法第16条第1項にもとづき、都道府県知事が実施する資格試験のこと。正式名称は宅地建物取引士資格試験である。
宅地建物取引業に関して必要な知識について行なわれる試験で、試験科目は宅建業法、民法、都市計画法、建築基準法、税法その他。配点は50点満点。試験は例年10月の第3日曜日に実施される。
(詳しくは宅地建物取引士資格試験へ)
宅建免許
宅地建物取引業を営もうとする者は、都道府県知事または国土交通大臣に宅地建物取引業の免許を申請し、免許を受けることが必要である(宅地建物取引業法第3条)。
不正の手段で宅地建物取引業の免許を受けた者や、無免許で宅地建物取引業を営んだ者には、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金という罰則が予定されている(法第79条第1号、第2号)(詳しくは無免許営業等の禁止へ)。
免許を受けるには、宅地建物取引業を営もうとする者(個人または法人)が、一定の不適格な事情(欠格事由)に該当しないことが要件とされている(法第5条第1項)。
この免許の欠格事由は、法律により詳細に規定されている(詳しくは免許の基準へ)。
また、宅地建物取引業の免許を受けるには、免許申請書および免許申請書の添付書類を都道府県知事または国土交通大臣に提出する必要があり、その記載事項等は詳細に法定されている(法第4条第1項、第2項、施行規則第1条の2)。
なお、宅地建物取引業の免許の有効期間は5年とされている(法第3条第2項)。
免許の有効期間の満了後、引き続き宅地建物取引業を営むためには、有効期間満了の日の90日前から30日前の期間内に免許の更新の申請書を提出する必要がある(法第3条第3項、施行規則第3条)。
建売住宅
分譲宅地に建築され、敷地と一緒に販売される住宅をいう。
類似の用語として「売建住宅」があるが、建売住宅の建築主は不動産業者であるのに対して、売建住宅の建築主は宅地購入者である。
建付地
建物が存在している土地について、建物所有者と土地所有者が同一であるとき、この土地を「建付地」という。
建物明渡猶予制度
抵当権に対抗することができない賃貸借について、抵当権の実行による競売がなされた場合に、賃借人は競落人の買受の日から6ヵ月間に限り、当該不動産を明け渡さなくてよいという制度のこと。
民法の改正により、2004(平成16)年4月1日に創設された制度である。根拠条文は改正後の民法395条である。
1.建物明渡猶予制度の趣旨
ある不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は、本来ならばすべて抵当権に劣後するのが原則である。
従って本来は、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち抵当不動産が競売された)場合には、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができないはずであり、抵当不動産の競落後には賃借権者は当該不動産を直ちに明け渡さなければならないのが原則である。
しかしこれでは、正常に当該抵当不動産を利用していた賃借人も直ちに明け渡しに応じなければならないこととなり、賃借人にとって競売という不測の事態により思わぬ損害を受ける可能性がある。
こうした不都合を緩和するための措置として、従来は短期賃貸借保護制度が置かれていたが、民法改正によりこの制度は2004(平成16)年3月31日をもって原則的に廃止された。そこで、これに代わって創設されたのが建物明渡猶予制度である。
2.建物明渡猶予制度の内容
改正後の民法395条に規定されている建物明渡猶予制度では、建物賃借人は、建物の競売による代金を競売の買受人が納付した日から6ヵ月間は、当該建物の明渡しを合法的に拒むことができる。
この明渡しを拒む期間中は、建物所有者である買受人に対して、占有者(すなわち建物賃借人)は賃料と同額の金銭を買受人に支払う義務を負う。仮に、占有者が買受人からこの金銭の支払いを督促されたにもかかわらずこれを支払わない場合には、占有者はもはや明渡しを拒むことができなくなる(改正後の民法第395条第2項)。
3.抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度
以上のような建物明渡猶予制度のほかに、建物の競売がなされた際に立退きをすることなく賃貸借を継続できるという制度が、2004(平成16)年4月1日より設けられている。これは、改正後の民法387条に規定されている「抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度」である(詳しくは抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度へ)。
建物買取請求権
地主に借地上の建物を買い取らせることのできる権利をいう。
借地権が更新されないとき、または、借地上の建物を譲渡した際に地主が借地権の譲渡または転貸を承諾しないときに、借地権者または建物譲受人に生じる権利で、一方的な意思表示によって法律上の効果が生まれる(形成権)。買取価格は、時価とされる。
なお、定期借地権については、特約で定めない限り建物買取請求権は発生しない。
建物状況調査
既存の建物について、構造耐力上の安全性や雨漏り・水漏れ等の観点からその状態を確認すること。インスペクションともいう。
建物状況調査は、既存住宅売買瑕疵保険に加入するときなどに実施されている。
宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法に基づき、2018(平成30)年4月1日以降、建物状況調査に関して次のことを行なわなければならない。
・媒介依頼者に交付する媒介契約書に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載すること
・重要事項として、買い主等に対し、建物状況調査の実施の有無、その結果の概要、建物の建築・維持保全の状況に関する書類の保存状況を説明すること
・売買等の契約の成立時に交付する書面に、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を記載すること
建物譲渡特約付き借地権
新借地借家法(1992(平成4)年8月1日施行)により創設された定期借地権の一つ。
「建物譲渡特約付き借地権」とは、次の契約内容を含む定期借地権である。
1.設定から30年以上を経過した日に、借地上の建物を地主に相当の対価で譲渡する。
2.1.の譲渡がなされたことにより、借地権が消滅する。
従って、「建物譲渡特約付き借地権」の存続期間は少なくとも30年以上である。
また借地権が消滅した時点において、建物の借家人は、借地権を地主に対して対抗することができるとされている。
建物登記簿
1個の建物ごとに作成される登記記録のこと。
建物滅失登記
建物がなくなった場合に、当該建物に関する登記簿を閉鎖することをいう。
滅失登記は建物所有者等の申請によって行なわれるが、申請は滅失の日から1ヵ月以内にしなければならないとされている。登録免許税は非課税である。
なお、土地の売買や融資に当たって、建物滅失登記の確認を求められることがある。
他人効
代理の本質は、他人の行為の効果が本人に帰属するということである(これを他人効という)。
この他人効が成立する理論的根拠については、顕名説と代理権説が対立している。
1.顕名説
代理が成立するのは、代理人が顕名を行なうからであるという考え方。顕名は代理人が本人のために行動するという意思の表示であり、その顕名の効果として他人効が発生するという考え方である。
2.代理権説
代理が成立するのは、代理権が存在するからであるという考え方。法定代理では代理権は法律によって発生し、任意代理では本人が代理人に代理権を授与する。こうした代理権が存在するため、他人効が発生するという考え方である。
この代理権説に立つとき、顕名は代理の本質的要素ではないことになる。また代理権説に立つとき、任意代理の成立根拠は代理権授与行為であるとされる。
他人物売買
他人の物を売買すること。民法では、他人の物を売買する契約も有効な契約であるとしている。
本来、他人の物を売買することは当初から不可能であるので、そのような売買契約の効力を無効とするという考え方もあり得る。しかしわが国の民法では、他人物の売買契約であっても、当事者間(売り主と買い主の間)では有効な契約であることを想定した規定が定められている。
他人物を売買したときには、売り主は、権利を取得して買い主に移転する義務がある。この義務を果たせない場合には、売り主は契約不適合責任を負うこととなる。
この場合、履行の追完は無理であるから、損害賠償請求または契約解除権の行使によって契約不適合責任を追及することとなる
他人物売買の制限
宅地建物取引業者が他人物を売ること(予約を含む)を禁止する定め。宅地建物取引業法に基づく制限である。
ただし、宅地建物取引業者が、売ろうとする他人物を確実に取得する旨の別の契約または予約(効力発生について条件付きのものを除く)を締結しているときには、他人物売買は禁止されていない。また、換地処分の公告以前の「保留地予定地」の売買契約や、第三者のためにする契約によって他人の所有権を直接に買主に移転することを宅地建物取引業者が実質的に支配している場合の売買契約についても、契約締結を禁止する規定は適用されない。
なお、宅地建物取引業者同士の売買については、この制限は適用されない。
短期取得時効
所有の意思をもって物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度である(民法第162条)。
占有を開始した時点において自己の物であると信じ、そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを短期取得時効という(民法第162条第2項)。
これに対して、占有を開始した時点において悪意または有過失であれば、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という。
短期取得時効の成立要件は次のとおりである。
(地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ)
1.物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効は、そもそも継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるため、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また、物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2.10年間の時効期間が経過すること
占有が10年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3.平穏かつ公然に占有すること
通常は平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。
4.所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有にすぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
5.占有の始めにおいて善意かつ無過失であること
実際に占有を開始した時点において自己の不動産であると信じ、そう信じるについて過失がないことが必要である。ただし、占有の途中で自己の不動産ではないと気付いたとしても問題にはならない(あくまで占有開始時点で善意・無過失であればよい)。
短期賃貸借
賃貸借契約のうち、その期間が限定されているものをいう。
被保佐人もしくは被補助人(いずれも精神上の障害により事理弁識の能力が不十分(「被保佐人」は著しく不十分)であるとして家庭裁判所の審判を受けた者、「準禁治産者」を参照)であるため処分行為能力が制限されている者または権限の定めのない代理人等の処分権限を有しない者が賃貸借する場合には、賃貸借契約の目的物に応じてその期間が制限されている。例えば、山林以外の土地については5年、建物については3年である。
従来、この期間を超えない賃貸借については、抵当権の登記後に登記したものでも抵当権者に損害を与えない限りこれに対抗できるとされていたが、この規定を悪用する例があるため、その特例は廃止された(「占有屋」参照)。
短期賃貸借保護制度
抵当権が設定された不動産において、抵当権が登記された後に賃借権が設定された場合であっても、その賃借権が短期賃借権であるならば、その賃借権は抵当権に対抗できるという制度のこと。
(ただし、この短期賃貸借保護制度は平成16年3月31日をもって原則的に廃止されたことに注意)
1.短期賃貸借保護制度の趣旨
民法602条に定める短期賃貸借とは、土地は5年以内、建物は3年以内の賃貸借を指している。
ある不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は、本来ならばすべて抵当権に劣後するのが原則である。
従って本来は、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち抵当不動産が競売された)場合には、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができないはずであり、抵当不動産の競落後には当該不動産を明け渡さなければならないのが原則である。
しかしこれでは、抵当権設定後の当該不動産の賃借利用を事実上阻害してしまう恐れがあるとの配慮から、期間が短い賃貸借に限って、例外的に抵当権に対抗できる(すなわち、たとえ競売されたとしても当該短期賃貸借の期間中、賃借人は当該不動産を明け渡さなくてよい)こととされた。これが「短期賃貸借保護制度」である。短期賃貸借保護制度は改正前の民法395条に規定されていた。
2.短期賃貸借保護制度の具体的適用
短期賃貸借保護制度の適用にあたっては、具体的にどのような賃貸借が「民法395条で保護されるべき賃貸借に該当するのか」が問題となる。
判例によれば、競売のための差押えの登記がなされた時点において、賃借権の残存期間(継続的な賃貸借契約の場合は次の更新時期までの残存期間)が民法602条の短期賃貸借の範囲内であるか否かにより判断することとされている。
例えば、平成15年2月1日にある賃貸マンションに競売のための差押え登記がなされた場合に、その賃貸マンションの賃貸借契約の更新時期が平成15年12月31日であるとすれば、この賃貸借の残存期間は11ヵ月であるので、短期賃貸借に該当し、民法395条により保護されることとなる。
ただし、更新時期到来時にはこの賃貸借契約を更新することができないので、賃借人は平成16年1月1日以降はこのマンションを賃借することはできず、明け渡さなければならない。
3.短期賃貸借制度の廃止
このように、賃借権保護等のために一定の役割を果たした短期賃貸借保護制度であったが、平成15年8月1日に公布された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、平成16年3月31日以降原則的に廃止された(詳しくは短期賃貸借保護制度の廃止を参照)。
短期賃貸借保護制度の廃止
改正前の民法395条に定められていた短期賃貸借保護制度が法改正により廃止されたこと。その代わりとして、建物明渡猶予制度が創設されている。
1.短期賃貸借保護制度とは
抵当権が設定された不動産において、抵当権が登記された後に賃借権が設定された場合であっても、その賃借権が短期賃借権であるならば、その賃借権は抵当権に対抗できるという制度である(詳しくは短期賃貸借保護制度参照)。
2.短期賃貸借保護制度の廃止の背景・経緯
短期賃貸借保護制度は、抵当権設定後の抵当不動産の賃借利用を一定限度で保障する制度であったが、依然として占有屋等による競売執行妨害にこの制度が濫用されるという弊害があった。
また、賃貸借契約の更新時期と競売のための差押え登記の期日とが近接しているかどうかという偶然の事情により、賃借人が賃借を継続できる期間に著しい格差が生じるという問題点もあった。
そこで、2003(平成15)年8月1日に公布された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、2004(平成16)年3月31日以降、短期賃貸借保護制度は廃止され、その代わりに建物明渡猶予制度が創設されている。
3.短期賃貸借保護制度の廃止に伴う経過措置
「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」の施行日(2004(平成16)年4月1日)より以前に抵当不動産に設定された賃貸借については、依然として短期賃貸借保護制度が適用される(同法附則第5条)。
4.建物明渡猶予制度の創設
建物明渡猶予制度とは、抵当権に対抗することができない賃借権について、抵当権の実行による競売がなされた場合に、賃借人は競落人の買受の日から6ヵ月間に限り、当該不動産を明け渡さなくてよいという制度のことである(改正後の民法395条による)(詳しくは建物明渡猶予制度へ)。
単純承認
相続において相続人が留保なく相続を承認することをいう。
一方、留保をつけて相続することを「限定承認」という。
単純承認によって、相続人は、被相続人の債務について無限責任を負うなど、権利義務を無限定に承継する。
相続の開始があったことを知ったときから原則として3ヵ月以内に相続放棄や限定承認をしなければ単純承認をしたものとみなされるなど、実際の相続においては単純承認となるケースが多い。
単独行為
一人の1個の意思表示によって成立する法律行為のこと。
具体的には、遺言(民法第960条)のように、相手方の承諾なくして、ある人の一方的な意思表示で成立する法律行為である。また債務免除、解除なども単独行為とされている。
担保関係
人がある人に給付を要求できるという関係(債権・債務関係)において、その給付を確実なものとするために、担保によって債権を保全するという関係を「担保関係」という。
例えば、AがBから100万円を借りている場合に、その借入の担保としてAが自分が所有する土地を担保にしたとしよう。
この場合に、BがAに対して100万円の支払いを要求することができるという関係が債権・債務関係であり、この100万円の支払いを土地によって担保しているという関係が担保関係である。
担保関係は、債務者の信用を創出する手段などとして機能している。
担保責任
特定物の売買において、目的物が契約不適合であった場合に、売り主が負わなければならない責任。詳しくは、「契約不適合責任」を参照。
特定物とは、取引当事者がその物の個性に着目して取引する物のことで、美術品、中古車、不動産(土地・新築建物・既存建物)などである。このうち、不動産については、その性格から担保責任が問われる場合が多い。
なお、工事の請負などにおいても、引き渡した完成物について担保責任がある。
担保責任・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業者が自ら売り主として土地・建物を売却するときの契約不適合責任の特例をいう。特例は、1)買い主が契約不適合責任を追及できる期間を「土地・建物の引渡しの日から2年間」とすることができること、2)宅地建物取引業者が自ら売り主として土地・建物を売却するときには、契約不適合を担保する責任の内容について民法の規定よりも買い主に不利となるような特約をすることはできないこと(1の場合を除く)、である。
なお、新築住宅の売買契約については、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて、売り主の担保責任について特別の定めがある。この特別の定めは、宅地建物取引業法による担保責任に優先して適用される。詳しくは「売り主の瑕疵担保責任(品確法における~)」を参照。
担保物権
債権を保全するために設定される物権のこと。担保物権は約定担保物権と法定担保物権に分類することができる。
約定担保物権は、債務者の信用を創出するために、当事者の合意によって設定される担保物権であり、抵当権、質権がある。
法定担保物権は、政策的な必要性から、一定の事情がある場合に法律上当然に成立する担保物権であり、先取特権、留置権がある。
またこのほかに、民法第二編には規定されていない約定担保物権があり、変則担保と呼ばれている。具体的には、譲渡担保、仮登記担保、買戻、再売買の予約、所有権留保である。
第三者詐欺
詐欺により動機の錯誤に陥れられた者が、その錯誤にもとづいて意思表示を行なった場合には、その意思表示は取り消すことができる(民法第96条第1項)。例えば、AがBの詐欺によりBに対して土地の売却を行なった場合には、AはAB間の土地売買を、詐欺を理由として取り消すことが可能である。
しかしながら、詐欺を行なうのは取引の相手方とは限らず、相手方以外の第三者が詐欺を行ない、本人を錯誤に陥れる場合がある。このような詐欺は第三者詐欺と呼ばれ、民法第96条第2項が適用される。
例えば、AがCの詐欺によりBに対して土地の売却を行なった場合には、AはCの詐欺(第三者詐欺)のせいで錯誤に陥っているのであるから、本来ならば被害者であるAを保護し、AB間の土地売買を第三者詐欺を理由としてAが取り消すことを可能にすべきであるとも考えられる。しかし、もしAの取消しを常に可能とするならば、詐欺に関与していないBの取引の安全を著しく害する結果となり不当である。
そこで、民法第96条第2項では「相手方がその事実を知っていた場合に限り、本人は取り消すことができる」と規定し、本人保護と相手方保護の調和を図っている。つまり、上記の例で、Cの詐欺によりAが錯誤に陥っていることをBが知っていたのならば、そのようなBを保護する必要はないので、Aの取消しを可能にするという趣旨である。
なお、このようにAの取消しが可能な場合であっても、善意の第三者(例えば事情を知らないで上記のBから土地を購入してしまったD)が存在する場合には、AはDに対しては取消しの効果を主張することができないことに注意したい。
(詳しくは詐欺における第三者保護へ)
第三者のためにする契約
当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約をいう。
第三者の権利は、その者が受益の意思表示をしたときに生じることとなる。
第三者のためにする契約は、中間省略登記を合法的に行なうための手法の一つとして利用されている。この場合には、
1.第三者のためにする売買契約(A→B、所有権は直接Cに移転する特約付き)
2.他人物売買契約(B→C、Aの所有権をCに移転)
という2つの契約を締結する。これにより、A→B→Cという譲渡をA→Cと登記することができるとされる。
なお、宅地建物取引業者は、原則として他人物売買契約の締結が禁止されているが、第三者のためにする売買契約が締結されている場合などは例外とされる。
第三取得者
抵当権が付着している不動産を、抵当権が付着した状態のままで取得した者のこと。
第三取得者は、抵当権が付着している不動産(抵当不動産)の所有権を一応有してはいるが、債務の返済ができなくなった場合等では、債権者はいつでも抵当不動産を任意競売にかけることができる(抵当権の実行)。そのため、第三取得者は、所有権を喪失し、損害を受ける危険に常にさらされている。
そこで民法では、債権者(抵当権者)と第三取得者との利害の調和を図るために、「代価弁済」と「抵当権消滅請求」という2種類の仕組みを用意している(詳しくは「代価弁済」「抵当権消滅請求」へ)。
代襲相続
被相続人の子または兄弟姉妹が、相続開始前に死亡などによって相続できないときに、その者の子が、その者に代わって相続することをいう。代わって相続する者が「代襲者」である。民法に定められている制度である。
また、代襲者が相続開始前に死亡などによって相続できないときも、代襲者の子は代襲者に代わって相続できる。これを「再代襲」という。
代襲者の相続分は被代襲者の相続分と同じで、代襲者が複数いるときにはそれを均等に相続する。
代償分割
共同で相続した遺産を分割する方法のひとつで、協議によって遺産を特定の者が取得し、他の相続人に対しては代償金を支払う方法を言う。
相続した不動産などは、物理的に分割することが困難・不利益で、共有物にすると管理に支障が生じる恐れがあることなどから、代償分割によって相続されることが多い。
なお、共同相続遺産を分割する主な方法には、代償分割のほか、現物のままでそれぞれの遺産ごとに取得者を決める方法(現物分割)、遺産を売却してその収益を分け合う方法(換価分割)がある。
大臣免許
宅地建物取引業者が国土交通大臣から免許を受けていること。
宅地建物取引業を営もうとする者が、2以上の都道府県において事務所を設ける場合には、国土交通大臣から免許を受けることが必要とされている(宅地建物取引業法第3条第1項)。この規定にもとづき、国土交通大臣から免許を受けることを、一般に「大臣免許」または「国土交通大臣免許」と呼んでいる。
代表者印
会社の代表取締役の印鑑であって、登記所に対して印鑑届けを行なった印鑑のこと。
印影が円形であることが一般的なので、「丸印」とも呼ぶ。
代物請求
給付を受けた目的物が契約不適合である場合に、それに代わるものの給付を請求すること。私法上、目的物に瑕疵があるなど債務が完全に履行されていないときにはそれを完全なものにするための請求(追完請求)をすることができるが、代物請求はその方法の一つである。
代物請求は追完請求であって、本来債務の代わりに他の給付をして債務を消滅させる「代物弁済」の請求とは意味が異なる。金銭債務不履行の場合には不動産を引き渡して代物弁済することが多いが、代物請求はこれとは違い、たとえば引き渡した動産に瑕疵があるときに他の動産の引渡によって債務の完全履行を求めることである。不動産売買は種類売買(目的物を特定しないで種類のみを定める売買)ではないから、代物請求の余地はないという考え方もある。
なお、追完請求の方法には、代物請求のほか、修補請求、不足分の引渡し請求がある。
代物弁済予約
代物弁済とは、金銭債権を返済できないときに、物をもって弁済に代えるということである。
この代物弁済をあらかじめ予約しておくことで、その物を担保に入れたのと同じ状態に置くという方法が、代物弁済予約である。このような代物弁済予約に対しては、仮登記担保法が適用される。
(詳しくは仮登記担保へ)
代理契約・宅地建物取引業法における
宅地建物取引業者が、売買取引・交換取引・賃貸借取引について、売主の代理人や買主の代理人となって(または貸主の代理人や、借主の代理人となって)、取引成立に向けて活動するという意味である。
宅地建物取引業者がこうした活動を行なう際に、依頼者(売主・買主・貸主・借主)と宅地建物取引業者との間に締結される契約を「代理契約」と呼ぶ。
代理契約の方法や内容については、宅地建物取引業法第34条の2(および第34条の3)によって厳しい規制が加えられている。
代理契約に関する規制は、媒介契約に関する規制と同一であるが、報酬額の最高限度が異なっている。
代理権消滅後の表見代理
表見代理は、代理権のない者(無権代理人)と本人との特殊な関係によって無権代理人を真実の代理人であると誤信させ、代理権の存在を信じて取引した善意無過失の相手方を保護するための制度である。表見代理においては、その代理行為を代理権のある行為として扱い、本人に対して効力を生じさせる(取引の効果を本人に帰属させる)こととなる。
代理権授与表示による表見代理、代理権消滅後の表見代理、権限外の行為の表見代理の3種類がある。
代理権消滅後の表見代理は、代理権が消滅して代理人ではなくなった者が代理行為をした場合をいう。この場合には、代理権の消滅を知らない無過失の相手方は、本人に対して行為の効力を主張できる。
また、この場合に、無権代理者が与えられていた代理権の範囲外の行為をしたときも、代理権があると信ずべき正当な理由がある場合には、同様に、本人はその行為について責任を負わなければならない。
代理権消滅後の表見代理の例は、たとえば、委任契約を解除した後も元の代理人が委任状を利用した場合、本人が使用人の解雇を取引先に通知しなかった場合などである。
代理権授与行為
任意代理において、代理権が発生する根拠となる本人と代理人との合意のこと。
実際上は、委任契約・請負契約・雇用契約などを締結する際に、その契約と同時に、代理権授与行為がなされるのが一般的である。
代理権授与表示による表見代理
表見代理は、代理権のない者(無権代理人)と本人との特殊な関係によって無権代理人を真実の代理人であると誤信させ、代理権の存在を信じて取引した善意無過失の相手方を保護するための制度である。表見代理においては、その代理行為を代理権のある行為として扱い、本人に対して効力を生じさせる(取引の効果を本人に帰属させる)こととなる。
なお、表見代理には、代理権授与表示による表見代理、代理権消滅後の表見代理、権限外の行為の表見代理の3種類がある。
代理権授与表示による表見代理は、あたかも有効な代理権が存在するかのような表示(代理権授与表示)が本人によってなされた場合をいう。この場合には、その表示された事項を信頼して取引した相手方(代理権が不存在であることを知らず、かつ過失がない相手方)は、本人に対して行為の効力を主張できる。
また、この場合に、無権代理者が表示された代理権の範囲外の行為をしたときも、代理権があると信ずべき正当な理由がある場合には、同様に、本人はその行為について責任を負わなければならない。
代理権授与表示による表見代理の例は、たとえば、名義貸し(本人が他者に自分の名義で第三者と取引することを認めること)によって行なわれた他者と第三者との取引である。
代理行為の瑕疵
代理行為に関して意思の欠缺、瑕疵のある意思表示などの欠陥が存在することをいう。
瑕疵とは「きず」という意味である。
例えば、代理人が冗談で取引をすると意思表示をした場合には、この代理人の意思表示には、意思の欠缺(この場合には心裡留保)という欠陥が存在することとなり、代理行為に瑕疵があるということができる。
民法では、このような代理行為の瑕疵は、「代理人について判断する」と規定している(民法第101条第1項)。判例・通説では「代理における行為の主体は、代理人である」と考えられている(これを代理人行為説という)。この代理人行為説の立場からすれば、この民法第101条第1項は当然の規定であるということができる。
例えば、本人(A)が代理人(B )に土地の売却の代理権を与えたが、取引の相手方(C)が代理人に対して詐欺を働き、代理人を騙して土地を購入したとする。このとき、代理人について詐欺が成立しているので、Aは、101条第1項によりAC間の土地売買契約を詐欺による意思表示を理由として取消すことができる。
ただし、代理人Bが相手方Cに対して詐欺を働いた場合は問題である。民法第101条第1項ではこのような事態を予定していないからである。通説は、本人AがBの詐欺行為を知らない場合であっても、CはBの詐欺を理由として売買契約を取り消すことができるとする。
また、本人Aが相手方C対して詐欺を働いた場合はどうか。この場合には、一見、Aという第三者がBC間の取引においてCに詐欺を働いたという「第三者詐欺」に該当するようにも見える。仮に第三者詐欺に該当するのならば、Bが善意(=BがAの詐欺を知らない状態)である場合には、Cは取消しを主張することができなくなってしまう。
しかしこの場合には、AとBが代理関係にある以上、Aは第三者ではなく当事者であると考えるべきである。従って通説ではこの場合には、たとえBが善意(=BがAの詐欺行為を知らない状態)であったとしても、CはAに対して取消しを主張できると考えている。
代理・宅地建物取引業法における
不動産取引における宅地建物取引業者の立場(取引態様)の一つ。
宅地建物取引業者が、売買取引・交換取引・賃貸借取引について、売主の代理人や買主の代理人となって(または貸主の代理人や、借主の代理人となって)、取引成立に向けて活動するという意味である。
代理・民法における
代理とは、本人と一定の関係にある他人が意思表示を行ない、その意思表示の効果が本人に帰属するという法制度である。
代理の本質は、代理権を持つ者(代理人)が存在し、その代理人が行なった行為の効果が本人に帰属することであると解釈されており、このことを「他人効」と呼ぶ。この他人効がなぜ発生するのかという理論的根拠については、「顕名説」と「代理権説」が対立している。(詳しくは他人効へ)。
代理が成立するためには、本人と他人との間に一定の関係が存在することが必要であり、このとき他人は「代理権」を持つものとされており、このような他人を「代理人」と呼ぶ。
また代理において、行為の主体が本人であるのか、それとも代理人であるのかについて学説が分かれており、通説は代理人が行為主体であると考えている(代理人行為説)。
また、代理はさまざまに分類されるが、主な分類としては任意代理と法定代理がある。任意代理は本人と代理人との合意にもとづく代理権であり、任意代理が成立するには代理権授与行為が必要であるとされている。
なお、代理人が代理行為を行なうには、本人のためにすることを示すこと(=顕名)が必要とされている。
諾成契約
当事者の合意の意思表示のみで成立する契約。
民法は、基本原則として、契約は締結の申込みに対して相手方が承諾したときに成立する旨を規定し、売買契約、賃貸借契約などほとんど全ての契約について諾成契約としている。
また、契約の成立には、法令による特別の定めがない限り書面の作成などの方式を備える必要はなく、任意の意思表示で足りる。
断定的判断の提供
宅地建物取引業について禁止されている行為の一つで、契約締結の勧誘の際に、相手方等に対して、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供することをいう。
これに違反すれば、監督処分の対象となることがある。
なお、消費者契約法では、契約の勧誘の際に将来における価額など将来における変動が不確実な事項について断定的判断を提供され、それが確実であると誤認したときは、契約等の意思表示を取り消すことができるとしている。また、金融商品取引法でも、金融商品取引業者等に対して、顧客に対し不確実な事項について断定的判断を提供するなどして契約締結を勧誘することを禁止している。
地役権
地役権とは、他人の土地を自分の土地の利便性を高めるために利用することができるという権利である(民法第280条)。「通行地役権」などがある。
地価公示
最も代表的な土地評価である地価公示は、地価公示法にもとづき、国土交通省土地鑑定委員会が毎年3月下旬に公表する土地評価である。
地価公示では全国で選定された3万数千地点の「標準地」について、毎年1月1日時点を基準日として各標準地につき2名以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その正常な価格を土地鑑定委員会が判定し、毎年3月下旬に公示する。この公示された価格を「公示地価」という。
地価公示によって評価された公示地価は、一般の土地取引価格の指標となるだけでなく、公共用地の取得価格の算定基準ともなっている。
築年数
建物完成後の経過年数をいう。
通常、建物登記簿の表題部に記載された「登記原因及びその日付」をもとに判断できる。
一般に、築年数が古いほど、建物の老朽化や損傷、設備の陳腐化がより進行しているが、日常的な管理の状況や、リフォームの有無、マンションの大規模修繕の時期などによってその程度に大きな違いがある。
なお、不動産広告では、建築年月が表示されている。
地権者
土地を使用収益する権利を有する者。土地の所有者、地上権者、賃貸借権者などは地権者である。一方、土地に対する抵当権者などは地権者ではない。
知事免許
宅地建物取引業者が、都道府県知事から免許を受けていること。
宅地建物取引業を営もうとする者が、一つの都道府県内においてのみ事務所を設ける場合には、その都道府県の知事から免許を受けることが必要とされている(宅地建物取引業法第3条第1項)。この規定にもとづき、都道府県知事から免許を受けることを、一般に「知事免許」と呼んでいる。
地上権
建物や工作物を所有する目的で、他人の土地を使用する権利のこと(民法第265条)。
土地賃借権と地上権は非常によく似ているが、次のような違いがある。
1.土地賃借権は債権だが、地上権は物権である
2.地上権は、土地所有者の承諾がなくても、他人に譲渡することができる。
3.地上権を設定した土地所有者には登記義務があるので、地上権は土地登記簿に登記されているのが一般的である。
地上権等がある場合等における売主の担保責任
不動産の売買において、引き渡した不動産に、買い主が知らない地上権、対抗力のある不動産賃借権、地役権、留置権、質権が付着していた場合に生じる売り主の契約不適合責任をいう。
担保責任を負わせるには、買い主が、追完請求(付着した権利を消滅させるなどの請求)、代金減額請求、損害賠償請求、解除権の行使をしなければならない。
これらの請求等を行なうためは、買い主は、原則として契約不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知しなければならないとしている。ただし、売り主が不適合を知っていたときまたは重大な過失によって知らなかったときはその限りではないとされている。
地籍
土地について筆ごとに示される情報。
示される情報は、位置、形状、面積、筆界、利用の状態、所有等の権利関係などである。過去の位置関係、利用状態、権利関係などを含めていう場合もある。
現在の地籍を明らかにするための公的な調査が「地籍調査」、一定の地籍を表示するしくみが「土地登記」、登記された土地情報を表示する書類が「土地登記簿」である。また、課税のための土地台帳には、地価のような登記で表示されていない地籍が表示されている。
地積
土地登記簿に記載されている土地の面積をいう。
この地積は、明治初期の測量に基づく場合がある等の事情により、不正確であるケースが少なくない。
そのため、土地の売買にあたっては、土地登記簿の地積を信頼するのは危険であり、実際に測量をすることが望ましいといわれている。
地代
借地契約や土地賃貸借契約において、借主が地主に対して支払う賃料のこと。
地番
土地登記簿の表題部に記載されている土地の番号のこと(不動産登記法第79条)。
民有地には地番が付されているが、公有地は無番地であることが多い。
なお、分筆された土地の場合には、原則として分筆の旨を示す記録・記号が付けられている。
地目
登記所の登記官が決定した土地の主な用途のこと。
土地登記簿の最初の部分(表題部という)には、土地の所在、地番、地目、地積(土地面積)が記載されている。
地目は、現況と利用状況によって決められることになっており、次の23種類に限定されている。
田、畑、宅地、学校用地、鉄道用地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、
墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、
堤、井溝、保安林、公衆用道路、公園、雑種地
地目の変更
土地登記簿上の「地目」が、実際のその土地の現況および利用状況と明らかに食い違う場合には、登記所に対して「地目の変更登記」を申請することができる。例えば、農業委員会から農地の転用許可を取得して、農地を宅地にした場合には、登記所に対して「地目の変更登記」を申請することとなる。
また農地の転用許可を取得しない場合でも、20年以上の長期間にわたって農地が耕作されていない等の場合には、当該市町村の農業委員会から「非農地証明」を取得した後に「地目の変更登記」を申請することが可能とされる場合がある。
仲介
不動産取引における宅地建物取引業者の立場(取引態様)の一つ。
「媒介」と同意。
仲介契約
「媒介契約」へ。
仲介手数料
宅地建物取引業者を通して不動産を売ったり買ったり、あるいは貸したり借りたりする場合に、媒介契約にもとづき、宅地建物取引業者に成功報酬として支払うお金のこと。
媒介手数料(媒介報酬)ともいう。
仲介報酬
媒介報酬とも。宅地建物取引業者の媒介により、売買・交換・貸借が成立した場合に、宅地建物取引業者が媒介契約にもとづき、依頼者から受け取ることができる報酬のこと(詳しくは報酬額の制限へ)。
中間金
中間金とは、売買契約が成立した後に、売買代金の一部として買主から売主へ交付される金銭のこと。契約成立から義務履行(財産移転)までの間に支払われるので、中間金と称する。
また、手付は契約の義務が履行されれば代金に充当されるのに対して、中間金は交付される時点ですでに代金の一部である。
中間省略登記
不動産の所有権が、AからB、BからCへと移転した場合、本来ならば不動産登記簿には「AからBへの所有権移転登記」と「BからCへの所有権移転登記」という2個の移転登記が記載されるべきである。
しかし当事者(A・B・C)が相談のうえ、「AからCへの所有権移転登記」という1個の移転登記のみを申請し、登記するケースがある。このような登記を「中間省略登記」と呼んでいる。
中間省略登記は、権利が移転する実態を反映していない登記ではあるが、少なくとも現在の実態(Cが所有者であるという事実)には合致しているので、すでになされた中間省略登記は、当事者全員の合意があれば、有効であるものと解されている。
また不動産取引の実務上は、後日紛争になった場合に備えて、中間者(先ほどの例でいえば、登記簿上に現れないBを指す)から、中間省略登記をなすことについて異議がない旨の承諾書を徴収しておくのが望ましいといわれている。
長期取得時効
取得時効とは、所有の意思をもって物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度である(民法第162条)。
占有を開始した時点において自己の物であると信じ、そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができる。これを短期取得時効という(民法第162条第2項)。
これに対して、占有を開始した時点において自己の物でないことを知り、または過失によって知らない場合(つまり悪意または有過失の場合)には、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という(民法第162条第1項)。
長期取得時効の成立要件は、ほぼ短期取得時効の成立要件と共通であるが、次のとおりである。
(なお地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ)
1.物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効はそもそも、継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるので、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2.20年間の時効期間が経過すること
占有が20年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3.平穏かつ公然に占有すること
通常は、平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。また、占有者が自己の物でないと知っていても「平穏な占有」である。
4.所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有に過ぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
調停調書
紛争を解決するために当事者が互いに譲歩して合意に達することを「和解」というが、これに対して、当事者以外の第三者が介入することにより当事者間の合意を形成することを「調停」という。
民事調停法にもとづく民事調停手続きでは、当事者の一方が簡易裁判所(または地方裁判所)に調停を申し立て、裁判官と調停委員が調停案を作成し、当事者双方が調停案に合意すれば、調停調書が作成される。
このようにして作成された調停調書は、債務者に給付義務を強制的に履行させる手続き(強制執行)を行なう際に、その前提として必要とされる「債務名義」の一つである。
聴聞
行政機関が処分に先立ち、相手方や関係人に意見を述べる機会を与える手続きをいう。
行政手続法では、聴聞は、不利益処分のうち相手方に対する打撃の大きな許認可の取消しなどについては聴聞を義務付け、それ以外の場合には弁明の機会を付与するとしている。聴聞は口頭で審理が行なわれ、当事者には証拠書類等の提出、文書閲覧などが認められている(弁明は原則として書面の提出で行なう)。
宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者に対する指示または業務の停止、および、宅地建物取引士に対する指示またはその事務の禁止の処分については、行政手続法の規定にかかわらず、すべての場合に聴聞を行なわなければならないとしている。そのほかの監督処分を行なう場合にも、行政手続法に従って聴聞が行なわれ、または弁明の機会が付与されるのは当然である。
定期借家契約
平成12年3月1日の改正法施行により、借家契約時に貸主が「期間の満了により契約が終了する」ことを借家人に対して、公正証書などの書面を交付して説明する場合には、賃貸期間が終了すると借家契約も終了し、借家人は退去しなければならないとする契約。
原則として契約の更新はできず、再契約には貸し主・借家人双方の合意が必要である。
テラスハウス
2階建ての連棟式住宅のことをいう。
隣家とは共用の壁で連続しているので、連棟建て、長屋建てともいわれる。
各住戸の敷地は、各住戸の単独所有となっている。
ら行
礼金
建物の賃貸借契約を締結する際に、借主から貸主に対して、謝礼として支払われる金銭をいう。
契約が終了しても通常、借主に返還されない。